運動会の全体練習で聖華さんが起こした“小さな奇跡”

 再び1年生の聖華さんの話に戻ります。同じクラスに未来さんという、幼いころに重い病気を患った子がいました。長く入院していたことが影響しているのか、大人とはうまく付き合えるのに子ども同士のコミュニケーションが苦手な子でした。未来さんは、友達からかけられる言葉がきついという不安から始まって、みんなが自分を置いて先にいってしまう、通学班の歩く速さについて行けないなど、さまざまな不安から登校を渋るようになっていました。

 その日は運動会の全体練習でした。私は他の子どもたちを把握するのが精いっぱいなので、未来さんのことはお母さんが一緒についてクラスの子たちが並んでいるところまで連れていきます。しかしこの日は、うまくいきませんでした。お母さんや他の先生たちがいろいろと声をかけてくれましたが、未来さんは子どもたちの整列に加われず、硬い表情で校庭の端っこに立ち尽くしていました。私も手が空いたので声をかけようと思いましたが、未来さんの顔には「今日はもう無理」と書いてある気がして、諦めました。

 そのときです。聖華さんが子どもたちの列の中から飛び出し、棒立ち状態の未来さんのほうへ、ひょこひょこと走っていったのです。そして未来さんの前に立ち、何か話しかけたと思うと、その手を引いてクラスの列のほうへ連れてくるではありませんか! 周りにいた先生たちとお母さんは、ただただその場面を見ているだけです。

 手をつないだ2人が校庭の真ん中に走ってくるのを見て、私は感動してしまいました。私が同じことをしても、未来さんはきっと拒否したでしょう。聖華さんが、普段友達にしてもらっていることをごく自然な形で再現したから、未来さんは受け入れたのだと思います。聖華さんが起こした小さな奇跡でした。

(取材・文/牧内昇平)

【第2次訴訟の原告を募集中】

 田中まさおさんの裁判を支える「田中まさお支援事務局」は'23年4月23日、第2次訴訟の原告の詳しい募集内容を公開しました。主なポイントは以下の4点です。

《原告の応募条件》
1. 個人的な利益ではなく、本訴訟の趣旨に賛同してくれる人
2. 給特法が適用される、公立学校の現役教員もしくは元教員の人
3. 長時間労働を理由とする国家賠償請求を行いたい人
4. 正式に原告となる場合、訴訟費用として20万円を負担できる人

 田中まさお支援事務局によると、すでに教員を退職した人でも、時効(原則3年)が過ぎていなければ裁判を起こせます。また、裁判の費用については、クラウドファンディングなどで寄付を募るため、個人の負担は20万円に抑える、としています。7~8月の夏休み期間に説明会を開き、そこで弁護士や支援事務局のメンバーたちが面談を実施します。詳細は田中まさお支援事務局のTwitterアカウントなどへ。

◎田中まさおさん公式Twitter→https://twitter.com/trialsaitama
◎田中まさお支援事務局公式Twitter→https://twitter.com/1214cfs
◎著者・牧内昇平Twitter→https://twitter.com/makiuchi_shohei