大人の国語力の立て直しも目的のひとつ。本書の構成には緻密な工夫が

──そういう狙いがあったんですね。

 国語力の衰退というのは問題意識のひとつにありました。例えば、「植え込み」とか「生垣」という日常語すら覚束(おぼつか)ない大学生が出てきているのです。トップクラスの偏差値の大学の学生で。

 語彙力の衰退は、「底辺」においては、石井光太さん『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋刊)に出てくる、「オノマトペ(擬音語、擬態語)でしか自らの罪を説明できない非行少年」を生み出しています。

 語彙力は国語力の基本ですから、とりあえず私は「上」の方から引き上げていこうと思ったのです。

「本書のような本を以前から書きたいと思っていたので書籍になって非常にうれしいですね」としみじみ 撮影/齋藤周造

──本書の構成は、語彙を辞書のようにただ羅列しているのではなく、宮崎さんがつづる文章や引用文の中で、その一つひとつが紹介されていきます。

 本書のスタイルはかなり工夫しました。大人はどうやって語彙力を増強するのか。どうやって新しい言葉に出合い、それを定着させ自家薬籠中(じかやくろうちゅう)のものとしていくのか。そのプロセスを語彙集という制約のある作りのなかで再現するためにはどうすればよいか。

(自家薬籠中のもの:手もとの薬箱の中にある薬品のように、いつでも自分の思う通りに利用できる物や人など。思うさま使いこなせるもの。/『教養としての上級語彙―知的人生のための500語―』より・以下同)

 まず掲載する「上級語彙」を500〜600語ほど選んで、本文を読み進めるうちにその言葉たちに自然なかたちで出合えるように本文や語釈文、作例に埋め込みました。本文中の語彙は山括弧〈 〉で囲ってあり、その直後に辞書的な語釈や作例が載っています。さらに、その語釈や作例に次の語彙が埋め込んである、という仕掛けです。

 呉智英さんがこの工夫を週刊文春の書評で「解説文中に、その言葉を意図的に使い、すぐ後で出典を示す手法は、国語の名教師などが得意とするが、本書もこれに似ていようか。難読語を羅列しただけの類書もよく見るが、それでは記憶に残りにくい」と評価してくださったのはうれしかったね。