──ラッセル・クロウもかなり低音で、ぼそぼそとしゃべる感じですが?
「それはあまり気にならなかったです。収録に入ってからも、それほど苦労しませんでした。ケビン・ベーコンは憂鬱(ゆううつ)になるくらい気になるのにね(笑)」
──その後、『スリーデイズ』『パパが遺した物語』など、現代劇を演じる作品も数多く声を当てています。
「彼は作品ごとにさまざまなタイプの役を演じていますね。作品一つ一つに対する力の入れ方は、相当なものがあると感じます。だから、吹き替えをするときも、そういう雰囲気に乗せられて自然と力が入るというのはありますね。
先日も、FOXニュース創立者のロジャー・エイルズを演じた『ザ・ラウデスト・ボイス―アメリカを分断した男―』というドラマを見ましたが、別人のように激太りしたメイクは圧巻でした」
監督に「もっと若々しい声で」と言われる
──ジェイソン・ステイサムは合わせやすい俳優と言われてましたが、ラッセル・クロウとはだいぶ違いますか?
「当然、違ってきます。でも、それは俳優が違うからと言うより、役柄によって変わるのだと思います。キャラクターや設定年齢などにもよるのではないでしょうか」
──ご自身の年齢よりも若い役のときには、なにか工夫されていますか?
「少しキーを高めにするのと、口角を上げてはっきり発音するようにしています。ぼくはもう60歳を過ぎていますが、青年の役にふだんに近い声を当てると、監督に“録り直しましょう、ちょっと声が老けすぎているかも”と言われたりするんですよ(笑)」
──逆に、自分より歳上の役の場合は?
「そっちのほうがまだやりやすいですね。それでも作った感じにはなりますけど。ぼくが芝居でお年寄りの役をやると、青年座の後輩たちに“ワンパターンだなあ”とイジられます(笑)。
実際に高齢者の吹き替えをやるときには2つのやり方があって、1つはかすれたような声にすること。もう1つが、ダミ声のようにするかです。それを役柄や映画の雰囲気に応じて使い分けたり、アレンジするようにしているんですけどね」
──悪役と善良な役との演じ分けの心得などはありますか?
「やっていて圧倒的に楽しいのは悪役です。悪役って、ふつうに生活していたらできないことや、やっちゃいけないことを平然とやってしまうじゃないですか。現実離れしたシーンも多いし。そういう役を演じているとアドレナリンが出るんですかね。ストンと役に入れるんですよ。それは楽しいです(笑)。
そういった意味では、ラッセル・クロウは、古代のよろいをまとった姿で重量感のある役を演じきったと思いきや、次は現代劇でスマートなジャケットを着こなすなど、役の振り幅が大変広いじゃないですか。吹き替えをしていても、そのつど演じ方がまったく違ってくるところが楽しいですね」