うま味の研究がどんどん進化して、医薬品の原料に!

──ところで、御社はしょうゆメーカーなのに“医薬・化成品事業部”がありますよね。これもこうじ菌の研究と関係あるのでしょうか?

西谷「はい。医薬品事業のスタートは、しょうゆ作りの酵素のノウハウを利用したことでした。こうじ菌などのカビにはいろんな酵素を出す働きがあるのですが、その中の1つに核酸(※2)を分解する酵素がありました。さらに研究を進めると、特定の核酸に分解する酵素の発見につながりました。“イノシン酸ナトリウム”や“グアニル酸ナトリウム”という物質ですが、これらがうまみ成分だということがわかったんです。こうした発見を元に、弊社の“うまみ調味料”が開発されることになりました」

※2:核酸:人間の身体は約37兆個の細胞からできていて、その細胞の1つ1つに細胞核がある。細胞核は酸性なので核酸と呼ばれる。遺伝子で知られるDNAも核酸の1つ。

──そのうま味調味料から医薬品へは、どうつながっていくのでしょうか?

西谷「うま味調味料を作る際に出てくる副産物を、他の目的で使えないかと研究していくうちに、医薬品で使える可能性が出てきたんですね。弊社では調味料を作る技術を応用して、1970年代から医薬品事業が始まりました

宣伝広報室の西谷綾さん

工場で食べられる“しょうゆソフトクリーム”

──御社の工場見学(現在休止中)に行くと、“しょうゆソフトクリーム”が売られているとのことですが、これってしょうゆ味のソフトクリームですよね?

西谷「はい(笑)。でも、普通のしょうゆをそのままソフトクリームにしたわけじゃなくて、“黒蜜風しょうゆ”という業務用のしょうゆを使っているんです。佃煮に使うような、色の濃いしょうゆです。最初は濃口しょうゆや丸大豆しょうゆを使っていたのですが、普通のしょうゆは入れすぎるとしょっぱくなるし、ちょっとしか入れないと色がつかなくて、見た目がバニラのソフトクリームと区別がつかないんですね。

 それで、色をしっかりとつけるために“黒蜜風しょうゆ”を使ってみたら、はっきりとしょうゆらしさがわかる色になったのと、適度にしょうゆの風味も立って、しょうゆソフトクリームの味が決まりました」

──しょうゆメーカーだけに、どうしても“しょうゆソフト”を作りたいという願望があったんでしょうか?

西谷「そうかもしれません。何度も改良を繰り返して……。黒蜜風しょうゆも改良を重ねて、名前も何度か変わって、今に至ります。黒蜜風しょうゆは甘味があって、作るのにとても手間がかかるしょうゆなんですよ。だから、ちょっと贅沢なソフトクリームなんです」

──しょうゆ味のソフトクリームって、興味深いですね。どんな味がするんですか。

西谷「みたらし団子のような甘じょっぱさもありつつ、塩キャラメルみたいなあとを引く塩気もあって、ソフトクリームにぴったりなんですよ。現在は工場見学センターでの飲食が休止中なのですが、再開した際には、一度召しあがってみてください。本当においしいので」

(取材・文/久保弘毅)

※公開後にコメントの一部を修正しています。(2023/01/12更新)