4コマ漫画の「起・承・転・結」から、漫画づくりの基礎を学ぶ

『さくらちゃんがくれた箱』 のひとコマ。『あたし、時計』と同様、SNSでも話題になった人気作

──大学は芸術系や創作系の学校へ進学されたんですか?

「いえ、普通の4年制の大学です。進んだ学部も、創作とは一切関係ない学部でした。なので、漫画について、学校で何かを勉強したわけではないです。完全に独学でしたね

──いちばん最初に描いた漫画は、どんなものだったのでしょうか?

最初は4コマ漫画でした。もともと4コマをやりたかったわけではないのですが、“起・承・転・結”という創作の基礎となるものがすべて入っているジャンルなので、勉強のために描いてみたというイメージのほうが強いです。また、漫画のコマ割りをいちから考えて描くには、そうとうな体力と気力が必要になります。なので、まずは慣らし”という意味で4コマ漫画から始めて、そこから順を追って、今のようにストーリーを重視する作品も描くようになっていきました

小田桐圭介作『さくらちゃんがくれた箱』 物語は少年が昔を懐かしむところから始まる

──どんな4コマを描いていたんですか?

「結構シュールな内容ですね。好きな漫画家に榎本俊二(えのもと・しゅんじ)さん(※)がいるのですが、シュールな笑いをテーマとした作品が多くて、影響を受けながら描いていました。公開していないですし、人に見せられるレベルのものではないですけれど」

(※ ハイテンション、不条理ギャグなどのシュール、エロ系、下ネタ系の作品で有名。代表作は『GOLDEN LUCKY』、『えの素』など)

──小田桐さんの作品の特徴でもある、人間のドロドロした部分や、絵柄とは対照的である過激な表現を描いたりする理由は、そこからきているんですか?

あ、それは純粋に、私がそういうのを好きだからだと思います。小さなころから書きためていたメモを見返すと、“悲しいことも起きるときには起きる”とか、“人間って大きな力には抗(あらが)えない”というような、他人から見たら切なくなる話とか、無情に見える内容が多かったんです。そういうものを昔から考えていたので、これは自分の性格だと思います

──小さなころから、そんな悲観的な考えがあったんですね。

「なぜだか、そうですね。榎本俊二さん以外で影響を受けた人物だと、幼稚園のころにとても好きだった、長新太(ちょう・しんた)さんがいます。絵本をたくさん書いた“ナンセンスの神様”と言われている方なんですけど、絵本なのにストーリーがほとんどなくて、大人が見るとほとんどの人にとって意味不明に映ると思える内容が多いんです。でも、子どもが読んだら、その不思議な世界がすごく楽しいという作風の方です

──子どもにしかわからない面白さがある本ですか。すごい作品ですね。

「はい、大人になって見返すと、何が面白く感じたのか説明できないんですけど、とにかく子どものころは気に入っていたんです。“大人がこんなふうに子どもの感性を忘れずに書けるのは、天才だな”って尊敬しています。長新太さんが出した漫画に『なんじゃもんじゃ博士』っていう作品があるのですが、ずっと持ち歩くほど好きでした。自分が描く物語の下地は、そこにあるのかもしれません

小田桐圭介作『さくらちゃんがくれた箱』 さくらちゃんにもらった箱からは、さくらちゃん本人が登場する

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 学生時代から計画性を持ち、さまざまな創作に触れ、自分の世界観を作り上げてきた小田桐さん。自身の性格や思いを漫画に描き起こし、根強いファンを生んでいる裏には、小田桐さんの人知れぬ努力がありました。

 次回、小田桐圭介さんインタビュー第2弾は、小田桐さんが漫画コンクールで受賞した際のエピソードなどをお伺いします。

(取材・文/翌檜 佑哉)


【PROFILE】
小田桐圭介(おだぎり・けいすけ) ◎大学入学時から漫画を描き始め、同人誌即売会「COMITIA」などで販売。会社員として働くかたわら、2010年の秋に『月刊アフタヌーン』主催の漫画新人賞「アフタヌーン四季賞」で佳作を受賞。Twitterに漫画を投稿したことがきっかけで『あたし、時計』『さくらちゃんがくれた箱』といった短編作品がバズり、数年おきに注目を集めるロングヒットになっている。作品に『オダギリックス!小田桐圭介短編集』『香夜たちの話』などがある。

◎公式Pixiv→https://www.pixiv.net/users/37972190
◎公式Twitter→@odagiri_keisuke
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