東大工学部卒・なつぴなつ&京大農学部卒・えもりえも&名大情報文化学部卒・あずきあずによる、超高学歴アイドルグループ「学歴の暴力」(愛称:がくぼ)。平日は3人とも別の仕事をしながら、お休みの日は東海地方を中心にライブやイベントを開催するなど、「学歴の暴力」としての活動にささげています。

『fumufumu news』は'22年2月のインタビュー(記事→「勉強以外、なんの取り柄もない」東大卒&京大卒のアイドル『学歴の暴力』が歌う高学歴の苦悩)で、学歴を全面に押し出したアイドル活動を始めたわけや、高学歴ならではの痛みを伺い、「彼女たちの胸の内をもっとのぞいてみたい」という思いで連載コラムの執筆を依頼。メンバーそれぞれの“自分らしさ”を生かし、感じたことをリレー形式で文章にしてもらいます。

 前回のあずきあずさんに引き続き(記事→【学歴の暴力#5】名大卒・あずきあず、メンバーにも初めて明かす「“京大生アイドル”になりたくて失敗した話」)、第6回目のコラムを担当してくれるのは、えもりえもさん。なんと、えもりさんは先日、2022年12月3日開催のライブをもってグループを卒業し、アイドルを引退することを発表。とても寂しいですが、彼女のさらなる活躍に期待したいです。今回は卒業を控えたえもりさんが、無給でもアイドルを続けてきた理由を、彼女ならではの感性、経験を交えて語ってくれました。

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 私は社会人として働きながら、「学歴の暴力」というアイドルユニットに所属している。

 簡単に経歴を紹介すると、京都大学で農学系の研究をしたあと、現在は植物の研究員として働いている。所属する「学歴の暴力」は東大・京大・名大卒のメンバー3人が自分たちで作詞した“学歴ソング”を歌う、完全セルフプロデュースのアイドルである。アイドル活動は土日に趣味として楽しんでいる。一般的に地下アイドルはライブ後、お客さんと「チェキ」を撮り、撮影料金をもらうことなどで収入を得ているが、私は“チェキ無料”でやっている理由は「会社が副業禁止」であるからだ。

 アイドル活動にはお金がかかる。衣装の制作費、作曲家さんにお支払いする費用、スタジオ代、交通費、チェキフィルム代……今までかけたお金は、恐ろしくて計算したことがない。

 お客さんからも「赤字なのに、どうしてアイドルをしているの?」とよく聞かれる。そんな疑問に答えるため、今回の記事を書こうと思った。

【1】そもそも私がアイドルを始めたきっかけ

 大学生のころ、私はアニメや漫画などのいわゆる「サブカル文化」が大好きだった。そんな中、サブカル文化を好きな人が集まる拠点として「メイドカフェ」がある。それを聞いて、すぐにメイドカフェで働くことにした。

 メイドカフェでは、単にドリンクや料理を運ぶだけでなく、お客さんとお話をしてコミュニケーションをとる。その交流がとても楽しかったのだ。不思議なことに、その楽しさは大学の同期と話しているときには得られないものだった。ここで私は「“オタクの人”と話すのが好き」ということに気づいた。

(※「オタク」は蔑称で使われることも多いが、私の中では敬称であるので、「オタク」と表現することをお許しください)

 ここから私は、町でオタクの生息地を探すようになり、ある日行き着いた場所が「地下アイドルのライブ会場」だった。そこには有象無象のオタクが無数におり、夢のような空間が広がっていた。気づいたら、私はアイドルになっていた。

メイド服を着てパシャリ。オタクに会える環境を追い求めているうちに、まさかアイドルになってしまうとは……!

【2】オタクの人たちは、とにかく楽しい

 アイドルをしていると、多種多様なオタクに出会う。普段、会社にいるときには関われないような人たちばかりだ。私はわりと堅めの会社で働いているので、なんというか、周りにはきっちりしている人がとても多い。

 だが、特にライブ会場で出会うオタクは、ひと味も二味も違った。歯がない人、破れたTシャツを着ている人、推しの名前を叫んでいる人、オタ芸をする人……ひと目見ただけでもう、会社にいる人とは違う大人たちだ。あるライブが終わったあと、隣のアイドルのチェキ会でお客さんが「今はお金ないけど明日、生活保護のお金が入るから……」と話していた。普段の生活をしていたら絶対に耳にしない会話、物事の優先度、価値基準、何もかもが新鮮だった。

 チェキを撮っているときに話してくれることもバラエティに富んでいて、「幽体離脱をした話」「自分はある武将の生まれ変わりである話」「あのアイドルは俺に惚れているという話」「自己紹介(手にはめるタイプのぬいぐるみを通して話しかけてくる)」などさまざま。大人がこんなことを話してもいいんだ……と思った。

 中でも印象に残っているのは、ポケットからヨーグルトを取り出し、“よ、よかったら……”と差し出してきたオタクだ。ライブ中もずっとオタクのポケットの中で常温になっていたヨーグルト、絶対によくない。全力で断った。しかし、このように毎度のごとく知らない世界が垣間見え、「今日はどんなレアなオタクと出会えるだろう?」と毎回のライブが楽しみで仕方なかった。

ライブ中のひとコマ。オタクたちが掲げるサイリウムが輝き、コールが響き渡る!

【3】周りのアイドルも未知の人々だらけ

 オタクだけでなく、出会うアイドルも未知の人々だった。私は進学校を出て、大学も京都大学、会社の同期も全員が大卒だった。ところが、ライブ会場で出会う地下アイドルは違う。もちろん、私のように大卒で社会人として働いている子もいるが、フリーターをしている子、高校に行っていない子、家に帰っていない子、タバコを吸っている子、ホストにハマっている子、本当にいろいろだ

 人生の中で大切にしていることがそれぞれ異なるのが面白いと思ったし、私にはできない刹那(せつな)的な生き方をしている子もいる。

 あるとき、生誕ライブに呼んでくれた女の子にお祝いの手紙を書いたら、「書いてあることが難しくて、お母さんに聞きながら読んだ」と言ってくれた。自分としてはお祝いの言葉やその子がアイドルとして尽力していることなど、ごくごく普通の内容をつづっていたつもりで、手紙に書いてあることがわからないという想定がなかったので、私は狭い視野で生きているのだなと反省した。同時に、お母さんに聞きながらでも内容を理解してくれたことにありがたさを感じた。

 アイドル活動を通して、普段出会えないような人生を送っている子と話すことが、とても楽しい。

写真左から、なつぴなつ、えもりえも、あずきあず。「学歴の暴力」のメンバーは、アイドルの控室では周囲と会話が噛み合わないこともしばしばで、浮いた存在になってしまいがち

 京大卒の私が、無給でアイドルをする理由、それは「人との出会い」に尽きると思う。私と出会ってくれたすべての人に感謝したい。

(文/「学歴の暴力」えもりえも)

【INFORMATION】
◎「学歴の暴力」Twitter→@violenceofgkrk
◎えもりえもTwitter→@emofairystar1
◎なつぴなつTwitter→@natsupikkk
◎あずきあずTwitter→@azuki__info
◎「学歴の暴力」YouTubeチャンネル→https://www.youtube.com/channel/UCQA_7HGBG5Ezz_gsAlXbIsg