まずは魚の廃棄を止め、未利用魚の処理ができる職人を育てることが大切

──そのために何か行動を起こそう、という料理人が増えましたね。

「ジャーナリストで『シェフ・フォー・ザ・ブルー』代表理事の佐々木ひろこさんからのお声がけで勉強会を始めました。レストランの閉店後、深夜0時ごろから専門家を呼んでレクチャーしてもらうんです。そんな中で、現状を草の根から社会に訴えようと、'17年、海を守る啓発活動をすすめる料理人チーム『Chefs for the Blue』(シェフス・フォー・ザ・ブルー)を発足させることになりました。持続可能な海を目指した自治体・企業との協働プロジェクトやイベントなども行っています。

 日本は世界第6位の海の広さを持っているんです。さらに海流や地形の関係で、世界に誇れる魚の質であるにもかかわらず、資源管理に関してはほかの先進国に比べて大きく出遅れています。本来、その水産資源を守れば自給率が上がるはずなんですよ。コントロールさえできれば、何かあったときにも日本の海域で魚を獲るだけで、タンパク質は補えるはずなんです。海に囲まれすぎていて、いまだに“魚が獲れるのが当たり前”という感覚がどうしても拭えないんですね。

 “中国船が魚を乱獲しているんだろう”と中国のせいにする方もいますが、外国船が日本の海域に入ってきて、すべての魚種をごっそり持っていくなんて不可能です。国として資源管理をしなければならない状況に陥っているのに、温暖化の影響とか海外の乱獲疑惑のせいだけにして議論を終えてしまうと、状況はよくならないと思います

──石井シェフはシェフス・フォー・ザ・ブルーでの活動にも力を入れながら、'20年9月には、“サステナブル・シーフード”がテーマのレストラン「Sincere BLUE(シンシア ブルー)」をオープンさせましたね。

『シンシアブルー』は、認証魚と未利用魚を使うレストランです。ちょっとクセがあって捨てられてしまったり、安い値段で買いたたかれたりするような魚を未利用魚・低利用魚と呼びますが、しっかり処理してくれる業者さんから仕入れれば、おいしい料理に仕立てることができます。“捨ておかれている魚の価値を上げること”、これが、シンシアブルーに関連した活動における大きな目的です。

 今、温暖化の影響で、昔は日本列島の南側に生息していたシイラのような魚が北上しています。あまり好まれる魚ではないので値段も安く人気がありませんが、僕らが“もっとおいしくしよう”と使命感を持って調理法を考案しているところです。匂いが出やすくて人気のない魚でも、漁師さんや地元の魚屋さんがうまく処理してくれると使えるんです。そのためには、未利用魚の処理のテクニックがある人を増やす、そうした職人を大事に育てることも重要です。うまく処理されている魚を高く買うことで彼らが潤えば、技術のある人が増える。これも、持続可能な海を守ることにつながります。

 ほかにも知られていないだけで、調理法や時期によっては、人気のノドグロよりも味わい深くおいしい魚もたくさんあります。そんな魚をどんどん取り入れていって、消費を1種の魚に集中させないことが持続可能に有効な手段です。ノドグロのように、何か特定の魚が流行すると、こぞって根こそぎ獲ってしまうようなことをやめ、これまで“おいしくない”と食べられてこなかった魚の調理法を考える。おいしい食べ方を見つけて、その魚の管理をきちんとしていれば、日本は自給自足もできます。そのために、海の資源を管理しましょう、となります。2020年以降、政府が進めようとチャレンジしている水産改革と科学的根拠にもとづいた資源管理をきちんと前に進めることが、いちばんの目標です

石井シェフたちの頑張りが身を結び、政府が動いてくれることを願いつつ、私たちもできることから始めていきたい 撮影/矢島泰輔

──草の根から意見を言うことによって社会を変えよう、と。最終的には、世論が動かないと何も変えられない部分もあるということですね。

さらに『認証制度』を知ってもらい、持続性のある魚を選んでもらうことも推奨しています。日本ではまだなじみがありませんが、海外では盛んで、スーパーなどには“MSC認証水産物”(水産資源や環境に配慮した持続可能な漁業で獲られた水産)や“ASC認証水産物”(責任ある養殖により生産された水産物)を示すロゴシールが貼られています。

 レストランでは『CoC(Chain of Custody)認証』というライセンスをとれば、“認証水産物を使っています”とメニューにも記載できるんです。

 ただ、この認証を取るのは、すごく大変です。お金もかかるし、手続きが煩雑。例えば、“このマグロは、誰が捕って、どこから流通して、どれだけ仕入れて、どのぐらいお客さまに出したか”ということまで、すべて記録して提出する必要があるんです」

──日本の消費者として今すぐできることは、何かありますか?

できる限り、MSC認証やASC認証の商品を見つけて購入することです。先ほどもお伝えしたように、海外ではすでにMSC認証などが信頼されているので、消費者も“認証されている持続可能な品種を買おう”という意識が高いんです。ホールフーズなどのスーパーに並ぶ魚介類には、黄色は危険、青色はサステナブルを示す表示がされていたりして、魚の資源状態を確認して買おうとする消費者も多いんです。

 欧米諸国に比べ、日本での水産エコ認証の認知度はまだまだ低いので、先日スーパーマーケットでASC認証を取得した愛媛県産の真鯛のプロモーションを行いました。有名シェフのレシピと、彼らのビデオメッセージが見られるURLを添えて販売したところ、かなり効果がありました。認証が一般の消費者に認知されるまで、まだまだ長い道のりですが、一歩ずつでも進めていければと考えています