ある人物の言葉で見つめ直した、鰹節との向き合い方
かつお旅を続ける一方、クラブやライブハウスで鰹節を削ってアピールする活動も。
「ギャル時代のつながりから、クラブやバー、ライブハウスでも削ったりして鰹節をアピールしていたんです。珍しいから注目されるんですよね。
かつお食堂を始める数年前、渋谷のクラブ『WOMB』でイベントに出たことがありました。スケボーの真ん中をくり抜いて、カンナを嵌(は)めたオリジナルの削り器を作ったんです。いろんな人に見てもらえるチャンスだと思い、派手な音楽をかけて、さらし1枚で踊りながら鰹節を削りました」
鰹節そのものの魅力を伝えることよりも、パフォーマンスを魅せるほうに意識が向いていたと振り返る。
「みんなが“楽しかった”と言ってくれた中、“残念だった。本当に鰹節好きなの? 削った鰹節があちこちに落ちちゃって、もっと工夫すれば無駄にならなかったんじゃないの”と、たった1人に言われたんです。それがショックで。鰹節が好きっていうのはただの思い込み? 珍しがられることが快感だったのかな? ってドーンと沈んでしばらく削れなくなってしまいました。
それから1か月ぶりに鰹節を削って作ったのが、年越しそばのつゆ。味にうるさい姉がおかわりをしてくれたのが嬉しくて、やっぱり私は鰹節が好きなんだ、おいしいと言ってもらえる喜びを大事にしたいなと感じることができた。それで、鰹節をおいしく食べてもらえる場所が欲しいと考えたんです。
そのころバーを始めたばかりの先輩に胸の内を相談したら、朝ごはんの店をやってみたらって言われて。バーの営業は夜だけだから、朝と昼にお店を貸してもらえることになりました」
鰹節ごはんの店を2017年にオープン。経営の難しさの一方で、新たな出会いや発見もあった。
「クラブで踊りながら鰹節を削ったときに“残念だった”と言った姉さんは、書道家なんです。この『かつお食堂』の看板を書いてもらいました。彼女には本来の食の大切さを気づかせてもらって今でも感謝しています。
ごはんとお味噌汁で1100円なんです。この値段の背景にはとてつもない苦労もあるので、その価値を感じてくださる方に来ていただけると嬉しいですね」