俳優自身が「裏設定」を考えて
監督の外山文治は現在42歳。
20代後半から高齢者の問題に関心を寄せ、2013年、33歳のときに映画『燦燦 -さんさん-』を発表。吉行和子が主演し、シニア世代の婚活をチャーミングに描き出した作品だったが、若い監督の商業映画デビュー作としてはかなり異色にも感じられた……。
「正直に言うと “若手監督の輪” に入れなかったんですよ。若い作家に求められる “お題” に応えられなかった。
例えば非常にスタイリッシュな映像であったり、最先端のお笑いであったりユーモアであったり、時勢をとらえて若者に向けて発信する。若手監督というのはそうした役割を担わなきゃいけなくて……。そこから私はハズレたんですよね。ハズレたし、無理して続けると私自身はちょっと難しいよな、という思いもあったので、やっぱり挫折はしたと思いますね」
「でも若いときって、心情として挫折を認められないので(苦笑)。あんまり自分が挫折したとは思いたくないし、いろいろと悩んだりもしました。そういった中で別の方法がないかなと模索していたときに、若手の枠を超えてシニアの方々に向けて作るというところにたどり着いたという感じです」
そうやってオリジナリティーを獲得する一方で、2020年に公開した前作『ソワレ』は、若い男女の切ない逃避行を描いた作品だった。村上虹郎と芋生悠が主演し、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画としても話題になった。
「自分自身が若手から真ん中の世代になってきて、逆に『ソワレ』のように若い俳優を撮る企画も手がけるようになったので、今後はバランスよくやっていこうと思います」
「これは余談になりますが、『ソワレ』を見たお客様から “正当防衛なのに、なぜ逃げるんだ!?” という声がたくさんあったんですよ。でも作り手としても法律の専門家が見ても、あれは懲役刑になってしまう事件なんですね。
そんなこともあって今回の『茶飲友達』では、売春組織の中に顧問弁護士がいて、常に法律家の見地から状況を観客に示す設定にしたんです」
それが映画の中で「先生」と呼ばれている中年男性。演じた俳優(光永聖)も、もちろんワークショップオーディションで選ばれた。
「あれは裏設定もあるんです。今回の俳優はみんな自分が演じる役柄の背景を自分で考えてきたんですが、彼が考えたのは “あの弁護士は(主人公の)マナさんが、かつて風俗嬢をやっていたときのお客さんだった” という(笑)。
そうやって監督が指示するだけではなく、すべての役者が “自分はこういう人生を歩んできたんだ” というアプローチをしてくれました」
マナを演じた岡本玲は、NHK朝ドラ『純と愛』『わろてんか』にも出演。どちらかというと清純派というイメージだろう。
「岡本玲さんも自分から応募してきたんです。彼女の言葉を借りると、これまでテレビタレント的な仕事だったり舞台の経験はあるものの、自分の好きな “映画” とからむ機会が少なく、それがコンプレックスだった。自分から近づきたい思いがあって受けに来ました、と。
いま彼女は31歳。この何年かずっと舞台で鍛えてきた実力は知っていましたが、これまでの映像作品ではその上手さが存分に発揮されているものがないように感じたんです。“やり直しのきかない芝居が見たいんだ” ということを伝えて、マナというキャラクターが完成しました。
確実にこれまでに見たことがない岡本玲さんが見られると思いますし、彼女の人生の転換期になるような作品になってくれればと思います」
【作品情報】
映画『茶飲友達』
監督・脚本/外山文治
出演/岡本玲
磯西真喜 瀧マキ 岬ミレホ 長島悠子 百元夏繪 クイン加藤 海江田眞弓 楠部知子
海沼未羽 中山求一郎 アサヌマ理紗 鈴木武 佐野弘樹 光永聖 中村莉久 牧亮佑
渡辺哲
製作/ENBUゼミナール
渋谷・ユーロスペース、名古屋・名演小劇場ほか全国順次公開!