突然の訪問者に“神対応”の理由
訪問してきた理由を聞いた所さんは、若者にこう言ったのです。
「むしろ、ありがとね」
「えっ?」となる若者。勝手に訪ねてきた自分に、お礼を言ってくれるなんて!
さらに、所さんは「ジーンズ、俺がはくよ」と、若者が持参したジーンズをはいてくれました。
そして、こう言ってくれたのです。
「(商売を始めるなら)写真も撮っておいたほうがいいんじゃない?」
なんとその日、初めて会う若者とツーショット写真まで!
まさに神対応です。
若者はすっかり感動。所さんとのツーショット写真のアピール効果は絶大で、その後、無事に自分のジーンズブランドを立ち上げることができたといいます。
初めてこの話を聞いたとき、私は「見ず知らずの相手に対してこんな対応をしていて、所さん、大丈夫だろうか? よからぬトラブルに巻き込まれてしまうのではないだろうか?」と、余計な心配をしました。
でも、自分の経験とも照らし合わせてよくよく考えると、所さんの行動に合点(がてん)がいきました。
おそらく所さんは、この若者をひと目見て、悪人ではないと見抜いたのではないかと思うのです。
私の知人の起業家も「自分の最大の強みは、人を見る目があること」とおっしゃっていました。その方によると「初めて会う相手でも、ひと目見ればだいたいどんな人間かわかる。1分話せば、その第一印象は確信に変わる」とのことで、第一印象が間違っていることは「ほとんどない」のだそうです。
たぶん所さんも、この若者の態度や表情から「この子は純粋にジーンズが好きなのだ」と見抜いたのではないでしょうか。
だから「(世の中にたくさんいる“ジーンズ好き有名人”の中から、自分を選んで頼ってきてくれて)むしろ、ありがとね」という言葉を伝え、若者の商売の助けになればと考えてツーショット写真を快く撮らせてあげたのではないかと思うのです。
私も、会社にいたころはあまり感じませんでしたが、フリーランスになってからは、自分のことを信用し、頼りにしてくれる人に対して感謝の気持ちを感じるようになりました。
そうなってみてさらに、この所さんの“神対応”の理由が腑(ふ)に落ちたのです。
(文/西沢泰生)