ある日、fumufumu news編集担当の“わんちゃん大好きKさん”に、「老犬ホームって知ってますか?」と聞かれた。自分もわんこを飼っているというのに、聞いたことはあれどその実態はほとんど知らなかった。どうやら、人間のお年寄りの介護施設のように、年を取ったペットたちのお世話やケアをしてくれる施設らしい。
いつまでも可愛いからなかなか気づかないけど、わんちゃんたちも確実に年を取っていく──。そしてシニア犬になって、いつの日か介護が必要になるときが来る。飼い主さんが最期までお世話できればいいけれど、いろいろな事情でできないこともあるはず。そんなとき力になってくれるのが、最近注目を集めている老犬ホーム。
ちょっと気になるけどよくわからない老犬ホームの実態を、犬好き編集者と犬好きライターが調査することにしました。
「老犬ホームとはなんぞや?」
【Part1】となる今回は、全国の老犬ホーム情報・介護情報を提供するサイト『老犬ケア』を運営し、老犬ホームの入居相談を行っている「リブモ株式会社」代表取締役・森野竜馬さんに老犬ホームの基本の「キ」を伺いました。
犬が年を取ったサインを見逃さないでほしい
──森野さんの会社は、主にどんなお仕事をされているんですか?
「今、人間と同じようにわんちゃんや猫ちゃんの寿命が延びています。それにともなって、認知症やそのほかの病気になって闘病する子たちも増えてきているんですが、なんらかの事情でわんちゃんたちの介護ができない飼い主さんたちの相談に乗ったり、老犬ホームを紹介させていただいたりしています」
──森野さんもわんちゃんがお好きなんですか?
「4年ほど前に愛犬の柴犬を17歳でなくしました。家族の一員として可愛がっていたんですが、13〜14歳くらいから年老いてきたなと思うようになって。私は仕事で外に出なければなりませんでしたが、主に妻が自宅で世話をしてくれたので、寝たきりになった愛犬を家でみとることができました。ただ妻を見ていて、家で介護するのは大変なことだなと痛感しました。リブモを立ち上げたのは2014年で、愛犬はまだ生きていましたが、その子への恩返しのような気持ちもありましたね」
──ペットの寿命が延びてきたのはなぜだと思いますか?
「大きく3つあると思っていて。1つは外飼いではなく内飼いのように飼育環境がよくなったこと、もう1つは専門のドックフードがあるように食べ物がよくなったこと、最後は医療技術が発達したこと。この3つのおかげで劇的に寿命が延びました」
──何歳からシニア犬と呼ばれるんでしょうか?
「一般的には7〜8歳からシニアという言い方をします。でも7〜8歳って人間で言うところの50代から60代で、昔だと人間も高齢者扱いでしたけど、今の50代、60代は元気ですよね(笑)。だから飼い主さんから見て年を取ったなとわかるのは、10歳を越えたあたりだと思います。普段の生活のなかで耳が遠くなったとか、反応しない、夜中に吠える、食欲が落ちてくる、今までできていたトイレを失敗しちゃうなど、年を取ったサインが出てくるので、そこを見逃さないであげてほしいです」
──飼い主が事前にやっておけることってありますか?
「かかりつけの病院を見つけておくことや、介護してくれる施設を前もってチェックしておくと、何かあったときにパニックにならずにすむと思います」
人間の老人ホームと同じ。ひとりで抱え込まないで
──老犬ホームに預けるというのは、一種、“姥(うば)捨て山”のような後ろめたさと飼育放棄したような罪悪感が生まれてくるような気がするんですけど……。
「私はそういう老犬ホームに対する間違ったイメージも変えていきたいと思ってるんですよ。私の考えだと、例えば粗相をしたときに飼い主さんが悲しい顔をしたりするとわんちゃんにも伝わるので、楽しく介護してあげないと逆にわんちゃんたちが落ち込んでしまってかわいそうな気がしています。また、夜鳴きでご近所からクレームがあったり、トイレがうまくできなくて糞尿まみれのわんちゃんを見て、飼い主さんのほうが精神的に参ってる場合もあるんです。わんちゃんのお世話で寝られないけど、明日も仕事があるという方も多いですし。
人間の老人ホームと同じだと思ってください。ひとりで抱え込まず、まわりに助けてもらいながらみなさん介護をしてるじゃないですか。それと同じです。だから、罪悪感や後ろめたさなんて持たないでほしいんです」
──老犬ホームを利用する人ってどんな方が多いんですか?
「わんちゃんが高齢になって家族が介護できなくなってしまったという方や、わんちゃんのほうは元気なんだけど飼い主さんのほうが高齢で要介護になってしまったり、家族の介護をしないといけなくなってしまったという方が多いですね。
ただ、すぐ老犬ホームへ入所させたいということではなく、例えば親類の方がわんちゃんを引き取るという選択肢もあるんですけど、共働きだったりお子さんがアレルギーを持っていて飼えないという方々もいらっしゃいます。
私たちも無理に老犬ホームを勧めたりはしていません。一生預かりだと、金銭面において負担になったり、飼い主さんも愛犬に対して申し訳なさが先に立ってしまうときもあるので、2〜3日とか1週間、お試しで預けてみてはどうかというアドバイスをしています」
──それで一生預かりを決断する方もいらっしゃるんですね?
「結構いらっしゃいます。実際にご利用されて、わんちゃんが元気になって帰宅したというケースが比較的多いんです。それで老犬ホームに預けることにしたら、面会に行くと家にいたときより生き生きとしていて、預けてよかったという声をよく聞きます」
価格と立地だけで決めないこと
──老犬ホームに預けることになってもお金の心配があります。どれくらいの費用がかかるものなんでしょうか?
「預けるホームによっても金額が変わってきますが、例えば一生預かりの入居金のだいたいの相場は、半年更新で小型犬が30万円、中型犬が50万円くらいです。高く感じるかもしれませんが、これを1日に換算すると1700円~2700円になります。わんちゃんを飼っていらっしゃる方はわかると思いますが、ペットホテルだったら1泊で3000円とか4000円はしますから、決して高い金額ではないでしょう」
──なるほど。1日2000円で介護やお世話をしてくれると考えると、飼い主さんにはありがたいですね。
「預けることが大前提ではないですが、愛犬が年を取ったら大きな病気をするかもしれない。そういう意味でも、ゆくゆくお金がかかるということを飼い主さんが想定して、わんちゃんが若いうちから準備しておくのはすごく大事だと思います」
――プロの目から見たホームを選ぶときのポイントを教えてください。
「下見はもう大前提ですね。リブモが運営しているサイト『老犬ケア』で紹介している老犬ホームは、私が下見をして、直接オーナーさんとも膝を突き合わせてお話しした、信頼するホームばかりです。基本的には飼い主さんをサポートする思いがあって、わんちゃんによりよい生活をさせてあげたいという前提で運営してる施設を載せています。
だいたいご自宅から近くて安いところを探してほしいとおっしゃる飼い主さんが多いんですけど、強く訴えたいのが、価格と立地だけで決めないでということ。東京都心の施設と比べて千葉や埼玉などの郊外の施設は安くなる傾向があります。また、施設によっては夜間は無人になってしまうところもあれば、少し料金が高くても24時間スタッフが常駐しているところもあります。他にも病気の不安があるので医療的にもサポートをしてもらいたいとか、どういうサービスを受けたいのか整理して、サービスの内容をよく見てほしいと思います。
その子が今まで送ってきた生活を踏まえて選ぶことも大切です。寂しがり屋の子だったら、オーナーさんがご自宅の一角を使われてるようなところを選ぶと常に人の気配を感じられていいでしょうし、まだ走り回る元気がある子だったら広いドックランを完備したところがいいでしょう。
あと最後にもう1つ大切なのは、施設の方と相性が合うかどうかです。ホームを見学した後、責任者の方と納得いくまで話してほしいと思います。わんちゃんの命を預けるわけですから、もし預けた後に容体が急変して、万が一息を引き取るようなことがあったとき、恨んだりするようならやめたほうがいいです」
──わかる気がします。最後は、飼い主さんとホームの信頼関係になってきますね。今後も老犬ホームは増えていくと思いますか?
「増えていくと思いますが、老犬ホームの認知の広がり次第だと思ってます。老犬ホームがあることを多くの方に知ってもらえば、一生預かりという選択だけでなく、ショートステイやデイサービス、訪問介護などのサポートを受けながら家で一緒に暮らし続けることもできますし。“老犬ホームを利用した飼い方もありだよね”と、考え方が変わっていけば増えていくのではないでしょうか」
*Part2(【老犬ホームに潜入取材】愛犬を預けることは「悲しい結末」ではない、“第2のわが家”のような癒やしの居場所)では、老犬ホーム潜入ルポと利用者さんのインタビューをお届けします。
(取材・文/花村扶美)