配信ドラマは1話見ると全話見てしまうから見ない

──仕事を忘れて、趣味で映画をご覧になることはありますか。もともと映画はお好きなんですよね?

「好きです。ぼくが映画を好きになったのは中学生の頃からです。三重県の伊賀で生まれ育ちましたが、田舎だったので映画館のある町までバスで行って映画を見ていました。上京してからは、いわゆる“二番館”や“三番館”と言われた映画館に通いました。

 あ、いまの若い人は“二番館”と言っても知らないのか……、二番館というのは新作映画が封切られてしばらくたった頃、少し料金を安くして上映する映画館のことです。さらに時間がたって、もっと安く見られるのが三番館です。若い頃はそんなにお金があるわけじゃないですからね、映画を見るときはもっぱら二番館か三番館でした。

 この仕事をするようになってからは、映画館から足が遠のきました。というのも、仕事がらみで新作を見られるようになったからです。でも、たまに配信で映画を見ることはありますよ。ドラマは一度見始めると止まらなくなるので避けるようにしていますが。カナダで制作された『ヴァイキング~海の覇者たち~』というドラマはシリーズ全79話、しっかり見ちゃいましたけど(笑)

山路和弘さん 撮影/山田智絵

──声優の目でドラマを見てしまうこともありますか?

「ないとは言い切れませんが、声の仕事より美術とかセット、衣装などに目が行きます。“このドラマ、金かかっているなあ”とか。特にイギリスの芝居って、衣装がすごく凝っているんですよね。どうしたらこんなふうにできるんだろうと考えてしまう。

 ドラマや芝居に対する意識や認識、文化としてのとらえ方などは日本とイギリスとでは異なるので比較するのは難しいですが、海外の芝居やドラマを見るたびに、日本はもっと衣装やセットなどへのお金のかけ方を大事にしないといけないなと痛感しますね

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 ラッセル・クロウのように全力で演技をしている姿を見ると、吹き替えをしながら自分も役に入り込んでしまうと言う山路さん。俳優の精神が崩れゆくときの吹き替えが楽しかったり、悪役のほうが非日常を疑似体験できて面白いと感じたり、たいへんなお仕事なのに随所で声優ならでは楽しみ方や喜びを見出しているようです。仕事にやりがいを感じている方の言葉には説得力がありますね(後輩たちにイジられるような一面もお持ちのようです)。

 さて、次回はいよいよ最終回。山路和弘さんには、韓国を代表する俳優ソン・ガンホの吹き替えで感じたアジア人俳優ならではの難しさや、英語圏の俳優とは違う吹き替えのコツなどを伺います。

◎第4回:山路和弘さん#4「ソン・ガンホは、あっという間に“腐った魚の目”ができる役者になった」(10月1日19時公開予定)

(取材・文/キビタキビオ)

《PROFILE》
山路和弘(やまじ・かずひろ) 1954年、三重県生まれ。1979年に劇団青年座に入団後、舞台を中心にドラマ、映画で活躍。声優としても洋画の吹き替えを中心に多数の役を担当している。歌唱力にも定評があり、2011年に出演したミュージカル『宝塚BOYS』『アンナ・カレーニナ』で第36回菊田一夫演劇賞(演劇賞)を、2018年には第59回毎日芸術賞を受賞。近年はアニメーションの出演も多く、『進撃の巨人』『ONE PIECE』『SPY×FAMILY』などの人気作品にも出演。現在、放送中のNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』では、前田善一役で出演している。