人間の老人ホームと同じ。ひとりで抱え込まないで

──老犬ホームに預けるというのは、一種、“姥(うば)捨て山”のような後ろめたさと飼育放棄したような罪悪感が生まれてくるような気がするんですけど……。

私はそういう老犬ホームに対する間違ったイメージも変えていきたいと思ってるんですよ。私の考えだと、例えば粗相をしたときに飼い主さんが悲しい顔をしたりするとわんちゃんにも伝わるので、楽しく介護してあげないと逆にわんちゃんたちが落ち込んでしまってかわいそうな気がしています。また、夜鳴きでご近所からクレームがあったり、トイレがうまくできなくて糞尿まみれのわんちゃんを見て、飼い主さんのほうが精神的に参ってる場合もあるんです。わんちゃんのお世話で寝られないけど、明日も仕事があるという方も多いですし。

 人間の老人ホームと同じだと思ってください。ひとりで抱え込まず、まわりに助けてもらいながらみなさん介護をしてるじゃないですか。それと同じです。だから、罪悪感や後ろめたさなんて持たないでほしいんです

──老犬ホームを利用する人ってどんな方が多いんですか?

わんちゃんが高齢になって家族が介護できなくなってしまったという方や、わんちゃんのほうは元気なんだけど飼い主さんのほうが高齢で要介護になってしまったり、家族の介護をしないといけなくなってしまったという方が多いですね。

 ただ、すぐ老犬ホームへ入所させたいということではなく、例えば親類の方がわんちゃんを引き取るという選択肢もあるんですけど、共働きだったりお子さんがアレルギーを持っていて飼えないという方々もいらっしゃいます。

 私たちも無理に老犬ホームを勧めたりはしていません。一生預かりだと、金銭面において負担になったり、飼い主さんも愛犬に対して申し訳なさが先に立ってしまうときもあるので、2〜3日とか1週間、お試しで預けてみてはどうかというアドバイスをしています

──それで一生預かりを決断する方もいらっしゃるんですね?

「結構いらっしゃいます。実際にご利用されて、わんちゃんが元気になって帰宅したというケースが比較的多いんです。それで老犬ホームに預けることにしたら、面会に行くと家にいたときより生き生きとしていて、預けてよかったという声をよく聞きます

『老犬ケア』では全国の老犬ホームの施設情報のほか、介護情報やコラムなどお役立ち知識も盛りだくさん

価格と立地だけで決めないこと

──老犬ホームに預けることになってもお金の心配があります。どれくらいの費用がかかるものなんでしょうか?

預けるホームによっても金額が変わってきますが、例えば一生預かりの入居金のだいたいの相場は、半年更新で小型犬が30万円、中型犬が50万円くらいです。高く感じるかもしれませんが、これを1日に換算すると1700円~2700円になります。わんちゃんを飼っていらっしゃる方はわかると思いますが、ペットホテルだったら1泊で3000円とか4000円はしますから、決して高い金額ではないでしょう

──なるほど。1日2000円で介護やお世話をしてくれると考えると、飼い主さんにはありがたいですね。

「預けることが大前提ではないですが、愛犬が年を取ったら大きな病気をするかもしれない。そういう意味でも、ゆくゆくお金がかかるということを飼い主さんが想定して、わんちゃんが若いうちから準備しておくのはすごく大事だと思います

――プロの目から見たホームを選ぶときのポイントを教えてください。

下見はもう大前提ですね。リブモが運営しているサイト『老犬ケア』で紹介している老犬ホームは、私が下見をして、直接オーナーさんとも膝を突き合わせてお話しした、信頼するホームばかりです。基本的には飼い主さんをサポートする思いがあって、わんちゃんによりよい生活をさせてあげたいという前提で運営してる施設を載せています。

 だいたいご自宅から近くて安いところを探してほしいとおっしゃる飼い主さんが多いんですけど、強く訴えたいのが、価格と立地だけで決めないでということ。東京都心の施設と比べて千葉や埼玉などの郊外の施設は安くなる傾向があります。また、施設によっては夜間は無人になってしまうところもあれば、少し料金が高くても24時間スタッフが常駐しているところもあります。他にも病気の不安があるので医療的にもサポートをしてもらいたいとか、どういうサービスを受けたいのか整理して、サービスの内容をよく見てほしいと思います。

 その子が今まで送ってきた生活を踏まえて選ぶことも大切です。寂しがり屋の子だったら、オーナーさんがご自宅の一角を使われてるようなところを選ぶと常に人の気配を感じられていいでしょうし、まだ走り回る元気がある子だったら広いドックランを完備したところがいいでしょう。

 あと最後にもう1つ大切なのは、施設の方と相性が合うかどうかです。ホームを見学した後、責任者の方と納得いくまで話してほしいと思います。わんちゃんの命を預けるわけですから、もし預けた後に容体が急変して、万が一息を引き取るようなことがあったとき、恨んだりするようならやめたほうがいいです

──わかる気がします。最後は、飼い主さんとホームの信頼関係になってきますね。今後も老犬ホームは増えていくと思いますか?

「増えていくと思いますが、老犬ホームの認知の広がり次第だと思ってます。老犬ホームがあることを多くの方に知ってもらえば、一生預かりという選択だけでなく、ショートステイやデイサービス、訪問介護などのサポートを受けながら家で一緒に暮らし続けることもできますし。“老犬ホームを利用した飼い方もありだよね”と、考え方が変わっていけば増えていくのではないでしょうか

*Part2(【老犬ホームに潜入取材】愛犬を預けることは「悲しい結末」ではない、“第2のわが家”のような癒やしの居場所)では、老犬ホーム潜入ルポと利用者さんのインタビューをお届けします。

老犬ケアHP:https://www.rouken-care.jp/

(取材・文/花村扶美)