発酵の謎に迫るシリーズの第1弾(全4回)はヨーグルト。第1回で発酵のメカニズムがわかったところで、前回に続き、株式会社明治の辻さん、古川さん、田中さんに、ヨーグルトの奥深さと“意外な秘密”を教えていただきます。
商品名の「LB81」には、ちゃんとした意味があるんです
──2菌種の乳酸菌の菌株や配合比率をちょっと変えただけで、ヨーグルトはまろやかさや風味、食感ががらりと変わるとのことですが、皆さんはどのくらいの割合で配合すればヨーグルトがいちばんおいしくなるのかを探っておられるのですね。
辻「はい。そのために乳酸菌を加えるタイミングや、配合比率を日々研究しています。食べ比べていただければわかると思いますが、当社のヨーグルトと他社さんのヨーグルトでは、同じヨーグルトなのに味や食感がまるで違っていたりします。それは乳酸菌の違いによるところも大きいんですね。なので、ヨーグルトのおいしさを決めるのは乳酸菌次第と言うこともできると思います」
──乳酸菌の種類は500菌種もあり、それぞれの菌種に多数の菌株(個々の菌種を、由来や特性等の違いによってさらに細かく識別・分類したもの)があると伺いました。そうすると、どの乳酸菌をセレクトするのかも大変な作業になりますね。『明治ブルガリアヨーグルトLB81プレーン』(以下、明治ブルガリアヨーグルト)にはどんな乳酸菌が使われているのかは……、やっぱり企業秘密ですか?
田中「いえいえ、お答えできます(笑)。弊社の明治ブルガリアヨーグルトで使っているのは、“ラクトバチルス・ブルガリカス(以下ブルガリア菌)”と“ストレプトコッカス・サーモフィラス(以下サーモフィラス菌)”という2菌種の乳酸菌です。商品名にある『LB81』というのは、この2つの乳酸菌を組み合わせてできた乳酸菌の名前です。
『LB81』は乳酸菌の菌株ナンバーに由来していて、『LB』は“乳酸菌”を意味する『Lactic Acid Bacteria(ラクティック アシッド バクテリア)』の頭文字で、『81』は使用菌株であるブルガリア菌2038株とサーモフィラス菌1131株の末尾番号を組み合わせた数字になります」
国際食品規格で定められた乳酸菌でないと、ヨーグルトと名乗ることができない?
──「LB81」には何か意味があるんだろうなとは思っていたのですが、やっぱり意味があるんですね。
田中「はい。ちゃんとした意味があるんです(笑)」
──生乳に乳酸菌を加えて発酵させたのがヨーグルトだというのはわかりました。では、乳酸菌はどうやって製造、培養させているのですか?
田中「当社で使っている“ブルガリア菌”と“サーモフィラス菌”は、どちらも古くからヨーグルトを作る際に使われてきた菌で、両方ともブルガリア国由来の乳酸菌です」
──古くから使われている乳酸菌を使ったほうが、本来のヨーグルトのおいしさが引き出せたりするからですか?
田中「それもありますが、以前の国際食品規格(CODEX:コーデックス※1)では、ブルガリア菌とサーモフィラス菌の2菌種を使って乳酸発酵させた食品だけをヨーグルトと定めていたんです」
【※1:コーデックス:国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で設立した国際食品規格委員会。世界共通の食品規格を定めている】
──乳酸菌は500菌種以上もあるのに、定められた2菌種を使ったものしかヨーグルトではない……?
古川「以前の国際食品規格ではそうでした。ただ、現在の国際食品規格では、ヨーグルトの世界的なトレンドを受けて、“あらゆる乳酸桿菌(かんきん)属と乳酸球菌のサーモフィラス菌”により発酵した食品もヨーグルトの一種とみなされるようになりました。
日本国内では厚生労働省の乳等省令(食品衛生法に基づく「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」)で、ヨーグルトは“発酵乳”と位置づけられています。ヨーグルトという規格がないので、ブルガリア菌とサーモフィラス菌以外の乳酸菌を使っていても、“発酵乳”で一括りにされるんですよ」
田中「日本でヨーグルトを製造・販売しているメーカー各社さんがそれぞれさまざま乳酸菌を使っています。言うなれば、乳酸菌の多様性がヨーグルトの多様性をつくっているわけです」
コーデックスが定めた乳酸菌を使っている「明治ブルガリアヨーグルト」は、国際基準でも“ヨーグルト”と認められていましたが、実はもっとすごい秘密があるのだとか。次回はヨーグルトが秘める健康パワーについて、引き続き明治のみなさんにお話を伺います。
◎第3回:【ヨーグルト#3】おなかの調子を維持するなら、4日で1箱(400g)を食べきるペースで(9月1日18時公開予定)
(取材・文/横堀夏代)