耳から送られてくる心身のアラートに気がつくことが大事 

 堀院長は、岩田さんとの連携によって、耳管開放症の症状が改善してきた例を何度も見てきたという。

「医療のゴールは症状がなくなることではなく、幸せの回復。本人が以前よりも幸せな日々を送れるようになって初めて、治ったと言えるのではないでしょうか。

 レーシングコースで、車がすごいスピードで回り続けているのがストレスフルな状態だとして、故障したり、限界が来たりするとピットインで修理することになります。

 カーレースであればまたコースに復帰するわけですが、私たちは人間なので、もう限界まで走り続けなくてはならないレースには戻りたくなくなるはず。

 耳管開放症という身体の“警報器(アラート)”は、カーレースで故障したような状態でもあります。これをきっかけに、自分にかかっていた過度な負担や限界に気づき、根本から見直し、生き方のシフトチェンジができれば、きっと心身ともに充実し、以前よりも無理なく、楽しみながら生きていけるようになることでしょう」

 多忙でストレスにさらされることの多い現代社会では、心身の休息を十分に取ることができず、「疲れているから耳鳴りがするのかも」と不調をやりすごす人も少なくない。

 それを耳の“アラート”としてとらえることができれば、心身ともにバランスを整えるきっかけになるかもしれない。

カーレースに戻るためには、一度ピットイン(病院)で壊れたボディ(心身)を直すことが大切だ ※イラストはイメージです

※注意点:自己診断は、ときに危険です。急に難聴や耳閉感や耳鳴の悪化した方は、まずは、早急に身近の耳鼻科で検査と治療を受けましょう。例えば、急性の難聴で発症する「突発性難聴」であった場合は、1日でも早く内服治療を開始することが、より高い治癒率につながります。

(取材・文/吉川明子、編集/本間美帆)


【PROFILE】
堀雅明(ほり・まさあき) ほりクリニック院長。医家の5代目。昭和大学医学部卒業。祖父から父に受け継いだ堀耳鼻咽喉科医院から、ほりクリニックに改名(東京都大田区)。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医。耳鳴や耳管開放症などの対症療法だけではなく、東洋医学や心療内科的観点や生活習慣などを考慮しつつ、統合医療で根治を目指す。翻訳した書籍に『内なる治癒⼒こころと免疫をめぐる新しいい医学』(創元社)、『がん治癒への道』(創元社)がある。耳管開放症研究会会員。趣味は、ヨーガの実践。

ホームページ:https://www.horiclinic.org/