モンブランの進化の過程は? 今ではできたて・絞りたての商品に注目集まる

──モンブランは昔から人気ですが、今の栗ブームに至るまで歴史がありますね。

「私が子どものころは、お菓子の栗といえば、黒い蒸し栗を見慣れていたので、モンブランを初めて見たときは衝撃だったんです。当時はまだ、ショートケーキみたいな長方形のケーキしかないころでしたから。

 黄色いモンブランの“発祥の地”的な存在の老舗ケーキ屋さんが、1933年創業の『自由が丘モンブラン』です。今なお変わらない、誰もが知る“これぞモンブラン!”ですね。土台にカステラを置き、栗の甘露煮を使用。黄色いマロンペーストは和菓子を作る道具である『小田巻(おだまき)』を使ってふんわりと盛り上げ、大人気になりました。また、'50年ごろには、『東京會舘』の初代製菓長・勝目清鷹さんが、真っ白な生クリームの山の中に栗を潜ませた“マロンシャンテリー”を考案し、その美しさはスイーツ好きの憧れの的になりました」

──その後、モンブラン人気が加速、行列のできるモンブラン屋が次々と登場しますね。

「'84年、銀座にできた百貨店『プランタン』にパリ発のカフェ『サロン・ド・テ・アンジェリーナ』ができて、爆発的な人気となりました。カリカリに焼いたメレンゲの上にクリームを絞り、シロップに漬けたマロングラッセをペースト状にしたものをかけたため、素材のままの茶色っぽい栗色をしています。この“茶色のモンブラン”というのがまた、おしゃれに見えたんです。

『自由が丘モンブラン』に『東京會舘』の“マロンシャンテリー”、『サロン・ド・テ・アンジェリーナ』は、モンブランの歴史を語るうえでははずせません。“元祖御三家”とも呼ばれています。今も変わらず愛されていて、モンブラン人気を物語っています。

 その後、スイーツバブルが来て、ホテルニューオータニの『パティスリーSATSUKI』の“スーパーモンブラン”の出現で、モンブランの新時代が到来。このモンブラン、驚愕のサイズ感と、何層にも重なる凝った中身が話題をさらいました。4000円近くする高額スイーツですが、それでも入手困難で人気が衰えません

“元祖御三家”の商品たち。左上から時計回りに『自由が丘モンブラン』、『サロン・ド・テ・アンジェリーナ』、『東京會舘』
こちらは『パティスリーSATSUKI』の“スーパーモンブラン”。かなりの重量感だ

──最近は、注文を受けてから栗ペーストを絞るタイプのモンブランが大人気となっていますね。

「“絞りたて”がSNS映えすることもあってか、各店で始めると早朝から行列に。先駆けとなったのは、2011年のオープン時から、店内でしか食べることのできないモンブランを提供していた東京・谷中の『和栗や』茨城・笠間に約5ヘクタールの自社農園を保有し、栗菓子やモンブランに適した栗のみを、オーナーが自ら栽培しているんです。『和栗や』の人気上昇とともに和栗の文化が浸透し始め、今では和栗が栗スイーツ界を席巻しています。

 また、長野にある老舗『小布施堂』は'14年、『栗の点心 朱雀』を発表。採れたての新栗を蒸して裏ごししたものを、砂糖も何も加えずに、そのまま栗あんの上にふわりと盛ります。注文してから作るのですが、これがとても風味豊かで、さすが伝統を感じさせます。畑から新栗が届く1か月間、小布施堂本店・本宅のみで味わえる一品で、朝早くから行列ができ、整理券を出していたほど。コロナ禍ではネット予約になり、チケットを買って楽しむエンターテイメントとなっています。

 さらには'16年、京都にある『マールブランシュ』で、自分のテーブルの真横でモンブランを作り上げてくれるサービス“モンブラン・オートクチュール”が爆発的な人気となりました。

 そして、京都の『和栗専門 紗織』が考案した“錦糸モンブラン”が、栗スイーツ界に衝撃を与えました。看板メニューの『紗』は、国産栗のなかでも1%しか取れない、極上の京都産丹波くりを使用。そのマロンペーストが、特製の絞り機によって極細1ミリの錦糸状態で織り重ねられ、上からシャワーのように落ちてくる動画がSNSで拡散され、話題をさらいました。ビジュアル的に今ひとつ地味だったモンブランを華やかに見せ、シズル感を出してくれたんですね」

『和栗専門 紗織』の“錦糸モンブラン”。こちらもコロナ禍の今ではネット予約だという

──絞るモンブラン、お味はいかがですか?

やはり、“絞りたてがいちばんおいしい”ということを、消費者も作り手側も納得するようになったんだと思うんです。ケーキ屋さんで買う場合は、ある程度時間がたってもおいしいということが当たり前だったのに、“賞味期限30分以内”の商品を受け入れるようになったのがここ数年。今ではシュークリームも、注文が入ってから中にクリームを詰めたりとか、モンブランも注文を受けてすぐに栗ペーストを絞ったりするパティスリーが多くなりました。

 ショーケースに並んだモンブランに、注文後に栗ペーストを絞る形態で有名になったのが、東京の洋菓子店『ラ・プレシューズ』です。材料は栗と無糖生クリーム、メレンゲのみ。余計なものは一切使っていません。毎年いちばんおいしい栗と、その時々に厳選した栗を使っていますので、栗の種類はさまざまです。このモンブランを食べられるのは9月~2月のみ。今、またブームになっているんですよね」

──味はどれも定評あるようですが、モンブランは、“映え化”も進んでいますね。

“唯一無二”がキーワードですね。東京・谷中の『パティシエ ショコラティエ イナムラショウゾウ』『羽衣モンブラン』も、“幻のモンブラン”と呼ばれていて、年に10日間ほどしか売り出されず、事前予約するか、早朝から並んで限定販売分を手に入れるしかないという希少価値。ガーゼの羽衣にふんわり包まれた美しいモンブランなのですが、甘さを抑えた和栗のペーストに、濃厚な甘めのクレームシャンティーとジューシーに煮た渋皮煮で、和栗の風味が100%生かされています。

『マツコの知らない世界』で反響が高かったのは、秋冬ではなく春夏のモンブランや、“変形モンブラン”。今は、四角のモンブランや、いちごや抹茶のモンブランなど、色も形も季節感も千差万別。モンブラン以外の栗スイーツもどんどん新作が登場しており、和も洋も長いあいだ、栗ブームが続いています」

『羽衣モンブラン』の中身。一見、モンブランらしくない、ころっとしたキュートな見た目