フォロワー数は1万人以上、一躍 “時の人”に
裁判は今のところ連敗です。
さいたま地裁、東京高裁は、「先生の仕事には自主的・自発的な勤務が多く、一般の労働者と同じような時間管理はなじまない」という考え方を採用しています。その結果、行政が残業代を支払う必要はない、(少なくとも田中さんに対しては)時間外労働に対する損害賠償も必要ない、という判断です。
田中さんは現在、最高裁に上告しています。もし勝ったら先生たちの働き方が大きく変わる裁判ですから、そう簡単ではないようです。
でも、田中さんは全然しょげていません。裁判を応援する人が莫大に増え、その存在が劣勢な裁判を闘う田中さんを勇気づけているからです。
学校の先生の長時間労働は深刻です。小学校の先生の3割超、中学校の先生の約6割が過労死ラインを超えて働いているという調査結果もあります。そうした状況を改善するためのものとして期待され、学者や弁護士、そして何より現役の先生たちや教職を目指す学生たちが、田中さんの裁判を支援しています。
田中さんは提訴のころから自身のホームページを作り、Twitterも始めました。そのフォロワー数はどんどん増え、今では1万5000人を超えています。東京高裁で敗訴した昨年9月、田中さんのTwitterアカウントにはたくさんの励ましの声が寄せられました。
〈応援しています。戦ってくれてありがとうございます〉
〈声を上げていただき、本当に嬉しいです〉
“裁判の話”から“教育の話”へ
いまや「時の人」ともいえる田中さん。でも、裁判はあくまで「余技」でしかありません。本当の活躍の場は埼玉県内の公立小学校の教室の中です。60歳を過ぎた今も、再任用教員として「担任」を続けています。
「昔、担任した子にこんな子がいてね」
「あの子は卒業してからも中学、高校で活躍したって聞いてますよ」
裁判について筆者が取材していると、話題はいつのまにか「脱線」していきます。暴力をなくすにはどうしたらいいか。ひとりぼっちの子にどうやって友達を増やすか。子どもの学力とは何か──。
'81年に小学校の先生になって以来、教員生活はおよそ40年。教えた子どもの数は1000人を超えるそうです。大人になってからも付き合っている教え子はたくさんいて、SOSがあればいつでも駆けつける。「教え子はいつまでたっても教え子」というのが田中さんの考えです。
筆者はだんだん、裁判のことだけでは聞き足りない気がしてきました。勤務してきた小学校での出来事や、担任した子どもたちのことを聞きたい。田中まさおさんの言葉の中には、これからの教育を考えるヒントが詰まっているのではないか。そう期待してこの連載を始めます。ぜひお付き合いください。
(取材・文/牧内昇平)
◎著者・牧内昇平Twitter→https://twitter.com/makiuchi_shohei