ネット前夜の時代、個人売買の情報誌で一財産を築いた者も?
──裏原で最も人気が高騰したアイテムはどれになりますか?
「パッと思いつくのがAFFAのMA-1とか、グッドイナフのファーストスタジャンとかですかね。身内用に作って余ったものだけを店頭に出すような売り方だったから、一般人の手にはほとんど渡ってないアイテムです。僕も最初は頑張ってレアアイテムを手に入れるため都内のショップに並んでましたが、地方のショップから通販で買えることを知ってからは、すっかり並ばなくなりました」
──NOWHERE前橋店がオープンすると、原宿店で目当てのアイテムを買えなかった人がそのまま前橋に遠征するという話も聞きました……。
「前橋店も通販してくれるので僕も当時は頻繁に利用しましたね。メルカリもヤフオクもない時代は個人売買の情報誌で、裏原アイテムのやり取りをするマニアが多くいました。有名なのは『クアント(※5)』という雑誌ですね。今では考えられない個人情報がバリバリ載っているという(笑)」
(※5)ネコ・パブリッシング刊の個人売買情報誌。2000年代に入ると、おもちゃやフィギュアの情報誌にリニューアル。2012年7月号をもって休刊。
──『クアント』、ありましたね! 無料で掲載できるスペースは文字数が限られているので、ブランドの頭文字だけが並ぶ暗号のような文章だらけでした。「G、U、APE、NH売ります」みたいな。
「グッドイナフ、アンダーカバー、エイプ、ネイバーフッドの略ですよね(笑)。僕はあの雑誌の売買でもうけて、地方のショップオーナーになった人を知ってますよ。常連でよく掲載されていた人なので名前を覚えてたんですけど、何年か後に某ブランドの限定アイテムを買うために、とある地方のショップに足を運んだんです。そこでオーナーからもらった名刺の名前がまさにその人で(笑)」
──クアント長者ですか。差し支えなければそのショップ名を……。
「F県のCという名前です(笑)」
世代も海も越えて愛される裏原カルチャー
──それにしても、こういった20年以上前のファッションに興味を持つ若者が一定数いるというのは驚きですね。
「渋谷と表参道の間にある『blue room』という古着屋は、今回お話しした'90年代の裏原ブランドを取り扱っていますが、経営しているのは20代の若者なんですよ。僕が2018年に古本のイベントをやってたときにお客さんとして来てくれて。当時は文化服装学院の学生でしたけど、ものすごいマニアックな質問をしてきて驚きました。
海外にも詳しい人はたくさんいます。アンダーカバーはパリコレにも参加経験がありますし、NIGO(R)さんも先日『KENZO』のアーティスティックディレクターに就任されて、海外での知名度は高いですから。彼らのルーツとして90年代のファッション誌が注目されている、なんて話も聞きます。以前、インスタにステューシーの古いカタログを載せてたら、アメリカ人から売ってほしいというDMが来たことがあります」
──それは売ったんですか?
「まあ、少しだけ手数料を乗せた価格で販売しました。向こうも喜んでくれたのでWin-Winかなと(笑)」
──では、堀田さんの今後の展望を教えてください。
「最終的には僕の好きなものだけで構成された雑誌を作りたいんですよね。あとは、地方に行くと私設図書館みたいなスペースがあるので、そういったこともできればなと。雑誌を売らなくても、同じ趣味を持つ人を呼んで楽しく話ができればいいんです」
──トークイベントなんかもできそうですね。
「20年以上前に買った雑誌がこうやって、新たな生を受けて世代を越えて愛されていることにびっくりです。トークイベント、ぜひやりましょう!」
https://www.instagram.com/tunelessmelody_bookstore/
(取材・文/松山タカシ)