みんなの作り出す空気感が、自分の道しるべになる

――3月公開の映画『ロストケア』に続き、今作も前田哲監督作になりますが、シリアスな作品・役と、今作のようなコメディタッチの作品との振り分けで気をつけた点はありますか。

 特にないですね。どの作品でも、台本とセットがあって、衣装やメイクがあって、共演者がいて。その空気はどれも全然違うので、僕はそれに乗っかっているだけなんです。自分からシリアスな雰囲気やコメディの空気感みたいなものを出すことって、すごくエネルギーを使うし、疲れるんですよ(苦笑)。なので、みなさんが作り出す空気感が自分の道しるべになっているというか、作ってくれた道をまっすぐ歩いているような感じです。

 監督と話していたのは「持て余している人」を僕たちはどういう風に生かしていくべきか、ということでした。それは作中で小四郎がやっていることでもあると思うんですけど、僕もそこを大事にしていました。

松山ケンイチさん 撮影/篠塚ようこ

――『ロストケア』は、前田監督と長年にわたって温めてきた作品だったと伺いました。

『ロストケア』に関しては、原作が書かれたのは10年ぐらい前なんですけど、介護殺人や「8050問題」など、当時ではあまり表に出ないような、新聞でも小さく報じられる程度の問題が、ここ数年でどんどん大きくなって認知されるようになりました。その中で、「役に立たない人間は必要ない」といった優生思想のような考え方も出てきてしまった。表現の仕方によってはそちらに捉えられてしまう可能性もあったし、みんながそういう風に思ってしまうと作品としてはアウトなので、そこの表現に関しては監督と詰めていったところはあります。