伝わりやすく、刺さる文章にする!

 続いて、後半の五訓について。

 六、大事なことは繰り返す

 セミナー講師は“もっとも伝えたい大切な部分”について、手を替え品を替え、同じ内容を繰り返し伝えます。実は文章でもこれが大切。一度だけでは、読み飛ばされてしまう可能性があるからです。

 知人のビジネス書の著者は、「大切なことなので、もう1回書きますね」と前置きして、同じ内容を書くことがあります。というわけで、読者に伝えたい大切なことは、遠慮なく繰り返して書きましょう(と、繰り返し書いてみました)。

 七、頭でなく、心に訴える

 読んでいて、なぜか、なかなか頭に入ってこない文章ってありませんか? それは、書き手が「頭で書いている文章」だからです。

 一方、ビンビン伝わってきて心を揺さぶられる文章もあります。それは、書き手が「心で書いている文章」だから。それこそ、書き手が自分で涙を流しながら書いているような文章は、やはり響くものが違います。

 八、説得しようとしない(理詰めで話を進めない)

 こうだからこう、こうだからこう、と矢継ぎ早に書かれると、読者は「本当にそう?」と少し引いてしまいます。論文ならいざ知らず“人のために文章を書く”のであれば、「読ませどころ」が欲しい。ちょっとしたエピソードやユーモアなどを入れると、文章に余裕や奥行きが生まれます。

 九、自己満足をしない

「自分は文書がうまい」と思っている人が陥りがちな落とし穴です。スラスラと文章が書けてしまう人は、少し時間を置いてから、書き終えた文章を「冷めた目」で読み直して、自己満足になっていないか? をチェックするとよいと思います。

 十、ひとりのために書く

 表現を変えれば「読者ターゲットを絞って書く」ということ。同じビジネスパーソン向けの文章でも、若手社員向けの文章とマネージャークラスへ向けた文章では、おのずと視点も表現も異なります。

 逆に言えば“誰に向けた文章”なのかがわからなければ、的確な文章は書けないということ。ですから「頭の中に明確に読者をひとり、思い浮かべて書きなさい」と言っているのですね。

 というわけで、あらためて「実用文十訓」は次のとおり。

 一、やさしい言葉で書く
 二、外来語を避ける
 三、目に見えるように表現する
 四、短く書く
 五、余韻を残す
 六、大事なことは繰り返す
 七、頭でなく、心に訴える
 八、説得しようとしない(理詰めで話を進めない)
 九、自己満足をしない
 十、ひとりのために書く

 こうやって、ツッコミを入れながら一つひとつ見ると、改めてこの「実用文十訓」の「鋭さ」と「使い勝手のよさ」がわかります。

 昭和の名編集長、花森安治氏。とことん読者の読みやすさを意識し、読者の役に立つ記事を提供し続けたからこそ、その精神を受け継いだ『暮しの手帖』は、時代を超えて、今もなお発刊され続けているのですね。

(文/西沢泰生、編集/本間美帆)


【PROFILE】 西沢泰生(にしざわ・やすお) 2012年、会社員時代に『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)で作家デビュー。現在は作家として独立。主な著書『夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語』(三笠書房)『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)他。趣味のクイズでは「アタック25」優勝、「第10回アメリカ横断ウルトラクイズ」準優勝など。