雨後のたけのこのように生まれては、いつの間にか消えていく美容法の数々。そんななかでも根強い支持と人気を誇るのが、「表情筋トレーニング」。表情筋エクササイズとも、フェイササイズとも呼ばれ、あのイヤなほうれい線やゴルゴ線、マリオネット線にも効果絶大とうわさされるこのトレーニングだけど、ホントのところはどうなの!?
だって、かつて美容法として一世を風靡(ふうび)し、昭和マダムたちがせっせと行っていたマッサージも、令和の今、かつてのやり方では力は入れ過ぎ、回数もやり過ぎとされている。強すぎるマッサージはシミの原因になるばかりでなく、角質層の細胞をこすりとり、皮膚のバリア機能低下を招いてしまうらしい。だから現在では、マッサージは、「クリームやオイルを使って特別な日に、ごくごくソフトに」が常識に。
こうした変化を考えれば、「表情筋トレがいい!」と聞かされても、素直に「フムフム」とはうなずけないんですけれど……。
表情筋エクササイズ、皮膚科専門医はこう見る
「コロナ禍のもと、私たちがマスク生活を始めてから2年半たちますが、患者さんたちを見るたび、たるみが進んでいることに驚かされます。これはマスクのせいで表情を作るのが怠慢になり、それで顔の筋肉が衰えているせいではないか、と。いわゆる筋トレをすると効果が目に見えて身体に現れるのを考えれば、顔にも同じことが言えるのではないでしょうか。ですので私は、たるみ予防の点から考えると、表情筋トレは、やらないよりやったほうがいいと考える賛成派です」
皮膚科専門医として多くの患者さんたちに接してきた経験値からと前置きしつつも、表情筋トレをポジティブに評価するのは、東京・六本木の美容皮膚科『アオハルクリニック』院長の小柳衣吏子先生。
日ごろからよく笑い、表情豊かに暮らすことを患者さんたちにすすめていると語る小柳先生。表情を作ることは、まさに顔の筋肉である表情筋をトレーニングすることだからだそう。
この表情筋トレ、言うまでもなく表情筋の衰えから生じるたるみ、すなわちほうれい線やゴルゴ線、マリオネット線など、顔に対して縦のラインで現れるしわをターゲットとしたものだ。
一口に“しわ”と言うけど、2つの種類がある。1つは笑うなど表情を作ることで現れる横ラインのしわ。多くの女性がいわゆる「カラスの足あと」と呼ばれる目尻のしわを気にするけれど、これは別名を「幸せじわ」とも言う、ほがらかで明るい人柄を感じさせるしわ。最近ではボトックス注射などの治療法も確立し、比較的安価に消すことができる。
それに反してほうれい線やゴルゴ線、マリオネット線など顔に対して縦のラインは、「不幸じわ」とも言われるしわ。これを消すにはヒアルロン酸注射や外科的治療など費用も高価になりがちだし、なによりこれら縦のラインほど、「老けたなあ……」と女心をヘコませるものはない。であれば、たるみ予防になるという表情筋トレ、皮膚の専門家も賛成とあれば、“やらないよりはやってみよう!”が正直なところでしょう!
ポイントは頬のたるみと二重あごの防止
「私がおすすめするのは2点。(1)口角を上げることで頬にある小頬骨筋や大頬骨筋など頬を引き上げる筋肉を使うことと、(2)二重あご予防に、のどぼとけの上にあって舌骨を動かす筋肉である舌下筋群を動かすことです」(小柳先生)
表情筋トレーニングの具体的なやり方については、その道の専門家である石川時子さんがレクチャーする第2弾記事をお読みいただくとして、まずは日ごろからよく笑い、表情豊かに毎日を過ごすことで口角を上げ、小頬骨筋や大頬骨筋などを活発に動かすことを心がけて、と小柳先生。
「これらの筋肉をよく動かすことで、表情が明るくなり、ひいては若々しい印象になると思います。ですので私は、まずは口角を上げることで、これらの筋肉を活発に動かすことを意識してくださいと申し上げています。ちなみに口角を上げていると、ほうれい線やマリオネット線が目立ちませんよ」(小柳先生)
顔にはたくさんの筋肉があるけれど、小頬骨筋や大頬骨筋などのように頬を上に引き上げる働きをする筋肉だけでなく、口角下制筋や広頚筋(こうけいきん)など、頬を下げる働きをする筋肉もある。この正反対の働きをする筋肉がお互いに引きあうことで表情が生まれ、ピンとはったフェイスラインや首すじが保たれていると小柳先生。ところが加齢に重力が加わって、上げるより下げるほうが有利になってしまうことで、あのイヤな縦のラインが生まれてしまう。頬を引き上げる筋肉を鍛えることは、引き下げようとする筋肉に打ち勝つことになるわけだ。
「(2)の舌下筋群が緩まないようにするのも大切です。よくしゃべることや、歌を歌うこともいいでしょう。ベロを出すこともおすすめです」(小柳先生)
ちなみに、(1)の表情豊かに笑うことは、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌を促すし、(2)のおしゃべりや歌うことで口の周りの筋肉を動かすことは、唾液腺の働きを高め、ドライマウスの予防にもなる。これら2つのエクササイズは、たるみ予防だけに留まらない、健康効果も期待できるのだ。
であれば、笑いじわの不安なんて吹き飛ばし、友だちや家族とよく笑い、よくしゃべろう! 週に1回、筋トレ日を作ってジムに通うように、気の合った仲間たちと週に1回カラオケなんていうのもいいかも。
「でも同時に、スキンケアも忘れないようにしてくださいね」(小柳先生)
スキンケアは基本ケアとUVカット、そして時おりスペシャルケア
「まずは紫外線予防ですね。皮膚の衰えの8割は紫外線が原因と言われていますから、UVカットは大切です。あとはきちんと洗顔し保湿することと、十分な睡眠をとること。きわめて基本的なことですが、これらはたるみ防止にも大切です」(小柳先生)
ヒアルロン酸など、安全性も効果も確認されている基礎的な成分で作られた化粧品でのスキンケアをベースに、悩みに合わせてハイドロキノン(美白)やレチノール(小じわ予防)など配合の化粧品で活を入れよう。医薬部外品と表記された化粧品なら、厚生労働省が許可した効果・効能に有効な成分が一定の濃度で配合されているため、効果が期待できると小柳先生。そして笑顔で暮らし、表情豊かにおしゃべりや会話を楽しむことで、日常生活の中で表情筋を鍛えようと提案する。
「なにをして美しいとするかはそれぞれでしょうが、ほがらかで明るくて周りに人が寄ってくる人生のほうが楽しいし、そうした人のほうが美しいと思います。表情はその人の心を映すスクリーンです。目尻のしわを恐れて無表情でいるなんてナンセンス。表情豊かに毎日楽しく過ごしてください。どうしてもイヤならば、ボトックスなどで筋肉をリラックスさせる治療もありますから(笑)」(小柳先生)
それでは、表情筋トレーニングの具体的な方法と効果とは? 第2弾(《表情筋トレーニングの真相調査#2》たるみ予防に1日1分、10年以上実践する指導者が警告「絶対NGな習慣」)に続きます。
(取材・文/千羽ひとみ)
〈PROFILE〉
小柳衣吏子(こやなぎ・えりこ)医師
東京・六本木の美容皮膚科『アオハルクリニック』院長。1988年順天堂大学医学部卒業。同大学病院などへの勤務を経て、2011年、アオハルクリニック院長に就任。「ウェルエイジング」すなわち、よりよく年齢を重ねるをモットーに、自然で、それでいて手応えのある治療を提唱している。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本美容皮膚科学会会員、日本抗加齢医学会専門医