どこにでもある日常を再現したリアルなコントと、抜群の演技力で注目されるお笑いコンビ、スクールゾーン。登録者数16万人以上の公式YouTubeにアップされる「のぞき見シネマ」が人気です。

 夜毎どこかで繰り広げられていそうな男女の攻防から、ほろり甘酸っぱい青春劇まで、まるで誰かの人生を「のぞき見」しているようなリアルさはまさにシネマそのもの! 名作を生み出すプロセスや、スクールゾーンのコントの原点、今後の目標を聞きました。
(※インタビューの前編は『“細かすぎて伝わらないモノマネ”をユーミンや竹中直人も絶賛! コンビ芸人・スクールゾーンのあるあるネタ誕生秘話「僕らは落ちこぼれ組だった」』

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なぜか月9デビューを果たし、コントの才能が開花!

──漫才がしっくりこず悩んでいた頃、転機となる出来事があったそうですね。

橋本 コンビを組んで5年目くらいの頃、マネージャーに悪ふざけで「月9のオーディション受けて来いよ!」って言われて、吉本芸人何人かで行ったんです。相葉雅紀さん主演の『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ系/2015年)というドラマ。

俵山 オーディションではしもが潔癖症のキャラクターを演じて、それがめちゃくちゃ無双して(笑)。結局、はしもひとりだけ合格! でも、僕もヒロインの沢尻エリカさんを一目見たくて撮影現場についていって。

橋本 そこでふざけて“役者の橋本とマネージャーの俵山”というミニコントをやっていたら、監督がおもしろがってくれたんです。

俵山 結局、僕も下っ端刑事の役でドラマに出してもらえて。だから僕たちの初めての地上波デビューは月9。はしものおかげです。

橋本 もし僕たちコンビが仲良くなくて、現場でミニコントをやってなかったらこうはならなかった。だから全てが大事だし、監督はいろんなことを見ているんだなぁと思いました。

俵山 ドラマのあと、神保町花月というコメディ芝居の劇場に出るようになって「芝居がうまいね」と言われたんです。この世界に入って、ほめられたのはそれが初めてでした。

──漫才からコントへの転換はどのようなきっかけだったんですか。

俵山 ライブの構成作家の山田ナビスコさんから「おまえらの漫才、誰も見たいと思ってない」って言われたんです。ネタに囚われずに、パフォーマーや俳優の方向を模索してもいいんじゃないかと、僕らに合ったやり方を引き出してくださって。

橋本 そこからだんだん楽しくなっていったよね。初めて芸人にもお客さんにも受けたのが『出待ち』っていうコント。お笑いファンの出待ちをリアルにものまねで表現したんです。お客さんのことを笑いにして大丈夫かなって最初は怖かったけど。

俵山 でもみんな、自分のことじゃないと思って笑ってた(笑)

スクールゾーンのコントの原点ともなった『お笑いライブの出待ち』。YouTubeではピン芸人のたつろうさんとコラボ(YouTube「スクールゾーンChannel」より)

竹中直人さんも認めるふたりの演技力

──月9で共演された竹中直人さんもおふたりのことを絶賛されていて、単独ライブにゲスト出演されるなど交流が続いているそうですね。

俵山 僕らが大事にしていることの中には、お笑いという土壌では加点にならない日陰の部分もあるんです。でも竹中さんはそこに感動してくださる。とっぴな設定のコントじゃなくても「人間のおもしろさってそこだよね!」って。自信が持てるし、ありがたいです。

橋本 竹中さんには本当にたくさんの大切な言葉をいただいてます。「いつか俺が監督するから二人で出てくれ」とも言ってくださって。お約束してるんです。

──公式YouTubeでは、「のぞき見シネマ」という短編のストーリーを毎週更新されています。物語の着眼点やおふたりの演技力が話題で、再生回数を伸ばし続けていますね。

俵山 大まかな設定と、絶対に入れたいセリフだけふたりで決めて、あとはほぼアドリブです。オチすら決まってないこともあるけど、それがエチュード(即興劇)のよさだから。

橋本 僕たちは劇場のコントでも台本を書かないし、そもそも台本がないんです。

──20~30分ほどの作品を長回しの1カットで撮られていることがほとんどですが、撮影時間はどれくらいですか?

橋本 だいたい2~3時間。4時間以上かかるときもあります。1カットだと間違えたら最初から撮り直しですけど、そこは僕らが頑張ればいいだけなんで(笑)

俵山 1カットの色や良さはたくさんあるけど、ほんとはもっとカット数を増やして短編映画のようにしたい。今年は挑戦します!

ファンのあいだで根強い人気を誇る『儚いクリームソーダ』は、喫茶店を舞台にした約12分の物語。大学生カップルの5年にわたる時の移ろいを、限られた空間と時間の中で見事に表現した(YouTube「スクールゾーンChannel」より)

学生時代の孤独感も物語の種に

──俵山さんの女性の演技が、話し方や、ふとした表情、髪のかきあげ方まであまりに自然で、とても男性とは思えないという声も多いですね。

俵山 たとえば女子高生を見ていると、エロい視点ではなく「あれになりたい!」って思っちゃう。憧れや変身願望もあるし、女性そのものが好きでもあるし。でもコスプレにはあまり興味がなくて、リアルな人間や、映画の登場人物に目がいきますね。衣装はしまむらやネットで大きなサイズを探してます。

──橋本さんが周囲とあまりうまくいかない男子学生を演じられることもたびたびあって、笑いながらも切なくなることがあります。視聴者から「これを見て救われる人もいるのでは」というコメントもありますね。

橋本 救いたい、なんておこがましいです。ただ自分たちがやりたいことをやっているだけ。でも作品では「前を向いてる」とは思っています。自分も、いじめまではいかないけど、サッカーが下手でボールが回ってこなかったり、そんな一瞬はありました。孤立したことや、劣等感もあったし。

俵山 僕も、同級生がみんな大学に進学するなか、自分だけがお笑いに進む孤独感はありました。芸人になったらなったで、周りがみんなおもしろいし、自分は向いてないかもという孤独感。そういう部分から抽出しているのかもしれないですね。

橋本 先生に「お笑いやりたい」って言って、「無理だよ」って冷たく言われたときの表情、空間、そんなのもはっきり覚えてるし。

俵山 だから『イマジナリースカーレット』のスカーレットみたいに、“助けてくれる人”っていうのは当時の願望もあるのかも。でも、ハッピーエンドの物語だなんて思われるのもすごいいやだしむかつく。ただ、ひとりの人間を見せているだけです。

橋本 今になってやっと、本当の仲間を見つけたという感じですね。スクールゾーンという……。

俵山 えっ、なにそれ(笑)。

空想上の友人“イマジナリーフレンド”がテーマの『イマジナリースカーレット』。郷愁を誘う秩父の風景と、柔らかな陽ざしも印象的(YouTube「スクールゾーンChannel」より)

普通のふたりが紡ぐ普通の日常

──撮影場所も、実際の店舗や生活感のある部屋、どこにでもあるような懐かしい田舎の風景と、とてもリアルです。

橋本 『恋じゃない』では、実際の「名代富士そば」の店舗で撮影させていただきました。社長さんがテレビで僕たちのことを見てくださっていて。富士そば大好きだからうれしかったです。

俵山 家庭内の設定では、実際に人が住んでいる部屋をお借りして撮影してます。生活感をそのまま残してほしいから、あんまりきれいに掃除しないで、ってお願いして。

橋本 いくつかの作品で撮影・編集を担当しているHirokiは僕の地元の秩父の友達で、いろいろ撮影場所を探してくれるんです。彼は実家がパン屋さんなのに小麦アレルギーで、つむじが3つあって。知り合いの社長にだまされて400万円借金して、奥さんにも逃げられて、首をつろうとして。そんなわけで今は秩父の実家で暮らしつつ借金を返してるんでね、ロケハンにも行きやすいんですよ。

俵山 そんなHirokiのプライベートさらして……(笑)。

名代富士そば・恵比寿店で撮影された『恋じゃない』。小さなそば店の中で恋にまつわるあらゆる感情がてんやわんや(YouTube「スクールゾーンChannel」より)

──甘酸っぱい青春模様や熟年夫婦の何気ない日常など、たくさんの物語のアイデアはどうやって生まれるんですか。

俵山 中学生が黒板に「sex」と書いて大騒ぎする『S○X friend』は、ラスト以外はほぼはしもの実体験。僕、この話を聞いたときに絶対にやりたい!と思って。劇場のコントでもやりました。

橋本 お互いに自分の思い出を話して、それを映像にすることは結構多いです。

俵山 元夫婦が7年ぶりに再会する『そこで朔く花』は、まず花屋という撮影場所ありきで始まって。ここで何をしようか、あんまりしゃべらなくていいかも、とか。

橋本 不器用なおじさんっていいよね、とか。

俵山 そんなふうに話し合っていくなかで生まれました。僕たちは突出してお笑いの才能があるわけじゃなくて、普通だからこそ、普通の人たちの物語が思い浮かぶのかもしれません。

目指すはKOC優勝!

──最後に、これからの目標を教えてください。

俵山 『キングオブコント』優勝です! 一時期、賞レースを目指すことをやめた時期が3年くらいあって。俳優業をやったほうがいいのか迷ったり、どこに向かっているのかわからない時期。

橋本 そんなとき、ネルソンズの和田まんじゅうさんが「おまえらコントおもしろいから、ちゃんと賞レース目指したほうがいい!」って声をかけてくれて。

俵山 和田さんのおかげで「まだ頑張っていいんだ」って思えたんです。だから『キングオブコント』を目指しつつ「のぞき見シネマ」ももっとこだわりたい。照明や音声、メイクにも力を入れて、俳優さんにも出てもらって、シアターでやりたいなって。3月の単独ライブのあとに、撮影チームのことも真剣に考えたいです。

橋本 あと、幸せになる。

俵山 もう幸せだもん。2年くらい前からはバイトせずに芸人だけでやってけるようになったし、値段を見ずにごはんも食べられるようになって。

橋本 そうだね、貯金もできるようになって。

俵山 衣食住足りて、そのうえ貯金もできるのはぜいたくだよね。『キングオブコント』を目指すようになってから、芸人仲間たちと同じ志に向かって一緒にやっていけるのもすごくぜいたくなことだと感じてます。

橋本 今は、約1年ぶりとなる3月の単独ライブに向けて頑張ってます。おかげさまで一般チケットは完売しましたが、ぜひ配信チケットで見ていただけるとうれしいです!

3月18日の単独ライブ『花冷えにより、』に向けて準備の日々。今後の活躍に注目! 撮影/吉岡竜紀

(取材・文/植木淳子)

【PROFILE】
スクールゾーン 2010年12月にコンビ結成。東京NSC16期生。緻密な人間観察をもとにしたコントが人気で、東京・渋谷のヨシモト∞ホールを中心に活動中。公式YouTubeで「のぞき見シネマ」を毎週土曜日に更新。

◎スクールゾーン単独ライブ「花冷えにより、」2023年3月18日(土)
配信開始14:00 配信終了15:00 ※見逃し視聴は3/20(月)14:00まで

◎「花冷えにより、」の配信チケットはこちらから
https://online-ticket.yoshimoto.co.jp/products/yurakucho-230318-1400
◎YouTube「スクールゾーンChannel」https://www.youtube.com/@SchoolzoneChannel
◎俵山峻Instagram https://www.instagram.com/tawara711/
◎橋本稜Instagram https://www.instagram.com/schoolzonehsm/