かわいい顔に似合わない「鋼鉄のおしり」の役割

──ウォンバットの生息地はオーストラリアなので、日本人の中にはウォンバットを知らない人もいると思います。どんな動物なのでしょうか?

 ウォンバットと聞いてイメージしてくれる人が10人いたとしたら、6人くらいがカピバラを思い浮かべると思うんですよ(笑)。

こちらがカピバラ(写真ACより)

──たしかに体形が似ている気がします。

 でも、カピバラはげっ歯類で、ウォンバットはカンガルーやコアラと同じ有袋類なので、まったく別の動物なんです。あと大きめのモルモットを想像した人もいるかもしれませんが、大きいものは体長が1メートルくらいあるし、体重も30キロを超えるものもいて、近くで見るとちょっと怖いくらいです。

草原の中に現れる巣穴の入り口 写真/『ウォンバットのうんちはなぜ、四角いのか?』(晶文社)より
ウォンバットの巣穴の断面図 写真/『ウォンバットのうんちはなぜ、四角いのか?』(晶文社)より

──それはかなり迫力がありますね。

 さらに穴掘りをする地球最大の動物で、長さ20〜30メートルくらいの巣穴を作るんですけど、人間の家のように台所、寝室、トイレというふうに用途に合わせて部屋が分かれているんです。外が氷点下になろうが、40℃になろうが、巣穴の中はだいたい10℃から20℃の間に保たれています。彼らは体温調節が苦手で、特に暑いところでは体力を消耗しがちです。そのため夏の暑い日は1日20時間くらいずっと巣穴の中で寝ていて、夜、涼しくなってから外へ出て草を食べるという生活をしています。

 そして、いちばん面白いのがおしりが硬いこと。これが「鋼鉄のおしり」で、机をグーで叩くとコンコンコンって音がするじゃないですか。それと同じくらいの硬さです。

──鉄兜(てつかぶと)がおしりにハマっているような?

 動物の体を触って硬いなというレベルじゃなくて、生き物じゃなく“物体”だなと思ってしまうくらいの硬さです(笑)。厚さ6センチもある硬い組織に覆われていて、噛まれても叩かれてもまったく痛みを感じません。

敵に襲われたら、硬いおしりで巣穴の入り口を塞ぐ 写真/『ウォンバットのうんちはなぜ、四角いのか?』(晶文社)より

──硬いおしりには、どんな役割があるんですか?

 天敵はほとんどいないんですけど、ディンゴやタスマニアデビルといった肉食動物に襲われることが稀にあるんですね。天敵に出会ったときにダッシュで最寄りの巣穴に逃げ込んで、おしりで入り口を塞(ふさ)ぐんです(笑)。

 そうすると、肉食獣のほうはチャンスだと思って、おしりに噛みつくわけですが、「鋼鉄のおしり」なので文字どおり歯が立たない。だいたいそこで諦めるんですけど、往生際の悪いやつがどうにかして噛みつこうと巣穴の奥に頭を突っ込むらしく、そこで巣穴の天井とウォンバットのおしりの間に挟まれて、頭を強く打ちつけられて気絶するか、最悪は頭蓋骨が砕かれて死んでしまうという……。ウォンバットは見た目によらず、けっこう荒々しい一面のある動物なんです。

ウォンバットの天敵・タスマニアデビル 写真/『ウォンバットのうんちはなぜ、四角いのか?』(晶文社)より

うんちが四角いのはなぜ?

──ちょっとびっくりですね。お顔がかわいいだけに。

 そうですよね(笑)。昔、オーストラリアでは子どもが巣穴に手を突っ込んで腕を折られたことがあって、ウォンバットの巣穴を見つけても絶対に腕を突っ込むなと言われています。

 それから本のタイトルにもなっていますが、ウォンバットのうんちは四角いんです。肛門が四角いわけじゃないですよ(笑)。これはウォンバットの腸の一部が、硬い壁と柔らかい壁が交互に存在する特殊な構造をしており、そこをうんちが通過することにより徐々に角が形成されていくという仕組みのせいなんです。あと、野生のウォンバットはあまり水を飲まないので、だいたいの水分を食べ物の草から取っているんです。水分を草から絞り出して体内に吸収するので、うんちが乾燥して硬くて四角い形状を保ちやすくなるというわけです。

ウォンバットのうんち 写真/『ウォンバットのうんちはなぜ、四角いのか?』(晶文社)より

──なるほど。

 あと、四角いうんちが表札代わりにもなるんですよ。基本的にウォンバットは単独行動で、ほかのウォンバットと絡むのが好きじゃないので、自分が巣穴の所有者だと縄張りを主張するために巣穴の入り口にうんちをするんですが、例え風が吹いたとしても四角いから転がらないので好都合なんですよね。