父に下された突然の余命宣告。父がこぼした“本音”と今も思い出す“強烈な思い出”
小猫を継いでひとり立ちし、父もひと安心した’16年、今度は父が病気になった。調子が悪いと病院に行ったら、進行性胃がんで、何もしなければ余命3か月と宣告された。
「1月は寄席に出ていたんですよ。でも、少しずつやせてきた。そのころ父は健康のために運動をして鍛えていたし、2月に20キロマラソンに出るつもりでかなり走り込んでいたので、まさか病気だとは思わなかった。検査をしてみたら余命3か月、延命しかできない。そんなことってあるんですね。父もショックだったと思う。でも数日後には治療はしないと決めたんです。その意志を聞いて、父らしいなと思いました。家族一丸となって、いけるところまでいこうと話し合って。
結果的には宣告から2か月で逝きましたが、限られた時間の中で身の回りもきれいに片づけていました。亡くなる少し前には、私もいる病室で、主治医に“小猫は芸はもちろんだけど、仕事への考え方や価値観をちゃんと受け継いでくれました”と報告したんです。今でもその言葉を大切にしています」
ただ、父は母にだけは「せめて10年、70歳までは猫八でいたかった」と語ったそうだ。だからこそ、小猫さんはその年になるまでは継がずにいようと決めた。
彼には子どものころの強烈な思い出がある。
「まだ小学校に上がるかどうかのころだったと思うんですが、父と一緒にお風呂に入っていて、ウグイスの指笛に挑戦しようと指をくわえたんですよ。もちろん音なんてまったく出ない。そうしたら父が“貸してごらん”と僕の小さい小指をくわえてホケキョと鳴いてくれた。舌の当たり方とか、小指の付け根を噛む強さとか、今でも強烈に残っています」
懐かしそうに小猫さんはそう言った。そこから波乱に満ちた時を経て、ついに五代目猫八が誕生する。父も祖父も、そして初代(祖父の父)も、きっと楽しみにしているだろう。
(取材・文/亀山早苗)
【PROFILE】
江戸家小猫(えどや・こねこ) ◎1977年、東京都生まれ。高校在学中にネフローゼ症候群を患い、12年の闘病生活を乗り越え、'09年に立教大学大学院21世紀デザイン研究科に入学。同年、父である四代目猫八に入門し、大学院修了後、二代目「江戸家小猫」を襲名。都内の寄席を中心に、全国各地での講演会などで活躍。ウグイス、カエル、秋の虫など江戸家伝統の芸はもちろんのこと、テナガザル、ヌー、アルパカなど鳴き声を知られていない動物のネタも数多くある。日本全国の動物園とのつながりから、動物園イベントに出演する機会も増えている。'23年3月に五代目「江戸家猫八」を襲名予定。
◎江戸家小猫 公式Twitter→https://twitter.com/edoneko5
☆2022年12月28日『年忘れ二ツ目会』、12月30日『第690回 紀伊國屋寄席』、2023年1月3日『笑客万来 新春寿寄席』ほか詳しい出演情報は公式サイト内の情報ページ(https://edoneko5.info/free/stage)をチェック!