新しいスタート

 早朝、様子を見にいくと、母は亡くなっていた。

 自宅でなくなったので、警察の現場検証もドラマのように行われた。

 チョビに母とお別れの対面をさせた後、僕の部屋に連れて行き、ここにいてねと言い聞かせた。鑑識の方に状況を聞かれている時、上から扉を叩くようなドン、ドンと言う音が聞こえた。現場は当然凍りついた。何の音ですか?と何か疑わしい視線を向けられた。実は上の部屋に猫が……と言うと、そのおじさんも猫を飼っているらしく、じゃあ上で一緒に話を聞きましょうと笑顔で言ってくれて、扉を開けるとチョビが大きな声でニャアーと鳴いた。

 鑑識の方が「そうか君も一緒にお話したかったのか、偉いなあ、可愛いなあ」と撫でてくれて、チョビは誇らしげだった。僕が抱えると大人しくなり、真剣な顔で一緒に話を聞いていた。

 会社を離れてから、親戚付き合いもなくなっていたので、代わりに友人たちがたくさん集まってくれて、告別式が終わるまで、仕事を調整したり、休んだりしながら、ローテーションを組んで側にいてくれて、本当にありがたかった。

 セラピストの友人が、毎日眠る前にマッサージをしてくれた。朝昼晩と誰かがご飯を作ってくれたり、買って来てくれたり、贅沢な時間だった。お通夜の後には、好きだった韓国料理屋さんに行って、友人が「要ちゃんスタミナつけなきゃ」とサムギョプサルのニンニクをたくさん食べさせるので、翌日の告別式はニンニク臭かった。

 告別式の後は、行きつけだった蕎麦屋さんへ行き、たくさん食べて、飲んで、たくさん笑った。悲しんでいるよりも、友達とくだらない思い出話で笑っているほうが、母だって安心するはず。

 四十九日の納骨まで、母の遺骨は和室の祭壇に置いていて、チョビはずっとその側を離れようとしなかった。

 実家は会社の名義だし、返さなくてはいけなかったので、カレンダーに猶予時間とゴミの日を書き出して、とにかく片付けた。

 母の整理術は完璧だったから、片付けは本当にやりやすかった。これからチョビと二人、新しいスタート。持って行けるものなんてどうせ限られている。生まれたばかりの頃の何冊かの僕のアルバム、父と母の結婚式前後のアルバムだけを抱えて、あとはだいたい処分した。母はもうこの世にいない、実家も返すから帰る場所なんてない。この後、待ち受ける予想外の運命など知らずに、チョビとの暮らしはこうして始まった。

《夢が一つだけあるとするならば、猫になって一緒に遊びたい、ゴロゴロしたい。言葉なんていらないけどね。》 要一郎さんのインスタグラム(YOICHIRO_ASO)より

(第4回は11月5日18時公開予定です)