グレ1歳、マミー60歳に。還暦を迎えて感じた“風”

 グレとわたしは同じ4月生まれ。わあ、すごい偶然、運命を感じる、と思っていたが、猫の出産は春らしいので、そんなに意味づけることもないようだ。

 グレ1歳、マミー60歳の誕生日を一緒にお祝いできたのはうれしかった。そのときの写真がこれだ。写真立て入れてずっとリビングに飾っている貴重な1枚だ。マミーも若いがグレも幼稚園児ぐらいかな。

グレちゃん1歳、マミー還暦のバースデーを一緒にお祝い

 気がつくと、わたしは還暦という信じがたい年齢になっていた。もともと軽い人間なので若く見られがちだが、本当は、孫がいてもおかしくない年齢だ。シングルでいると、子どもの入学式、卒業式などの人生の大きな節目になる行事がないので、自分の年齢を認識する機会がないといえる。子どもや家族を持たないわたしのような人は、苦悩も少なく気楽な人生ではあるが、人間としての成長の機会は失われている気がする。

 39歳で幸運にも物書きとして自立できたわたしだが、60歳を迎えたころから、心の中にすきま風が吹き抜けるような気がしてきた。還暦という通過点は大きい。年齢を嘆いているのではない。このままでいいのかという、今まで感じたこともないヒヤッとする風だ。今はまだ現役だからひとり暮らしの危機感はないが……もっと老いたらどうなるのか……?

 そのころ『ひとりの老後はこわくない』という単行本を上梓したばかりだったが、自分で決めたタイトルが、うそっぽく感じられた。「あなた、ひとりで老いるのが本当にこわくないの?」とわたしに問う。

 家もある、仕事もある、友達もいる、猫もいる、好きなことをしながらの充実した毎日を送っている。それはうそではない。しかし、この生活をずっと続けていていいのか。何かが足りない。何かが間違っているような気もする。初めて、そんな後ろ向きな自分を発見して驚く。

そんなにぐにゃぐにゃなら、中国雑技団に入れるね

 そんなマミーの気持ちなどおかまいなく、グレはぐにゃぐにゃポーズでソファの間に挟まって寝ている。グレはどんな環境でも幸せそうだ。「グレはすごいね」と感動して抱きしめようとしたら、ものすごい勢いで逃げた。

*第5回に続きます。