毎年、年末になると目につくのが「片づけ」や「整理」という言葉。1年間の総決算として身辺整理を行う人も多いのではないでしょうか。中でも親世代が住む家は、それまでの歴史や思い出が詰まった空間。片づけるにも、ひと筋縄ではいかなそう。その場合、プロに頼るのはどうでしょうか。
カメラの前に佇(たたず)む端正な顔立ちの男性は、『六六三六(ろくろくさんじゅうろく)』というコンビ名で活動しているお笑い芸人の柴田賢佑さん。実は芸人活動のかたわら、生前整理、遺品整理、ゴミ屋敷の片づけなどを行う会社に勤務し、“お片づけシバタ君”(以下、シバタ君)という名前でブログなどで情報を発信しています。
今回は、多くのゴミ屋敷や遺品整理を行ってきたシバタ君に、この仕事をするようになるまでの過程や、衝撃的だった現場の様子を語っていただきました!
将来を期待されたアイスホッケー選手から一転、上京して芸人の養成所へ
──遺品整理やゴミ屋敷の片づけなどは精神的、肉体的にもキツい仕事だと思います。最初に、今の仕事を始めるまでの、シバタ君の経歴などをお聞きできますか。
「僕は北海道の札幌出身で、小・中・高・大とアイスホッケーをやっていたんです。中学のときには全日本大会の選手に選ばれて、アメリカまで遠征しました。ずっとスポーツ推薦で進学してきたので、受験をしたことなかったんですよね(笑)。まさに、氷の上で滑っているほうが自由に動ける感じでした」
──アイスホッケーの選手として大学まで進学していて、そこから芸人になるきっかけは何だったのですか?
「高校の学園祭で、みんなの前でモノマネや一発ギャグみたいなのをやったら、ものすごくウケちゃったんです。それで“大学には行かずに芸人になりたい”って思ったんですが、親からは大学も出てほしいと言われて、しぶしぶ進学しました。だけど、どうしても芸人がやりたくなって、2年のときに中退したんです。20歳で上京して、1年ぐらいかけて生活の基盤を作って、それから太田プロ(現事務所)の養成所に入りました。太田プロを選んだ理由は、学費がいちばん安かったからなんですけどね(笑)」
──大学を中退するとき、親御さんからは反対されませんでしたか?
「最後は“もう仕方ない”って思われたのかと。“大学を中退するからには、もう地元に戻ってくるな”っていう感じで送り出されましたね。でも残念なことに、アイスホッケーってスポーツの中でも、ものすごく人気がないんですよ。そのまま社会人チームの選手としてやっていくよりも、やっぱりお笑いをやりたいなって決断したんです」
──養成所から芸人のキャリアをスタートされたのですね。
「相方は小学校のころからの同級生で、後から上京してきたんです。僕は22歳くらいのときから、事務所に所属しながら、友達が働いていた西麻布のバーでバイトをしていました。バーのバイトは10年ぐらい続けていましたね」
──その当時は、芸人の仕事はどういう感じでしたか?
「最初は『シミュレーション』って呼ばれる仕事があったんですよ。テレビ番組の出演者さんのダミーとして舞台上に立って、スタッフがカメラの映り方をチェックするんです。でも、芸人の仕事だけでは本当に食っていけない状態でしたね」
ゴミ屋敷の片づけを手伝い、「すごい仕事だな」とバイト生活に終止符
──コンビニでも働いていたと伺いましたが、どのタイミングから始められたんですか?
「バーの仕事をしていたときに、マルチの勧誘とかに遭遇したんです。そういう状況に耐えられなくなって、近所のコンビニの深夜バイトに転職しました。店員のバイトも7年くらい続けましたね」
──芸人というと、『空気階段』のもぐらさんのように仕事が続かなかったり、借金があったりするイメージもありますが、シバタさんはひとつの仕事を長く続けていますよね。
「芸人って、急に仕事の予定が入ったりすることが多いんですよ。そうなったときに調整できる仕事かどうかが、かなり大きんです。昼間に芸人の仕事をして、夜勤をこなして、また朝から芸人の仕事。当時は徹夜で仕事に行くのが4日や5日くらいなら、そのまま寝ないっていうのができたのですが、さすがに歳をとってくると無理になってきちゃって(笑)。
実は、コンビニバイトの時代に結婚したんです。奥さんの知り合いに僕が今働いている清掃業者の人がいて、“人手が足りていないから手伝ってくれないか”って声をかけられたのが、今の仕事をやるようになったきっかけですね」
──片づけのお仕事を経験してみて、どうでしたか?
「最初は“ちょっとやってみようかな”くらいの気持ちだったんです。初回がゴミ屋敷だったんですけれど、ゴミの山を見たときに圧倒されて。何にも起きない日常から非日常に連れてこられた刺激が強くて、変なアドレナリンが出ちゃった感じですね(笑)。“こんな山、絶対に片づかないでしょ!? ”っていう状態から、ゴミがなくなったときに“すごい仕事だな”って思えて、コンビニバイトをやめて、片づけの仕事を始めたんです」
ゴミ屋敷にもジャンルがある! 身の毛もよだつ“害虫との戦い”の記憶
──片づけの仕事は今、何年目くらいになるのですか?
「4年目ですかね。ゴミ屋敷にもいろいろジャンルがあるんですけど、最初の現場が、ゴミ屋敷の中では臭いがキツくないほうだったんです」
──ゴミ屋敷にもジャンルがあるんですね(笑)。初耳なので、詳しく教えていただけますか。
「ゴミ屋敷って、ひとくくりにされるんですけれど、僕らの中では、生ゴミが多いゴミ屋敷は『生屋敷』、弁当の空き箱が山積みになっている家は『弁当殻屋敷』、生ゴミはあまりなく、本や資料が積み上げられた状態で紙がめちゃくちゃあるのが『紙屋敷』、そして、犬猫をたくさん飼っている家を『多頭飼育屋敷』と呼んでいます」
──ひと口にゴミ屋敷と言っても、多種多様なのですね。
「あと今、問題になっているのが高齢者に多い『物屋敷』。例えばサランラップとか、1、2個あればいい日用品のストックを大量に持たないと気がすまない、ホーダー(ためこみ症)と呼ばれる病にかかっている方が住んでいることが多いです。ホーダーにとっては、置いてあるものたちはゴミじゃないんです。使わないけど捨てられない状態で、どんどん山積みになっていってしまう」
──ゴミ屋敷の一般的な定義は、どのようになっているのですか?
「市区町村ごとに定義されているんです。近隣住民に被害を及ぼすような悪臭や腐敗がある家屋をゴミ屋敷って呼ぶんですけれど、たとえ悪臭が出ていなくても、周りから見たらゴミ屋敷だよなっていう部分もありますよね……。清掃を担当している業者からすると、“腰高”といって、腰よりも上までゴミが積もっている場合にゴミ屋敷と定義しています」
──ゴミ屋敷ですと、ゴキブリのような害虫駆除も必要となってくると思います。どのように対策して片づけをされているのですか?
「ゴキブリが目につくところにいるってことは、ほかにも相当いますからね(笑)。もう、フル装備ですよ! 防護服を着て、防塵マスクをつけて軍手の下にゴム手袋っていう完全防備の状態です。これならゴキブリが出てきても“あっ、いた! ”くらいですむんです。どうしたって気持ち悪さはありますけどね」
──害虫駆除で苦労した片づけはあったのですか?
「いろいろとあるんですが、認知症の方の家がすさまじかったですね。依頼主はお孫さんだったんですが、その方は部屋に入りたくないって言うんですよ。中に入ったらオムツが山積みになっていて、異臭がハンパない。あと、ゴキブリがすごかったんですよね。真っ黒な冷蔵庫が置いてあって、“黒い冷蔵庫なんて珍しいな”って思って近づいたら、黒光りの何かがブワーッて一斉に散っていった。すると、冷蔵庫のシルバー色が広がってきたんです」
──冷蔵庫の全面にゴキブリ! 想像するだけで、身の毛がよだつエピソードですが……。
「冷蔵庫の中に空になった明太子のトレーだけあったんですが、ゴキブリの集団の上にトレーが乗っていたみたいで、ドアを開けたらゴキブリたちがザーッと動くとともに、自動的に外に運ばれて落ちていきましたね」
──すごくメンタルが鍛えられそうな現場ですね。ちなみに、きれいになったのですか?
「『トゥームレイダー』(イギリスのアクションアドベンチャーゲーム)のように、両手を使いまくって必死に片づけて、最終的にはきれいになりましたね。総額で60万円くらいかかっていました。働き始めたときは“ゴミ屋敷もたまにあるから”って言われただけで、まさかこんなに続くとは思っていなかったです。今は、片づけの仕事がない日がないくらいですね。最近は、ゴミがすごい方が逆に興奮するんです。なんか変態みたいですけど(笑)」
──お聞きしていると、片づいたときの爽快感や達成感が大きいのでしょうね。一軒家のゴミ屋敷だと何人くらいで片づけるのですか?
「腰高くらいのゴミの山だと、最初は5人ですね。ゴミ屋敷って、だいたい入り口が埋まっているんですよ。そうしたら作業ができないから、ゴミをバーッて出して3人くらいで運搬するんです。ゴミはできれば廃棄ではなくて、リユースすることで、極力減らしていきたいので、買い取れるものがあれば、その買取金額を費用から引いています」
何の気なしに手伝いに行ったゴミ屋敷の片づけを機に、いつの間にかその世界にどっぷりとハマり、さまざまな現場を見てきたシバタ君。ゴキブリが群がる家も相当ゾワッとしますが、インタビュー第2弾では、それをも超える“最恐”のゴミ屋敷にまつわるエピソードをご紹介。生前整理のためのコツや、シバタ君の今後の目標なども伺いました!
(取材・文/池守りぜね)
【PROFILE】
柴田賢佑(しばた・けんすけ) ◎1985年12月17日生まれ。北海道出身。アイスホッケーの選手を志した学生時代から一転、上京しお笑いの道に。お笑いコンビ『六六三六』として活動するかたわら、生前整理、遺品整理、ゴミ屋敷の片づけなどを行う業者に勤務し日々、さまざまな現場に出向いている。“お片づけシバタ君”としてブログやSNSなどで情報を発信中。