運動会の全体練習で聖華さんが起こした“小さな奇跡”
再び1年生の聖華さんの話に戻ります。同じクラスに未来さんという、幼いころに重い病気を患った子がいました。長く入院していたことが影響しているのか、大人とはうまく付き合えるのに子ども同士のコミュニケーションが苦手な子でした。未来さんは、友達からかけられる言葉がきついという不安から始まって、みんなが自分を置いて先にいってしまう、通学班の歩く速さについて行けないなど、さまざまな不安から登校を渋るようになっていました。
その日は運動会の全体練習でした。私は他の子どもたちを把握するのが精いっぱいなので、未来さんのことはお母さんが一緒についてクラスの子たちが並んでいるところまで連れていきます。しかしこの日は、うまくいきませんでした。お母さんや他の先生たちがいろいろと声をかけてくれましたが、未来さんは子どもたちの整列に加われず、硬い表情で校庭の端っこに立ち尽くしていました。私も手が空いたので声をかけようと思いましたが、未来さんの顔には「今日はもう無理」と書いてある気がして、諦めました。
そのときです。聖華さんが子どもたちの列の中から飛び出し、棒立ち状態の未来さんのほうへ、ひょこひょこと走っていったのです。そして未来さんの前に立ち、何か話しかけたと思うと、その手を引いてクラスの列のほうへ連れてくるではありませんか! 周りにいた先生たちとお母さんは、ただただその場面を見ているだけです。
手をつないだ2人が校庭の真ん中に走ってくるのを見て、私は感動してしまいました。私が同じことをしても、未来さんはきっと拒否したでしょう。聖華さんが、普段友達にしてもらっていることをごく自然な形で再現したから、未来さんは受け入れたのだと思います。聖華さんが起こした小さな奇跡でした。
(取材・文/牧内昇平)
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