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埼玉県内のとある小学校で教える「田中まさお」さん(仮名)。全国の先生たちの“働きすぎ状態”を変えるため、たったひとりで裁判を起こしたことで大きな注目を集めています。でも、田中さんの本当の活躍の場は「法廷」ではありません。「教室」です。教員生活40年、教え子の数は約1000人。ベテラン先生がいま、伝えたいメッセージとは……。

社会

「“失敗させない”学校教育は間違っている」、『まち探検』すら厳しくルール化する現状を現役教師が疑問視

SNSでの感想
田中まさおさんも学習の指導には力を入れている
目次
  • 考える力、聞く力を身につけるために
  • 東大に行った秀人さんの思い出
  • 学校は本来、“失敗するための場所”
  • 失敗させない教育は間違っている
  • 「将来は博士になれるぞ!」とベタぼめ
  • 大事なのはテストの点でなく、人生に勝利すること
「教員にも残業代を!」と裁判を起こした田中まさおさん(仮名)。2023年3月に敗訴が決定したものの、「第2次訴訟にチャレンジする」と宣言しています。この連載では裁判のことだけでなく、田中さんが教員生活40年で培った「教育観」「子ども観」についても紹介します。子育てや教育のヒントが、きっとつまっているはずです。

 今、日本中の学校で「学力テスト」の嵐が吹き荒れています。2017年、文部科学省は「全国的な学力の状況を把握するため」として、このテストを始めました。都道府県別の順位が発表されるためか、教育委員会、学校の中には「学力テストの点数を上げよう」と張り切っているところがあるようです。テスト前になると宿題の量が増えたり、過去問を解かせて正答率を上げたり。そういう現象が起きています。

 でも、この現象に「あれ?」と思う人も多いのではないでしょうか。ペーパーテストで本当の学力がわかるの? 本当の学力って、そもそもなんだろう? そんな疑問を田中まさおさんにぶつけてみました。(聞き書き/牧内昇平)

※本文中に登場する子どもの名前はすべて仮名です。

考える力、聞く力を身につけるために

 私も勉強は重視しますよ。授業をするのが教員の仕事ですから。その子の生まれ持った「学習能力」を大きく変えることはできません。けれど、能力があまり高くない子でも「大学に行きたい」という気持ちがあれば、大学に行けるようにする。それが教員の役割だと思います。もちろん、誰もが大学に行く必要はありません。でも、大学に行きたいと思っているのに行けないのは悲しいじゃないですか。人生の選択肢はなるべく広げてあげたい。だから小学校のうちに、その子の「伸びしろ」を作ってあげたい。ツーランク、スリーランクではありません。あくまでワンランク上に行くための伸びしろです。

 そのために何をするか。「日々の積み重ね」あるのみです。と言っても、「計算ドリルを毎日やらせて計算を早くする」とか、「漢字ドリルで漢字をマスターさせる」とか、そういうことではありません。

 物事を深く考える力、人の話を聞いて自分の人生に生かす力。そういう力を子どもたちが小学校での経験の中で身につけられるように努力しています。中学でも高校でもなく、小学校の教員だからできることだと私は思っています。

東大に行った秀人さんの思い出

 もちろん、教え子たちの中には東大に入った子もそれなりにいます。中でも印象に残っているのは、秀人さんかなあ。東大に入ったからではなく、小学校6年間のうち3年間も担任していたので印象深い子です。

 両親ともにエリートの家庭ですが、初めて会ったときにお母さんがこう言いました。「うちの子は家で弟をいじめています」教室ではそんな素振りはまったく見られなかったので、私は驚きました。それからですね。私が秀人さんに注目したのは。

 秀人さんは善悪の判断がしっかりでき、人への思いやりもある子でした。人を優先する余裕もあり、自分の意見も言える。成績も優秀。でも、リーダーシップを発揮するタイプではありませんでした。優秀な秀人さんだからこそ、リーダーシップを発揮できる子になってほしい。将来的にはそういう力も必要だろうと思い、私は彼を児童会の中心人物にしました。そして、どんな風に成長するかを見守っていました。

 児童会の役員になった当初は、とにかく人一倍、恥ずかしがりやでした。そんなとき、秀人さんが急に「林間学校に行かない」と言いだす“事件”がありました。「行く意味がない」というのが不参加の理由でした。親がそれを認めて簡単に欠席させたのには驚きました。

 私はこのとき、6年生の修学旅行には必ず参加させたいと思いました。もちろん教員が参加を強制したらダメです。どうにかして1年間のあいだに林間学校へ行かなかったことを秀人さんに後悔させ、修学旅行には自分から「参加したい」と思うようにさせたかった。そこからは地道な取り組みです。ことあるごとに「あのときの林間学校は楽しかったよなあ」と、集団活動の楽しさをクラスでみんなに話しかけていきました。集団で楽しめるイベントもたくさん企画しました。その中で秀人さんは中心的な役割をすることが多かったので、何か感じるものがあってほしいと私は願っていました。

 1年後、秀人さんは修学旅行に参加しました。後で「楽しかった」と話してくれましたよ。私の作戦が成功したのか、自然の成り行きだったのか、結果はどちらかわかりません。でも、そんなことはどうでもいいのです。5年生のときは林間学校に行かなかった子が、6年生の修学旅行には行った。リーダーシップを発揮する子に育っていった。卒業後、高校では合唱部の主将を務めるなど活躍していました。それで東大に。

 林間学校への参加を決して強制しなかったけれども、そのことを踏まえて次のための手立てを考えていく。これが「子どもを育てる」というプロセスだと思います。中学や高校は教科によって教員が代わりますが、小学校は担任がずっと同じ子どもを見ている。だからこそできる「大切な教育」です。

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