「おもろい」を通して今日も“愛ある笑い”を届け続ける

 アキさんはキレッキレのダンスも踊れば歌も歌う。一発ギャグで「かます」タイプではないが、それだけに誰と組んでも、相手を生かし自分も生きることができる。

 新喜劇でも、台本のアキさんの部分にはほとんどセリフが書かれていない。その場で対応できる才能と瞬発力があるからだ。あらかじめ決められたセリフを言うより、現場で出てくる自分の言葉を信じていると彼は言う。

「動物的本能と経験値が物を言うと思っています。僕の枠が何分か聞いておいて、あとはその場で自由に作っていくのが好きなんです」

 彼の代名詞にもなっている「いぃよぉ~」という言葉は、公演3日目のアドリブ合戦になったとき、いきなり生まれた。

「若手のギャグが滑ってしまって、僕ら周りがどんどんツッコんでいって、とうとう彼が“すいません”と言ったんです。思わず『いぃよぉ~』と言葉が出てきた。そうしたらお客さんが笑ってくれた。チームだから、誰かが滑っていたら誰かが救わなあかんのです。滑った若手に近づいていって『つらいね~』と言ったこともありました。全部を笑いに変えていかなければ、公演として失敗しますからね」

 ここで“受け入れ芸”ともいえる新たなジャンルを、アキさんは作り上げたのだ。客席は笑いながらも、その温かさにほっこりする。時代はそういう笑いを求めているのかもしれない。もちろん、同じことをほかの人が言ってもウケるわけではない。

 そこにアキさんの動物的本能と経験値が生きてくる。武道を身体にたたき込んだ彼だからこそ、仲間や客のバイオリズムに合った「間」をもって言葉を発することができるのではないだろうか。

「あの『いぃよぉ~』には後日談がありましてね。あるPTAの会長さんが手紙をくれたんです。その方、子どもが3人いて親の面倒もみないといけなくて、PTAの仕事もあって、本当に毎日が大変だった、と。忙しすぎて、子どもが“お母さん、聞いて”と言ったときに、つい“うるさい、今はダメ”と怒って子どもを泣かしてしまった。はっと気づいて“ごめんなー”と子どもを抱きしめて謝ると、子どもが『いぃよぉ~』と。その人はなんだかわからなかったけど、子どもに“今、流行(はや)ってんねん”と聞いて自分も見てみた。

 “こういうのはもっと流行らせてほしいと、学校からもよく連絡をもらうんですよ。“子どもたちの間でいじめやケンカが減った”と。片方が謝ると、もう片方が『いぃよぉ~』と許すようになったって。これは、ほんまにうれしいことです」

時折ジョークも交えながら、熱を込めて話してくれた 撮影/吉岡竜紀

 それをきっかけに講演会の仕事も舞い込むようになった。アキさんは「1時間、人前でひとりでしゃべるなんてとんでもない」と思ったが、講演とはどういうものか勉強を重ねた。そして、自分の経験から大人にも子どもにもわかるように話をするようになった。非常にまじめな人なのだ。

「僕は、才能を生かすためには常に感動するスイッチを持つことが大事だと思っているんです。たとえば嫌いな子がいたとする。嫌いだからといって何もしなかったら、仲がよくないまま。でもこの子のいいところを見つけて感動しようと思ったら、必ず見つかるはずなんです。

 それが身についたらコミュニケーションも取れるようになる。大人になったら、きっと苦手な上司もいるかもしれないけど、いいところを見つけて感動する習慣がついていれば、うまくやっていくことができますよね。“感動の数イコール才能”なんだと思います」

 ここにも彼ならではの経験と感覚が生きている。

 これからも講演は続けていきたいと彼は言う。今後は台本のない新喜劇、スペシャリストとともに即興で繰り広げるミュージカル、さらにはノンバーバルの(セリフのない)舞台にも取り組みたいと熱く語った。この人ならやりとげてしまうだろうと思える熱量が、静かに伝わってくる。

 ちょっとした表情、ちょっとしたしぐさに「大人の男の色気」がただようアキさん。そう言うと本気で照れた。

「自分のことはわかりませんけど……。ただ、若いころ、女性の吹き替えをやっていたときは、ずっとその人を1日中、観察していたんですよ。クセとかしぐさ、歩き方、走り方、じっと見ていた。そういう観察が僕の経験値として残ってはいますね。それと武道をやっているときに感じたんですが、本物の武道家はみんなやさしい感じなんです、ふだんは。そのかわり、試合が始まったらエグい(笑)。その落差が色気につながるなあと思ったこともあります」

 笑いと希望、そして何より仲間を信じて「おもしろいこと」を追求していく姿勢が熱い。八面六臂の漢(はちめんろっぴのおとこ)に、今後ますます注目が集まるだろう。

熱さとクールな一面をあわせ持つ男アキさんの、魅力たっぷりのこの1枚 撮影/吉岡竜紀
茶目っ気満載のこのポーズ! お茶目な表情もまた、アキさんの魅力なのだ 撮影/吉岡竜紀

(取材・文/亀山早苗、編集/本間美帆)


【PROFILE】水玉れっぷう隊アキ 1969年生まれ、大阪府岸和田市出身。東映太秦映画村宍戸大全アクションチームを経て、1992年水玉れっぷう隊を結成。結成年に『第1回 NHKびわこ杯新人漫才コンクール』で最優秀賞を受賞し、翌年には『第23回 NHK上方漫才コンテスト』でも最優秀賞を獲得する。その後、2014年に吉本新喜劇に入団。2015年には自ら主演・脚本・演出を務める『第1回Joy! Joy! エンタメ新喜劇』を開催し、以後年に1度開催している同公演は、毎回発売と同時に即完売になるほどの人気を博している。特技は空手、野球、ダンス、格闘技。

YouTube→吉本新喜劇アキのいぃよぉ〜ちゃんねる、Twitter→@mizutamareppu、Instagram→@mizutamareppuaki