クラフトビール屋は、面白いが儲かりにくい!?

──クラフトビールブリュワーになってよかったと思うことはありますか?

毎週水曜日に朝8時半から1人でビールを作り始めて、17時半くらいに清掃を終え、そのあと自分が作ったビールを飲むんです。そのとき、“おいしい。幸せだ”って思います。例えば、自分で作った野菜を、自分で食べるのと同じようなものかもしれません。ものを作るサイクルは、人生を幸せにするんだなってことを実感しています

──市販の缶ビールなら200~300円代で購入できる中、お店のクラフトビールは、1杯800円以上します。お客さんにクラフトビールのほうを飲もうと思ってもらうためには、どうしたらいいと考えていますか。

ビールにお金を払うだけでなく、このお店で誰かと出会ったり、会話を楽しんだりする、そんな“人と人との出会い”にお金を払っていただけるような場を作っていきたいです

西口典子さん 撮影/近藤陽介

──クラフトビールは、実はかなり原価がかかるようですね。

クラフトビール屋は、儲(もう)かりにくいです。まず、ビールを作るのに、かなり電気代がかかります。お湯を沸かして、煮沸を1時間くらいするし、完成したビールを冷やすなど、ずっと電気と付き合っていかなくてはいけません。

 また、原材料も結構、費用がかかります。特に、ハイアルコールにするには、麦芽の量を増やさなくてはいけないので、そのぶん、多くの出費が伴います。さらに、ホップと酵母も結構、いい値段がします。これらに自分の労働力を入れたら、お金のためだけではできないところがあります。

 ただ、商売のゴールをどこに決めるのか、なんですよね。“クラフトビールで商売を成功させ、金儲けをするんだ”となると難しい部分もありますが、私が向かっている方向は、“人が集まれる場所を作り、それにビールが付いていること”なんです。酒類製造免許を取り上げられないことに気をつけながら、お店を続けていけたらいいと考えています」

ただのクラフトビール店にはならない可能性を秘めている

──スタッフはユニークな方々が集まったようですね。

“調香師をしています”とか、“音楽のA&R(新人発掘をして、楽曲制作のサポートをする仕事)をしています”とか、“国際イベントや博覧会の企画・デザインをしていますが、何か新しいこともしてみたい”といった、面白い人たちが集まってくれました。

 調香師の人は、コロナ禍で人に会わなくなったことに危機感を覚え、お店で働くことで人と会う時間を作りたいという理由から来てくれました。香りを作れるなら、うちのお店に合う香りを作ってよ、とお願いしてサンプルを作ってもらったら、すごくいいんです。これから、商品化する予定です」

お店をイメージしたアロマミストのサンプル品。爽やかで優しい香り 撮影/近藤陽介

──映画プロデューサーのお店だけに、監督やテレビディレクター、俳優など芸能関係の人や、クリエイティブな方も集まりやすいでしょうね。このお店を通して、活動の幅が広がりそうです。

この人とこの人のキャリアと才能が合わさったら、新しいビジネスができるんじゃないのか、という後押しをしてあげたいです。“自分1人ではできないことが、誰かと結びつくことでできる”というのを応援してあげるのが、ある程度キャリアを積んだ人間の、セカンド・ライフとしてのモチベーションになるんじゃないか、と思っているんです。

 そうやって人の輪が広がって、“あそこに行けば何かできそう”と思ってもらえるようになったら、豊かですよね