2023年5月から新型コロナウイルス感染症の分類が2類から5類に移行して、はや2か月がたった。外出自粛などの制限がなくなり、マスクを外している光景がもはや当たり前になりつつあるように、オフィスに出勤して働くことも日常化してきている。
はたして、ビジネスパーソンは、どんな働き方を求めているのだろうか。一方、企業が従業員にオフィス出社を求める本当の理由とは何なのか。働く人と企業の動向に詳しい転職サービス『doda(デューダ)』の編集長・加々美祐介さんに話を伺った。
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オフィス出社を望む企業と、リモートワークを推進する企業の二極化が進む
朝、取材で久しぶりに電車に乗ると、多くの人でごった返しており、コロナ前の通勤ラッシュ時に戻っていた。新型コロナウイルス感染症の位置づけが緩和され、従業員はオフィス出勤を余儀なくされているようだった。実態はどうなのだろうか。
「リモートワークを解除する企業は増えてきています。その一方で、ハイブリッドワークを含めて、柔軟にリモートワークを続ける企業もあるので、実際には二極化している印象があります」
若いビジネスパーソンの中には、出勤を希望する人も多数いるようだが……。
「人にもよりますが、 新入社員の1〜2年目の若手だと業務に慣れておらず、“ひとり、自宅で悶々と悩んでいるのはとても孤独です”という声を、よく聞きます」
かたや企業はリモートワークを解除して、なぜ従業員を出社させたがるのだろうか。出社を増やす企業の目的とは、何なのだろうか。
「従業員の業務業況などを把握しやすくするのを目的に、出社に切り替える企業もありますが、多くは社員同士が直接コミュニケーションをとることで生まれる相乗効果や、生産性向上に期待して切り替えているケースが多いと思われます。
私自身も、“チームでの仕事は対面のほうがコミュニケーションも進み、すぐに声をかけられる”というメリットを感じています。
オンラインだと、声をかけるにも都度相手のスケジュールをチェックして、チャットで状況を聞きながら用件を確認するので、その分手間がかかります」
パーソル総合研究所の調査(※)では、出勤時の仕事の生産性を100としたときに、リモートワーク時の生産性は84.1%という結果もある。約16%は生産性の低下を実感しているというのだ。効率化を求める外資系企業も、リモートワークからオフィス出勤に戻しているという。
※パーソル総合研究所 第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(総合分析編)
IT系のリモートワーク率は約7割。メーカー系はフルリモートがほとんどない
企業全体でのフル出社やフルリモートの割合を聞くと、業種によってかなり違いがありそうだ。そこで、リモートワーク可能な職種が多いIT系、インターネット、メーカー、医療企業など業種別の傾向について詳しく聞いてみた。
●IT系企業:
リモートワーク率が約7割と、業種の中ではリモートワーク浸透率が非常に高い。ただし、フルリモートの割合は1割程度。客先に常駐する働き方もあり、最近は出社比率を上げている企業も増えている。
●インターネット企業(上記ITに含まない、ウェブコンテンツなど):
IT系企業に次ぐ、リモートワーク率の高さ。ただし、このジャンルはスタートアップ企業が多いので、経営者の意向で、出社比率を上げている企業も増えつつある。
●メーカー系:
エンジニアなどの技術者でも、生産拠点や開発拠点に出社するケースが多い。フルリモートはまれである。公平性・公正性の観点から、管理部門であってもフル出社で統一している企業も一部ある。
●医療系:
治験サービス企業や、医療データサービス企業では、リモートワークが浸透している。その一方で、医療系の中小企業は経営者の方針から、出社比率が高い企業も増えている。MR職(医療情報担当者)については、もともと直行直帰のスタイルが多いため、出社自体は少ない企業が多い。
ハイブリッドワークが選択できるかどうかで、「働きやすい」環境が見分けられる
それでは、業界問わずハイブリッドワークの人たちは、どのくらいのペースでオフィスに出社しているのだろうか。
「ほとんどの企業では週2〜3回のペースで出社しています。“定例ミーティングに合わせての出社と、その他は自分で日時を選べる”という企業が多いです。
弊社の例を挙げると、100名ほどが在籍しているとある部門では、全員が出社すると一人ひとりのスペースが狭くなり人口密度が高くなるので、曜日ごとに分けて出社しています」
最後にビジネスパーソンにとって、オフィス出社とリモートワーク、どちらがベストな働き方なのか加々美さんに聞いてみると、次のように回答してくれた。
「当社転職サイト『doda』のフリーワード検索では、“テレワーク”や“リモートワーク”がランキング上位にきます。つまり“リモートワーク”は、転職希望者にとって意思決定のポイントになっているわけです。
ただ、先ほど挙げた若手の例にあるように、フルリモートが続けばコミュニケーション不足による孤独感や、仕事のオンオフのバランスやモチベーション維持の難しさを感じる人が、世代問わずに増えています。
そうした背景があり、フルリモートよりは、出社も選べるハイブリッドワークが人気です。ハイブリットの勤務体制にしている企業が多いのも、こうした背景がひとつの要因になっていると考えられます」
企業にとっては“生産性向上”を考慮すれば、“オフィス出社”が理想ではあるが、優秀な人材の採用・定着を目指すなら、リモートワークも併せて対応できるようにしたほうが有効なようだ。
別の見方をすれば、オフィス出社を従業員に要請している企業が多い中で、ハイブリッドワークを行っているのは、“従業員の働きやすさを優先的に考えている企業”という見方もできる。
このようにリモートワークができるかどうかは、企業の社風を知るうえでのバロメータになるため、企業・求人選びをする際には、ぜひ考慮してほしい。
(取材・文/西谷忠和、編集/本間美帆)
【PROFILE】
加々美祐介(かがみ・ゆうすけ) 総合人材サービスを提供する、パーソルキャリア株式会社の転職サービス『doda(デューダ)』編集長。2005年、パーソルキャリア株式会社の前身となる株式会社インテリジェンスに入社。人材紹介事業、法人営業、マネジメント職において、採用・転職支援に尽力する。以降、新規事業の立ち上げや自社の人事部門に戦略設計から携わり、2019年に本部長、2021年には執行役員を歴任。2023年4月、doda編集長、プロダクト&マーケティング事業本部 事業本部長に就任。長きにわたり、時代や情勢の変化をいち早くキャッチし、人材支援に寄り添い続けている。