初めのキャリアはゲーム業界ではなかった中山さん。多くの経験から、“エンタメ”に可能性を感じたという 撮影/矢島泰輔

──デロイトトーマツコンサルティングに入社したのは、DeNAでの経験があったから?

「そうですね。デロイトでは顧客だった大手ゲーム企業がカナダに会社を作るということで、“今の市場的にモバイルゲームがキテる。このジャンルは作りやすい。そのためにはこれくらいの人数が必要で初期投資にはこれくらいの金額が……”みたいなことを考えていました。そこで、ゲームビジネスに対する手ごたえを感じたんです。デロイトを辞めたあとはバンダイナムコに入社し、ゲームの海外展開も手がけました」

『新日本プロレス』や『アサルトリリィ』。エンタメを網羅したブシロード時代

──DeNA、デロイトトーマツ、バンダイナムコを経て、ブシロードに入社。現在の「エンタメ社会学」につながることを始めたのはブシロードからという印象があります。

「そうかもしれません。約5年ほどゲーム業界に身を置いた後、2016年にブシロードへ入社して、5年間さまざまなエンタメコンテンツに触れました。『新日本プロレス』や『BanG Dream!』『D4DJ』『アサルトリリィ』のメディアミックス(※)を含めた海外展開など。ブシロード入社当初は、ゲームのことはわかるけどアニメや舞台などゲーム以外のエンタメは素人に毛が生えた程度だったので、かなり勉強しました(笑)

 そこで培ってきた知識やノウハウを生かす活動として、早稲田大学やシンガポール南洋理工大学で講義をしたり、メディアでエンタメに関する現象分析を書いたりするようになりました」

※メディアミックス:さまざまな媒体を用いて作品の知名度を高めること。ゲームのアニメ化、漫画のグッズ化などが例として挙げられる

──ブシロード時代は相当幅広いエンタメジャンルにかかわっていたんですね。

「『BanG Dream!』の英語版ソーシャルゲームや、カードゲームの海外プロモーションがメイン業務でした。カードゲームのプロモーションでは、北米のアラバマ州からノースカロライナ州まで、車で1日3件ずつ店舗を回っていました。今は終わってしまったのですが『Dragoborne』という北米向けカードゲームを売り込むために、“こんにちは! ブシロードです。カード置いていただけませんか?”とレクチャーしたり。

 当時の僕は海外事業の責任者でしたけど、ブシロードはトップの人間も関係なく現地に行く会社なんですよ。代表の木谷(高明)さんもニューヨークからボストンまで回っていましたし(笑)。木谷さんが身近にいる状況で仕事をしたことで、メディアミックスの戦略などの知識を身につけることができました。今の自分にも大きくつながっています」

──『BanG Dream!』『D4DJ』『アサルトリリィ』、そして『新日本プロレス』。これらすべてメディアミックス展開をしているコンテンツですもんね。

メディアミックス戦略を横断的に担当したのは『アサルトリリィ』くらいですけどね。2.5次元舞台化、アプリゲームなどのプロモーション業務全般を担当していました。

 それ以外はメディアミックスの中でも海外デジタル戦略の部分を担当していて。本来は『新日本プロレス』も担当外だったんです。でも、英語とデジタルの事業展開ができるという理由で余計な仕事もやっていました(笑)。映像系イベントへ販売に行ったり、アメリカの担当地域のスポーツ企業からいろいろ話を聞いたり……。

 こうやってブシロードでアニメやスポーツなど24時間エンタメに触れたことが、自分の原体験にもなり、今の活動に直結しているように感じています。ブシロードで得た学びを早稲田大学の授業で教えたり、『オタク経済圏創世記』という書籍を書いたりするようになりました」

中山淳雄さん著作・『オタク経済圏創成期』(日経BP社刊) ※記事中の写真をクリックするとアマゾンの商品紹介ページにジャンプします