もっとも面白い女性お笑い芸人を決めるコンテスト『女芸人No.1決定戦 THE W』2022で初の決勝進出となったコンビ・爛々は、賞レース敗退に悔しさをにじませながらも「安心した」と話します。理由を聞くと、そこには爛々の壮大な夢がありました。昭和の雰囲気を感じさせつつ若者からも支持を得るしゃべくり漫才で、「女漫才師」そして「漫才師」の概念を変えていこうとする爛々のインタビュー第1弾です。
しゃべくり漫才師として“革命”を起こさねば!
──今日の萌々(もも)さんのTシャツに「命燃」と書かれていて熱意が伝わってきます!
萌々さん(以下、萌々):私は一生、漫才師。「吉本に生き、吉本で死ぬ」とよく言っているんです。今日も気合いを入れて着てきました。
──さっそく熱気を感じました! 昨年は初めてTHE Wのファイナリストになりましたね。決勝進出と聞いて、大喜びしていたふたりの映像を見ました。
萌々:ふたりとも興奮して、うーちゃん(相方の大国麗〈おおくに・うらら〉さん)が私に飛び乗ってきましたね。決勝の結果は敗退でしたけど、天才ピアニストさんがコントで優勝したとき、ホッとしました。
──それはどうして?
大国麗さん(以下、大国):今までTHE Wで優勝したのはピン芸人か、上位3組の最終決戦で優勝を競うときに、漫才ではなくコントをした方ばかりだったんです。
萌々:(まだ最終決戦で漫才をして勝ったコンビはいないから、)しゃべくり漫才師として、私たちが漫才で優勝して、革命を起こさなければいけないと使命感を抱きました。「ムーブメント起こすのは私らや! 早く来年の準備せな! やる気満々ぶっ壊し焼け野原や!」って。
大国:萌々ちゃん、かっこいい! あの瞬間、私は「あーっ、賞金の1000万がなくなった」って悲しかったです。
萌々:……コンビで半分の500万ずつな。1000万全部あげへんで。ネタ書いてるの私やし、多めに欲しいぐらいや。
──今の目標は賞レースで勝つことですか?
萌々:賞レースのその先にある、自分らの好きな漫才をするために勝ちたいです。THE WやM-1に命を注ぐのと、生き残るための戦いは違うと感じる一方、賞レースは自分の漫才のどこがおもろいか、
大国:私ももちろん勝ちたいですけど、賞レースのためだけに漫才するのは漫才師としては楽しくないので、賞レースは“私らを知ってもらうために絶対にやらなければいけないこと”だととらえています。
子ども時代のふたりは正反対の性格だった
──幼少期はどんな子どもでしたか?
萌々:私は昔から今までずっと変わらんくて、竜巻みたいにクラスをむちゃくちゃにする子でした。面談で褒めてもらうこともあまりなくて、初めて担任から褒められたとき、お母さん泣いたらしいです。
大国:萌々ちゃんのことは“万年キッズ・ウォー”と思ってもらえたらわかりやすいかと。
萌々:正義感が強くて、いじめをしてる子と戦ったこともありましたね。「悪と戦う主人公か」と怒られたこともあったな。夢はいっぱいあって、特別支援学級の先生になって困ってる人の役に立ちたいとか、お母さん子やったから地元のスーパーの店長になってお母さんにサービスできへんかな、とか。
大国:私は萌々ちゃんと逆やな。物静かで、みんなと遊ぶより家にいて家族でテレビを見ているような子どもでした。今は無理して明るくしてます。ツッコミっていう立ち位置もありますし、芸人はその人となりをお客さんに知ってもらわないと愛されないので。子どものころの夢は大女優でした。
──似合いそう!
大国:はい♪
萌々:……。
万年キッズウォーと鬼軍曹が芸人を目指すまで
──お互い幼少期の夢は、お笑い芸人じゃなかったんですね。
萌々:ほんまや! 今言われて気づいた!!
大国:ただ、トップに立ちたい気持ちは一緒かも。ずっと女子校に通っていたんですけど、私、「鬼軍曹」と呼ばれていたんです。
──物静かな美少女から鬼軍曹に!?
大国:女子校で言うべきことはビシバシ言う性格が培われて、大学卒業後はアパレルで働いて店長になったんですけど、そういったはっきり物を言うところと責任感が合わさって、1週間で店員が3人辞めてしまいまして。
萌々:うーちゃんは人の上に立っちゃいけない人なんちゃうかと心配しております。
大国:うん、人のために働くの向いてないなと気づきました。じゃあ、私は何をすればスーパースターになれるんだと考えたとき、アパレル店でノリとしゃべりだけで商品を売ってたな、私っておもろいんやと感じて、芸人でトップを取ろうと決めました。
萌々:私は幼いときから親戚の集まりでふざけてたら「お前、よしもと行け!」って冗談で言われて「行かないと」と思っていました。でも思春期になったらそんな気持ちも消えて、高校時代は100人くらい部員のいる音楽系の部活で企画長をやってたんですよ。
大国:企画長!? 高校の部活でそんな役職、初めて聞いたわ。
萌々:エンタメ担当みたいな感じ。当時、ルールが100個もあったから、「大事な20個だけに絞り込むことでほかのルールも守れるんちゃうか」って言ったら、「おまえ、お調子者やから(ルールを守るのが大変そうで)言ってるんやろ!」って誤解されて、部員100対1でケンカになって辞めました。
──な、なんだかドラマを見ているような気持ちになってきました……。
萌々:私には影響力や言葉の強さがないと実感して、私自身の人間の価値を上げなければと思って芸人を目指しました。
コンビを結成した場所は、まさかの……
──そして、ふたりはNSC(吉本総合芸能学院)の大阪校で同期として出会うのですね。
大国:当時、女性だけのクラスがあって、そこで知り合いました。在学中、萌々ちゃんには一緒に入った相方がいたし、私は男女コンビのほうがお客さんに受け入れられやすいと思っていて。3回くらい相方を変えましたが、それは全員男性でした。
萌々:当時、私は18歳やったけど、大国さんは25歳で最年長やったよな。
大国:25なのに最年長ですよ!? その年だけNSCの学生が若かったみたいで損しました。卒業が近づいていたころ、相方がいなくなって「まあなんとかなるやろ」と思いながらトイレの個室にいたら泣き声がしたんです。
萌々:それが私です。前の相方が恋愛をして、大事なイベントの直前に去ったんです。で、うーちゃんが個室の中から「だれ~!? 萌々ちゃんかいな~? 元気ないねえ」って言うからドアを開けて、う〇こ中の彼女に……。
大国:チョメやね! ライターさん、大きい声でチョメって言って!
(※ 「チョメ」は「ダメ」という意味に近く、大国さんが漫才でツッコむときによく使う)
──(笑)。文章では伝わりにくいのですが、萌々さんがマネする大国さんのセリフ、漫才中の大国さんのしゃべり方にそっくりです!
大国:……とにかく、萌々ちゃんが個室のドアを開けて「解散したからコンビ組もう」って言ったので、私は便器に座ったまま「おっけー!」って握手しました。
萌々:「フムフム」。……ってならんわ誰も!
大国:で、そのあとファーストフード店で話をしたんですよ。
萌々:うーちゃんは私の話を「うんうん、そやね~」って聞いてくれたんですけど、私はテーブルに録音機を置いて、うーちゃんの声の特徴とか、どういう人間なのかを確認しました。
大国:めっちゃ緊張したわ。
萌々:親友に去られてショックではあったんですけど、スタートダッシュが大事やと思ったんです。
大国:強いわ、萌々ちゃんはほんまに強い。
結成2か月後、NSC卒業ライブで漫才を初披露
萌々:あのとき、偶然トイレにおったけど、大国麗さんがどんな人か、いくつ年が離れていて出身はどこかとか、何も知らない状態でしたね。同じタイミングで相方と解散していたのも大きかったです。
大国:トイレにいたのが私でよかったな!
萌々:こっちのセリフや!
大国:運気、強いな!
──(笑)。爛々として初めて漫才をしたのは?
大国:人前で漫才をしたのは、同期が集まる最後の大きなライブが初でした。
萌々:結成したのがその2か月前だったんで、漫才のネタは2本だけしかなかったんです。でも周りが「爛々すごい」「優勝ちゃうん!?」と絶賛してくれて。ところが3本目、コントをすると反応がよくなくて。
大国:その瞬間、爛々は漫才最高、コントチョメだとわかりました。結果としては準首席になって卒業、1年目の9月に『よしもと漫才劇場』(お笑い界の未来を担う若手芸人のための劇場)のチャレンジバトルで勝って、所属が決まりました。
──チャレンジバトル、何年たっても受からずに諦める人も非常に多い中、1年目で所属になったのはすごいですね。
萌々:正直、優秀でした。でも挫折もありましたよ。お客さんの多くは女性で、当時は今ほど女芸人に対する支持がなくて、ウケていてもバトルライブでお客さんからの票が全然入らない状況が3、4年ぐらい続きました。
大国:しんどかったです。でもね、もっとしんどい人もおるから、早く所属できたからこその苦労だったと思います。
◇ ◇ ◇
挫折を経て劇場で漫才をするようになり、賞レースにも挑み続ける爛々。インタビュー第2弾では、そんなふたりの漫才師としての魅力や展望を深掘りします。
(取材・文/若林理央)
【INFORMATION】
爛々ライブ【MOOD】
日時:2023年5月25日(木) 開場20:30/開演20:45
場所:道頓堀ZAZA POCKET’S
ゲスト:もも
【PROFILE】
爛々 ◎大国麗と萌々によるお笑いコンビで、しゃべくり漫才を得意とする。NSC大阪校39期を次席で卒業。『吉本に生き、吉本で死ぬ女』というキャッチコピーを持つほか、萌々が漫才のはじめにする挨拶「ハー!」や、大国がツッコミ時などに発する「チョメ!」など、定番のフレーズがある。『女芸人No.1決定戦 THE W』2022では初の決勝進出を果たす。主によしもと漫才劇場にて活動中。
◎萌々さんTwitter→@kutufumuna / Instagram→ranran__momo
◎YouTube『茶の間で爛々』→https://www.youtube.com/channel/UCvuFfPGrwh9k3OpxspPylTQ