気圧が下がると不調が起きる理由

 では、なぜ気象の変化がこうした症状を引き起こすのだろうか?

 原因のひとつである気圧とは地球を覆っている大気の圧力のことで、平地では通常1気圧(1013ヘクトパスカル)の気圧がかかっている。私たちの身体には、全身に1気圧の圧力がかかっているのだ。身体はこれと同じ圧力で大気を押し返すことでバランスを保っているが、天候が悪化して気圧が低くなると、鼓膜から奥の中耳と、さらに奥にある内耳が膨張する、と久手堅先生。

耳は大きく「外耳」「中耳」「内耳」の3つに部分に分けられる。内耳は気圧変化に最も反応する イラスト/植松しんこ

飛行機に乗ったら、手に持っていたポテトチップスの袋がパンパンにふくらんだ。そんな経験はありませんか? 気圧が低下すると、耳の中でもこれと同じことが起きるんです。感覚神経である中耳と内耳がふくらんで耳や鼓膜を刺激し、頭痛やめまいを引き起こします。同時に身体の中の水分も膨張して、むくみなどの不調が起きます」(久手堅先生)

飛行機が高度を上げると、大気圧(外圧)が低下して耳の痛みを感じやすい イラスト/植松しんこ

「さらに、耳の神経から脳、脳から自律神経へもつながっています。自律神経とは24時間365日、私たちの意思とは無関係に身体の状態を維持するために働いている神経のこと。交感神経と副交感神経の2つがあって、前者は身体と心を興奮させる働きを、後者が落ち着かせる役割を担っています。走ると心拍数や血圧が上がって汗をかきますが、これは交感神経が頑張ってくれているから。走るのをやめると心拍数や血圧が下がり、汗も引いていきますが、これは副交感神経の働きです。

 急に暑くなると、交感神経は身体に汗をかかせて体温を下げなければなりませんし、天候が悪化して気圧が低くなれば、副交感神経が働いて身体をお休みモードにしてくれます。このように自律神経は気候に合わせて働いていますから、気象病とも深い関係があるのです」(久手堅先生)

 やっかいなのは、症状が多岐にわたるため診断がつきにくいという点だ。加えて天気がよくなればケロリと回復するなど、具合が目まぐるしく変化すれば、症状も軽度から重度までさまざま。そして何よりも極めつけは、「気象病」がまだ、正式な病気だとされていない点にある。

気象病はまだ“あだ名”のようなもので、正式病名ではないんです。ですから病院で、“私、気象病かもしれません”と訴えても、医師に“はぁ!? そんな病名、ありませんよ”と言われてしまうことが多い。実際に苦しんでいる人がいるのに、なかなか治療に結びつかない理由でもあるんです」(久手堅先生)