誰しも健康なときには、そのありがたさを忘れがちですが、いざ不調が出て病院に行くとなると、憂うつな気持ちになってしまいがち。自身の診察をはじめとして、各種検査や家族の入院・通院のために総合病院(病床数100床以上で、最低5科以上の主要な診療科を含む病院のこと)に行ったとき、院内にあるカフェやコンビニに癒されたという人も多いのではないでしょうか。
院内カフェとして約20年も前に初の出店を果たした『タリーズコーヒー』、院内コンビニ出店数が業界最大級の『ローソン』。インタビュー第1弾に引き続き、株式会社ローソン 開発本部 ホスピタル・ヘルスケア開発部・田中織音さんと、タリーズコーヒージャパン株式会社 事業開発本部・知久和男さんに、院内店舗ならではの取り組みだけでなく、両社が展開する興味深い施策の数々についてもお話を伺いました。
(院内出店のきっかけや、通常店舗との違いなどについてはインタビュー第1弾で詳しくお聞きしています→総合病院内の店舗数はタリーズとローソンが業界最大級! 出店の狙いは? 通常店舗との違いは? 売り上げは? 担当者を直撃)
ホスピタルローソンは院内のインフラと“食”に大きく貢献
──インタビュー第1弾でも触れましたが、ホスピタルローソン(病院内に出店しているローソンの総称)では、通常の店舗とは違って患者様が手術や治療等で使う医療品の取り扱いもあります。扱う製品は、各病院によって違うのですか?
ローソン・田中さん(以下、田中):はい。病院によって何が必要かヒアリングしています。出店が決まったら、まず必要な医療材料などを挙げていただき、品ぞろえする商品を調整します。その数は約300~500種類あります。その中で、さまざまなやりとりを重ねて仕入れるものを決定し、オープンまでにすべて用意する流れになっています。ホスピタルローソンのオープン前は、通常の店舗とは一味違った準備が必要です。
──職員にとっても、病院内のインフラとしても非常に重要な存在なのですね。
田中:オペ(手術)があると、医療従事者の方は食事を買いに行く時間もないと聞きます。そのため、オペ用の休憩室に、ローソンのお弁当やおにぎりなどが買える食品自動販売機を設置している病院もあります。
タリーズ院内店舗が行った、震災時の“粋な計らい”とは
──利用者からも、院内店舗が合ってよかったという反響はありますか?
タリーズコーヒー・知久さん(以下、知久):東京にある、がん研有明病院内店舗の話なのですが、東日本大震災のとき、電車が止まって帰れなくなった人たちであふれていた際、コーヒーなどを配りました。カフェは電気さえあればなんとか営業できるので、少しでも役に立てれば、という現場の判断でしたが、そのときは感謝の声がたくさん届きました。
──そのような不安な状況下では、ほっとひと息つける場所が重要かもしれないですね。ところで、院内店舗では、食事メニューがわりと出るようですが……(インタビュー第1弾参照)。
知久:病院内で食事ができる場所が少ないため、軽食類はよく注文されるんです。サンドイッチなどの商品を多めに置いている店舗もあります。パスタなど、主食級の食事ができる部分を評価していただけることも多いです。
──確かに、温かい料理が食べられるのは、外に出づらい環境なので助かりますよね。あとキッズメニューもありますよね?
知久:キッズメニューは、店舗側で提供するかしないかを選べるようにしています。小児科がある病院などでは取り入れていますね。
──ローソンではどういった商品が売れているのでしょうか?
田中:職員の方は大変忙しく、ちょっとした癒しを求めてデザートなどの新商品をお買い求めになる方が多いです。また、店内の厨房で調理する『まちかど厨房』商品を扱っている店舗もあり、そこではできたてのカツサンドや親子丼などのお弁当を販売しています。多くのお客様にご好評いただいています。
──通常のコンビニには見られない院内ならではの特徴は?
田中:ATMやコピー機などを利用される方が多いのが特長です。また、手術が決まった方が看護師さんから渡されたメモを片手に、ご自身で医療品を買いにいらした際には、お手伝いをしています。患者さんは手術を受ける前というだけでも不安を感じられていると思います。そのため穏やかな会話を心がけています。退院の際などにほっとしたご様子で”あの時はありがとう“と言われたことがあり、とてもうれしく、やりがいを感じました。
院内店舗以外の取り組みは? 地域との連動や院内学級も
──院内店舗以外にも、取り組んでいる事業などはありますか?
知久:“タリーズアクション”というコンセプトのもと、さまざまな取り組みを行っています。環境面では脱プラスティックの方向で、ストローを紙ストローに切り替えています。また、特色のある地域の場合は、地元要素をできる限り店舗に取り入れています。例えば沖縄では、『タリーズカード』というプリペイドカードに首里城をデザインしています。このカードを使って決済すると、火災に遭ってしまった首里城の復旧・復興支援金として寄付される仕組みです。
──普段の利用が、地域貢献につながるのですね。
知久:富士市中央公園店(静岡県)は、公募で公園内店舗としてオープンしているのですが、富士市との取り組みもあり、富士ヒノキを使って、富士山のような三角屋根の木造建築に仕上げているんです。市が行うイベントなどの拠点にもなっています。
──街ぐるみで環境づくりに取り組んでいるのですね。
知久:そうなんです。コミュニティに根差したカフェを作ろうと、社内でも『コミュニティーカフェ大賞』というイベントを開催しています。この富士市中央公園店は今年の優勝店で、店内で市民の方と一緒にライブを行うなど、積極的な活動をしている店舗です。
──タリーズの店舗では、絵本を取り扱っているのも見かけます。
知久:子ども向けの取り組みでいうと、20年ほど前から『タリーズピクチャーブックアワード』という一般公募型の絵本コンテストを行っています。絵本作家の発掘・支援と子どもたちに夢や希望を届けることが目的で、入賞した作品を絵本にして病院に寄贈し、売上の一部を子ども支援専門の国際NGO『セーブ・ザ・チルドレン』に寄付しています。また、院内店舗がきっかけとなって、骨髄バンクのパンフレットを院外含む全店舗に置くようにしています。
──ホスピタルローソンではどのような取り組みをしていますか?
田中:病気で学校に通えない児童の方向けに院内学級を併設している病院で、『ローソンわくわく教室』という取り組みをオンラインで実施しました。コンビニがどういうところかわかるようなクイズを出したり、当社の商品・サービス、SDGsに関するの取り組みなどをお話しました。
──ホスピタルローソンがきっかけとなって、院内でもさまざまな取り組みがされているのですね。
田中:ほかにも結核病棟やコロナ病棟など外に出られない環境にいる方々へのワゴン販売をおこなっています。ホスピタルローソン以外でも、例えば、スーパーなどがない介護施設などに移動販売車で訪問販売もしています。また、耳マークを表示した指差しシートをレジカウンターに設置し、聴覚に障がいのある方の買い物サポートする取り組みも実施しています。水素を燃料とした「燃料電池小型トラック」を導入したりと、環境にも配慮した取り組みも行っています。
今が正念場。それでも続ける意義、院内店舗が目指す姿とは
──事業として、厳しい時期はありましたか?
知久:コロナ禍で打撃を受けたこともあって、実は今がいちばん厳しい時期ですね。20年という長い期間やっていると、既存店舗との契約更新という課題も出てきます。今は軒数を増やすよりも、病院ごとのニーズを見ながら丁寧に対応し、リニューアルなどもしつつ、今利用してくださっている方々を大切にしていければと考えています。
──ローソンとタリーズの両方が併設されている病院を見かけるのですが、一緒に出店するメリットなどはありましたか?
知久:病院がリニューアルされるときは、コンビニと飲食店を同時に公募することが多いんです。コンビニではローソンさんが院内店舗に積極的なので、よく店舗がお隣になることが多いですね(笑)。コンビニとカフェ、どちらもあることによる相乗効果は感じています。病院の中で、人が集まる憩いの場所になっていると思います。
田中:カフェとコンビニはお客様の利用シーンも異なると思いますので、さまざまな選択肢があるのはお客様にとってメリットかと考えます。例えば、コーヒーを飲みたいと思ったときに、時間に余裕がある方はカフェに行かれると思います。でも特に時間のないドクターや職員のみなさんは、マチカフェをさっと買われるなど、お客様によって使いわけをしていただいていると感じます。
──ちなみに院内には、他にどういった店舗があるのでしょうか。
田中:院内専門で展開している食堂事業者さんや、病院で使用するシーツ等を管理するリネン業者さんなどがいらっしゃいます。ローソンでも食堂業者さんやリネン業者さんを併設して出店したケースもあります。
──最後に、院内店舗はどのような存在でありたいですか。
田中:やはり“ほっとできる場所”でありたいと思っています。つらいことがあったときも、うれしいときも、当社の商品やサービスを通して、心がほっとする、前向きな気持ちになっていただけたらうれしいと考えています。
知久:病院の現場自体は緊張感のあるものだと思うので、リラックスしていただきたいという思いがあります。こちらもあまり特別なことはしないで、日常のように過ごしてもらう。病院の中だけれど、普段と同じような感覚を感じていただきたいなと思っています。
──当たり前の日常を、感じてもらいたいという部分ですね。
田中:コロナ前は、週末になると入院患者様のご家族が来られたりしていました。お孫さんと一緒に店内のイートインスペースでアイスを食べたり、ご友人と楽しそうに団らんされている姿を見かけたときは、こちらもうれしくなります。またそういう光景も見られるのではないかと期待しています。
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もしかしたら、院内店舗を利用したことがない方もいるかもしれません。ローソンやタリーズコーヒーの取り組みから、何気ない日常への感謝や、健やかに暮らすことの大事さについても考えさせられます。院内店舗を利用する機会があれば、企業のその熱意を感じ取ってください。
(取材・文/池守りぜね 取材協力/タリーズコーヒージャパン株式会社・株式会社ローソン)