東京03と構成作家のオークラが、芸人・役者・アイドル・ミュージシャンなど多様なカルチャーシーンで活躍するゲストと一緒に“悪ふざけ”する遊び心あふれたエンターテインメントショー『東京03 FROLIC A HOLIC』。シリーズ第3弾にして5年ぶりとなる新作では、Creepy Nutsとのコラボレーションが実現する。しかも、会場は東京・日本武道館で──。異例づくしの豪華イベントを前に、多忙なスケジュールの合間を縫って稽古に励む東京03(飯塚悟志、角田晃広、豊本明長)と作・演出を手がけるオークラの4人に話を聞いた。
武道館でやるには繊細すぎるテーマだけど
──飯塚さんとオークラさんがゲスト出演された「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」をお聞きしたら、オークラさんが「細かい演技がいいキャストが多いので、配信で観てもおもしろい」とおっしゃっていました。武道館という大きな会場でコントを成立させることと、映像向けの繊細な表現を両立させることは難しそうだと感じるのですが……どんな演出のアイデアがあるのでしょうか?
オークラ 武道館って単なる「デカ箱」じゃないんですよね。声と映像をリンクさせつつ、同時に客席で取り囲んだセンターステージでのパフォーマンスも俯瞰(ふかん)できる、ちょうどよい会場なんだなって。ご来場になるお客さんに楽しんでいただくのはもちろん、映像でご覧になる方にも目配せしたい。そのために「映像だからこそ魅了できること」をいつも念頭に置いて演出しています。
──番組の中で、オークラさんは「Creepy Nutsの(DJ)松永くんが言いそうなことをセリフにした」と当て書きをほのめかす一方で、3月5日にゲスト出演される百田夏菜子さん(ももいろクローバーZ)には「ご本人のキャラクターとはかけ離れた役を書いた」とおっしゃっていました。これまで数多くのコントを東京03(以下:03)のお三方に書き下ろす中で、今回は飯塚さん・豊本さん・角田さんにそれぞれどんな期待を込めて、役を設けられたのでしょうか?
オークラ もともと『FROLIC A HOLIC』は、ホストの東京03がいろんなジャンルのゲストをお迎えするっていうコンセプト。だから03には「全体の芯を貫くコント」をやってほしいんですよね。軸や柱になる、といいますか……彼らがいちばん力を発揮できる場面をつくらなきゃいけない。
──03のお三方が「横綱相撲」を取れるような?
オークラ ですかね。03がしっかりしないと、Creepy Nutsやゲスト陣を生かせませんから。ましてや演劇と違って、われわれは毎日稽古できないんですよ。みなさんには忙しいスケジュールの合間を縫って稽古してもらっているので、不在者がいる中でクオリティを上げていくためにも、03には頑張ってもらわないと。
──では今回「全体の芯を貫く、軸や柱になり得るコント」の台本を、03のお三方はどのように受け止めて形にしていこうと考えておられますか?
飯塚 台本を読んですぐ「単独ライブでやっても絶対盛り上がるだろうな」って感じたよね。
角田 そうね、俺も「このネタ、単独にくれないかな」って。
豊本 うん、そのくらい自分たちがやりやすい本だと思った。
飯塚 ただ……1万4500席キャパの武道館でやるには繊細すぎるテーマだよね。草月ホールとかでやったら、めちゃくちゃ気持ちいいウケ方しそう!(笑)
──お調べしたら、草月ホールは530席弱でした(笑)。
飯塚 繊細なテーマというか、「こんなところを掘り下げてネタにしちゃうんですか?」っていう内容で。まぁ「人間関係の機微」みたいなことなんですけどね。そういうネタってやっぱり300〜400人キャパの小さな劇場でいちばん伝わるんじゃないかな、って気がするから。
角田 線の細〜い、いいところを突いたコントなんですよ。武道館ならボケとツッコミの二者しかいないような大ざっぱな構成が映えると思いきや、オークラが持ってきたネタはちゃんとおもしろくて。
豊本 うん、お客さんの琴線に触れる内容だったよね。「ホームでやりたい」と感じるくらい。
飯塚 でもたぶん俺、このネタどこかの単独でやると思うわ。吉住とのコントは特に、武道館じゃないところでやりたいもん。
──気になりますね! オークラさんはそういった繊細な内容を、どうして今03のお三方に当てたのですか?
オークラ シンプルに「武道館でこういう細かいネタはやらないだろうな」と思って。武道館だからといって、お祭りに寄せたコントにしすぎるのも抵抗があったんです。しっかり「ザ・東京03」的な王道の笑いを届けたかった。彼らがおもしろがってやれるようなものをつくって、それをデカ箱にぶつけてどうなるか見てみたかったのかもしれません。
──繊細といえば、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年)で角田さんが見せた演技を思い浮かべました。セリフや表情ひとつで役人物やたたずまいに哀愁を帯びさせる凄(すご)みがありますよね。
角田 いやいや、恐縮ですよ。
オークラ 角ちゃんって観ている人の共感を呼び起こすよね。お客さんが感情移入できるキャラクターづくりが抜群にうまい。
──今回、オークラさんは飯塚さん・豊本さんにどんな設定を当てて魅力を引き出そうとしていますか?
オークラ 飯塚さんがコントを書く単独ライブの場合は、2人(角田と豊本)に振り回される役割を自分に当てることが多いよね。お客さんと同じ目線に立って狂言回しに徹する、とか。一方で僕が普段書くのは、飯塚さんが他者を振り回すプレイヤーになるケースが多いけど……今回は「飯塚さんが書いたのでは」と思われそうな前者寄りになりました。
飯塚 振り回しても振り回されても、どちらもやっていて楽しいけどね。
オークラ で、豊本は「事件をもうひと展開させる要員」ですね。謎多きキャラクターが登場することで、事件がどんどん転がっていくんです。豊本自身がいつも何を考えているかわからない人間ってこともあって、すごく上手(笑)。
角田 そういうの年々うまくなるよね。
豊本 自覚ないけどね。でも台本を読んでいて「俺さえいなければ何も起こらず、事態はまるく収まったのに」って筋書きが本当に多い(苦笑)。
飯塚 50代に突入して年齢を重ねるごとに「おかしみ」が増していくよね。
Creepy Nutsも僕らも、どんな顔してたらいいのかわからない
──一方で佐久間さんのラジオによれば、現段階でコント師としての明暗が分かれているのが「器用で上手なR-指定さん」と「まだ“伸びしろ”があって未知数の松永さん」でした。みなさんはCreepy Nutsおふたりの演者としての魅力を、どのように感じていらっしゃるのでしょうか?
オークラ R-指定のラップを聴いたときに、劇団ひとりの単独ライブや(立川)志の輔さんの創作落語をイメージしました。1人でステージに立つ人間の最高峰、みたいな姿を連想して。今回はそういう僕のイメージをライブに落とし込んでみました。でもそのイメージを軽々と超えてきたから、すごいなって。「もっと進化できるな」と稽古しながら感じている状態ですね。
飯塚 R-指定くん(以下:Rくん)はとにかくうまいね! 求められていることを的確に理解して、すぐ形にしてくれます。今回、Rくんが主役のネタがあるんですけど……度肝を抜かれると思いますよ!
角田 稽古中に言われたことを直して試行錯誤している様子を見てたら、「Rくんって飯塚さんに似てるな」って思ったの。
豊本 あるかもね。Rくんは自分の頭で納得するまで、きめ細やかにブラッシュアップしていくタイプだよね。やるたびにセリフを微調整しているのが本当にすごい!
飯塚 演出するたびによくなっていくタイプだから、Rくんは放っておいても大丈夫。で、松永くんは……。
豊本・角田 飯塚さん、ラジオで何しゃべったの?
飯塚 ラジオで紹介したエピソードのときだけ、松永くんの調子がめちゃめちゃ悪かったの。うちらも若手のころ、スタッフがたくさん見ている中でやるコントがいちばんやりづらかったでしょ? それと同じ状況になっちゃって。
オークラ 見学者がいっぱい来るの初めてだったんだよね? そこに今回の武道館ライブにゲスト出演する佐久間さんが来てイジり始めたもんだから、コント先生の飯塚さんも乗っかっちゃって(苦笑)。
──ラジオで飯塚さん、「松永を落第させずに卒業させてやる」ってコント教師としての血が騒いでいましたよね(笑)。
飯塚 松永くん、緊張しちゃって雰囲気に呑まれていましたからね。そういう状態のときに何か注文すればするほど、おかしくなるじゃないですか。その様子を楽しんでいました(笑)。でも悪いことしちゃった。これから松永くんが稽古場に来たら謝らなきゃ。
一同 (爆笑)
角田 松永くんっていい意味で思い切りがいいよね。何も考えずに稽古場へ来て、大胆なことをしてくれる。自然体でいるとタイプが異なるのが、Creepy Nutsの魅力なんじゃないかな。
豊本 ニコイチ感あるよね。普段一緒に活動しているうえでもタイプが違うからいいって場面がたくさんありそう。松永くんは何をしてくれるのか予想つかないから、本当にワクワクする。
オークラ 松永が抱えている“厨二感”をコントに落とし込んだら絶対におもしろいですよね(笑)。ただ、言うても彼はDJで世界一になった人物。そのキャリアをエンタメに落とし込んだら、またすごいことができるんでしょうし。まだその部分は稽古できていないんですけど。
──楽しみですね! 番組では佐久間さんが「オークラさんの脚本や作風に共鳴したCreepy Nutsが音楽をつけた」とおっしゃっていました。ヒップホップとお笑いの融合は、どんなイメージで果たされるのでしょうか?
オークラ ヒップホップとお笑い文化の「交流」というより、「お笑いにCreepy Nutsが乗っている」って言ったほうが適切かもしれません。というのも、Creepy Nuts個々人が持つスキルではなく、「人間性」を前面に出しているんですよね。ラジオパーソナリティーであるCreepy Nutsの精神性をコントの世界観に落とし込んだり、ドラマチックなラップをつくるR-指定や“厨二感”満載なDJ松永の人間性にスポットライトを当てて、「どうしたらもっとおもしろくなるんだろう?」「カッコよく見えるんだろう?」というトライ&エラーを、いつもとは異なる方向性で形にしてみたいと考えています。
──吉田ユニさんが手がけたキービジュアルにも、そういった想いが込められているのですか?
オークラ そうですね。結果、これまで観たことがないようなショーができあがったのはいいけど……完成した作品を、自分たちでも「なんと括っていいか、まだ分からない」んです。ユニさんには、僕から「まだ自分たちの括り方を知らない人たちの“混沌”を表してください」とオーダーしました。そうしたら、03とCreepy Nutsが縦軸と横軸で編み込まれているあのデザインを提案してくださって。キービジュアルからコントの世界観をもらったり、刺激を受けたりしましたね。
──ラジオパーソナリティーとしてのCreepy Nutsの精神性を、オークラさんはどんなところに感じていらっしゃいますか?
オークラ 自分たちの突き進む道が歓迎されず、雑音が聞こえてきたときの反応かなぁ。Rと松永って学生時代は一軍じゃなかったのに、最近になってスターになりましたよね。けど人気が出たことを「リスナーから歓迎されていない」と思い悩んでいる。そういう姿勢を、彼らのラジオからすごく感じるんです。エンタメや笑い話にしながら、悩みを吐き出しているような。それって03にも通じるんじゃないかな、と僕は思っているんですけど。
飯塚 稽古も序盤だし、まだ正直わからないんですけど……「似たようなタイプなんだろうな」とは感じてた。僕らも華やかな学生生活を送っていなかったし。
角田 モテたことなんて一度もないしね。
豊本 冴えなかったもんね〜。
飯塚 好きなことを続けて、苦手なことは一切やらず逃げ続けてここまで来ましたから。で、最近ちょっとだけ「コントおもしろいね」ともてはやされるになった。だから正直どうしていいか、わかんないんですよね。50代に突入して、そんな季節になりました。
角田 持ち上げてもらえるほど、何か達成した覚えがないんだよね。
豊本 どんな顔してたらいいのか、わからないんです。
飯塚 そういう僕たちの心境を、このライブでオークラが表現してくれているんだろうなって。ご覧いただけたら、うれしいです。
(取材・文/岡山朋代、編集/福アニー、撮影/有村蓮)
【Information】
●公演『東京 03 FROLIC A HOLIC feat. Creepy Nuts in 日本武道館 なんと括っていいか、まだ分からない』
日時:2023年3月4日(土)17時半開演、3月5日(日)16時開演
出演者:東京03/Creepy Nuts
ゲスト:
3月4日(土):佐倉綾音/若林正恭(オードリー)
3月5日(日):百田夏菜子(ももいろクローバーZ)/春日俊彰(オードリー)
全公演:吉住、GENTLE FOREST JAZZ BAND、佐久間宣行 ほか
作・演出:オークラ
配信チケット:4500円(税込)
販売期間:3月26日(日)20時まで
アーカイブ期間:イベント終了後即時~3月26日(日)23時59分