俳優生活40年。シリアスからコミカルまでさまざまなキャラクターを変幻自在に演じて、数多くのドラマ、映画、舞台に出演する生瀬勝久さん。俳優のみならず、劇作家・演出家としても活躍。また、独特な魅力でバラエティ番組の司会を務めるなど、幅広く活動している。
1月28日公開のアニメーション映画『アダムス・ファミリー2 アメリカ横断旅行!』では、2020年に公開されたシリーズ第1弾に引き続き、日本語吹替版キャストとしてアダムス家の父親・ゴメズを演じている。現在61歳、衰え知らずの生瀬さんに、アダムス・ファミリーの魅力、生瀬家の教育方針、所ジョージさんから学んだ生き方など、飾らない言葉でたっぷり語っていただきました。
ゴメズのビジュアルと一致! 運命的なキャスティング
──パート1でも、キャラクターにぴったりで似ていると大好評でした。もう、ゴメズと生瀬さんが一体化されていますよね?
「前回、吹替えのお話をいただいてビジュアルを見たときに、“え! 俺!?”って、本人が一番びっくりでしたよ(笑)。だから、キャスティングの方は、たぶんビジュアルで選んだんだろうなと思うくらい衝撃でしたし、運命的なものは感じました。もし他の方が声優をやっていたら、“いや、俺がいるだろう!”って嫉妬しているかもしれない」
──字幕版も拝見しましたが、生瀬さんの声でしか受け入れられない状態です。
「それ、どんどん書いてください(笑)。向こうの俳優さんの声で字幕版を見る方もたくさんいらっしゃると思いますけども、ぜひその後に、日本語吹替版も見ていただきたい。私の声のゴメズも体験してもらえればありがたいです。2回観たほうがいいですよ(笑)」
──ゴメズ役の声優として、こだわられたのはどんなことですか?
「アフレコ中、英語の俳優さんの声はずっと聞こえているのですが、たぶん尺だけの問題なので、せりふの抑揚とかはあまり意識しなかったです。もう、とにかくアニメーションの動きと、口の動きをシンクロさせるっていうことだけ意識して。あとは気持ちですよね。だから、アフレコしている間は、ずっとゴメズでした。“ああ~~~!”って、テンション上げて。たぶん、僕が声優さんといちばん違うところは、きっとそういうところじゃないかな。テクニックなんかないので、気持ちをどれだけゴメズに近づけるかっていうアプローチの仕方ですね」
──キャラクターとしては、ゴメズのどういう部分を大事に演じられたのですか?
「ウザいところ(笑)。自分は親であるとか、基本、ゴメズってきれいごとばかり言ってるんですよ。で、自分は大人だと思っている……。その勘違いですよね。家族大好きで、奥さん大好きなんですけど、だからウザイんですよ(笑)」
生瀬家の父親としての顔は?
不気味な物が大好きなお化け一家のキモカワ家族が主人公の世界的人気ホラーコメディ。『アダムス・ファミリー』の劇場版アニメ第2弾となる今作は、思春期を迎えた娘のウェンズデーの成長と、それを見守り、困難には全力で立ち向かう家族の愛が描かれ、ナイアガラの滝、マイアミビーチ、グランドキャニオンなど、アメリカ有数の観光名所をキャンピングカーで巡る家族旅行は、バーチャル旅行が体験できるロードムービーとしても、大人も子どもも楽しめるエンターテインメント作品になっている。
──続編の見どころは?
「見どころは、タイトル通り“アダムス・ファミリー”なんですよね。家族っていうのが、どういうものなのかっていう。“こういう家族がいます。どう思います?”って。観てケラケラ笑っている人は、よくよく考えたら自分の家族もそうなんだよって。で、そこが笑えれば、ホントにいいし。現実の家族にも、ゴメズみたいなパパがいて、何事にもめげずに、倒れても、思春期の娘にウザがられても、もうとにかく一生懸命やっていれば、いつか娘も理解してくれるんじゃないかな、とか。そんなふうに思ってもらえたらいいなと」
──生瀬さんご自身は、どういう教育方針で息子さんを育てられたんですか?
「結局、話し合いなんですよ。僕が正しいと思っていることと、妻が正しいと思っていることのどちらをとるのかっていう。それで、ウエイトを考えて、妻のほうが息子と接することが多いし話す機会も多いから、妻に任せるけど、本当に困ったときに僕も意見を言う。妻のアプローチでは息子が納得できないんだったら、僕がアプローチするっていうふうにしてきました」
──ご家庭ではどんな父親でいらっしゃるんですか?
「絶対に叱らないです。息子に対して怒ったことないです。手を上げたこともないし、怒鳴ったこともないです。でも、たぶんそれは、自分の両親からもそうされてきたからだと思います。だから、僕は人とケンカしたこともないんです。今まで、殴ったことも殴られたこともない。生瀬家に生まれたからには、息子にもそういうふうに育ってほしいと思ってきました」
──生瀬家の家訓、一番大事にされていることは?
「人に迷惑をかけない、借金をしない、っていうのがわが家の家訓です。あとは何でも好きなことをして構わない(笑)」
──仲のいいご家族なんですね?
「誰も声を荒らげることはないし、本当に穏やかですね。もちろん、子どもが生まれるまでは、妻とは口ゲンカしたこともありましたけど、でも、怒鳴り合いにはならなかったです」
──生瀬さんとゴメズ、どちらがいい夫だと思いますか?
「ゴメズでしょ、わかりやすくて(笑)」
「妻は僕の一番の評論家です」
──現在61歳でいらっしゃいますが、50代を過ぎてから、考え方などご自身の中で変化したことはありましたか?
「絶対に傲慢(ごうまん)にならないようにしようと思いましたね。キャリアを重ねていくと、周りはどんどん優しくなっていくので。それに甘んじない、楽をしないっていうことです。同時に、楽をしている若者を見ると、イラっとするようになった。僕も若いころは楽なことばかり考えていましたけど、ただ単に楽するのと要領よくやるのは違うんですよ。その要領を覚えるために、もっと学習しろっていうのは思いますね」
──これまでのお仕事や人生経験を振り返って、転機となったと思える出来事は?
「やっぱり、大学を卒業してこの仕事を本格的に始めようと思ったことですね。僕は学生演劇をやっていましたけど、当時は卒業したら、舞台はやめてサラリーマンになるつもりで就職活動もしていて。それで就職が決まったんです。でも、いざいろいろなことが決まっていったときに、“このまま演劇をやめていいのか”って自問自答したのが、たぶん、人生の転機。そこから人生が転がり始めましたね。役者……お芝居を続けようと、自分に正直になった。その後、役者にならなければよかったと思ったことは1ミリもないです。芝居が好きだったんでしょうね。それで、ずっと今でも好きだから、本当に天職についたなと思います。
とにかくキャラクターを自分の視点で作り上げるという作業が、とっても好きで。それで思いもよらぬ方向に自分がなれたときに、“あ~、新しいキャラクターが生まれたな”って。それは、計算ではなくフィーリングでやるので、ある意味、勝負ですよね。なんかこういうふうなイントネーションでとか、こういうふうなボリュームでこのせりふをやろうとかって、思っていないんです。本当に気持ちから出てくる声、表情、動きっていうのが、全部自分のキャリアになっていくので」
──プライベートでの転機は、やはり奥さまとのご結婚でしょうか?
「妻は僕の芝居をずっと見てくれていたので、そういう意味でいうと、僕の作品を100パーセント見ている、一番の評論家ですね。僕のプライベートも知ってて、僕の芝居も全部見ていて、関わった作品を評価してくれる。でも、これがね~否定してくれないんでね。基本ほめてくれるんです。面白かったら、ほめてくれる。面白くなかったら、黙っている。すっごくありがたい人なんです。たぶん僕の才能を、いちばん認めてくれている人なんだろうなって。唯一無二のパートナーなんだろうと思います」
何でも楽をするような生き方はしちゃいけない
──これから年齢を重ねていくために準備していることはありますか?
「身体のメンテナンスですね。特別に気をつけるっていうのはストレスだと思うので、とにかくナチュラルに身体をメンテナンスしていこうかなと。だから、ストイックに食べ物は〇〇だけとかじゃなくて、まずは気持ちの部分でストレスをためないっていうのが、一番の健康だと思って。好きなものを食べて、どうやって長生きするかを考えています。運動も、例えばゴルフが大好きなんですけど、カートに乗らないで歩いてコースを回るとか。3~4年前からは毎日ウォーキングもしていて。筋トレとかよりも、とにかく歩くっていうことかな」
──プライベートで大切にしている時間は、趣味のゴルフや釣りですか?
「そうですね、自分の好きなことをやる(笑)。で、好きなことをやるために、やらなきゃいけないこともあるんですよ。部屋を片付けるとか、掃除機をかけたりとかね。役割分担を果たさないと、怒られるから(笑)。でも、そういうことはぜんぜん苦じゃないです」
──俳優として年齢とはどう向き合っていますか?
「走るにしても、若いころは何秒で走れたのが、今はそこまで速く走れないわけだから、このシーンはちょっと危ないからとか、事前にわかることはある程度マネジャーさんとも相談したりしますよ。それから、先程も話したように、動ける身体を維持するためのメンテナンスをしておく。あとは、新聞を読んだりニュースを見たりして、今の日本の状況をざっくりでもわかっていなきゃいけないと思うし」
──頭も鍛えておくということですか?
「そうですね。人と話をするときに言葉がちゃんと出てくるようにするために。だから、丸一日インタビュー取材とかは、ものすごく嬉しいんです。疲れますけど(笑)。61歳になってこんなにたくさんの質問に対して答えるっていう経験ってなかなかできませんから、それで自分が今何を考えているのか、よくわかるんですよ」
──今、生き方で大事にされているポリシーは?
「以前、所ジョージさんとお話しをして、すごくインスパイアされたのが、“うまくいくことほど、つまらないことはない”っていう言葉で。“うまくいかないほうが楽しいじゃん!”って、もう名言ですよ。そんなことを言える人間になりたいです。その所さんの考え方が、もうステキでステキで。だから自分も、何でも楽をするような、上手くいけばいいのにな、なんて思うような生き方はしちゃいけないんだろうなと。“いろんな艱難辛苦(かんなんしんく)があったほうが楽しいじゃん”っていう生き方の人のほうが絶対に強いですもん。病気になっても“楽しいな~”と思えるような人が一番強いんですよ。だから、そんな人になりたいです」
──これからの人生をどのように生きていきたいですか?
「本当に月並みですけど、死ぬときに“ああ~楽しかったな”って言って死にたい」
──奥様にみとられたいですか?
「いや、みとりたいです。僕は、そんなに軟(やわ)じゃないですよ。絶対にみとるほうがいいですもん。だって、死ぬときの自分を妻に見せたくない。
人間は絶対に死ぬので、それが今日の帰りかもしれないし。だけど今日、一生懸命に生きていれば何の後悔もないと思うので、そうやって生きていきたいですね」
(取材・文/井ノ口裕子)
《PROFILE》
1960年10月13日。兵庫県出身。同志社大学在学中に演劇と出合い、1983年に関西の人気劇団に入団。以来、俳優のみならず、劇作家・演出家としても活躍。2001年に劇団を退団。ドラマ『トリック』シリーズや『ごくせん』シリーズなどの演技が話題になり人気を博する。今日まで、映画、テレビドラマ、舞台で、唯一無二の俳優として幅広い活躍を続けている。また、独特のキャラクターを生かしてバラエティ番組にも多数出演。現在、『それって!? 実際どうなの課』(日本テレビ系・水曜23:50~)でメインMCを務める。ドラマ『ゴシップ#彼女が知りたい本当の〇〇』(フジテレビ系・木曜22時~)に出演中。
『アダムス・ファミリー2 アメリカ横断旅行!』
監督:グレッグ・ティアナン、コンラッド・ヴァーノン
脚本:ダン・ヘルナンデス、ベンジー・サミット、ベン・クイーン、スザンヌ・フォーゲル
吹替キャスト:杏、生瀬勝久、二階堂ふみ、堀江瞬、秋山竜次、京田尚子、大塚明夫、森川智之
公開:全国公開中
2021年/アメリカ/93分/原題『THE ADDAMS FAKILY 2』
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