突然ですが、当サイト『フムフムニュース』のマスコットキャラクターの名前を知っていますか?
フムフムニュースのマスコットキャラクターは2羽のウサギで、白いほうが「フムッフィー」、黒いほうが「クロッフィー」という名前です。知っていた方はかなりのフムフムニュースファンだとお見受けします。知らなかった方はぜひこの機会に覚えてあげてくださいね!
フムッフィーは全身をもふもふの毛に覆われた、トルコ生まれ・日本育ちのアンゴラウサギです。一般的にイメージされるウサギとはちょっとだけ違う、耳が小さくて毛むくじゃらの姿をしているフムッフィー。そんなフムッフィーは日本のウサギたちに「おまえなんかウサギじゃない」とからかわれて追われるように山を降り、都会の路地裏でひとり寂しく暮らしていた……という、ちょっと悲しい過去を持つウサギです。しかし同じくアンゴラウサギのクロッフィーに出会い、さらにフムフムニュースのメンバーに出会い、編集部のお仕事を手伝うようになって今に至ります。
一方のクロッフィーはロイヤルブルーの毛並みを持ち、猫と重めの赤ワイン、チョコレートを好む謎多きアンゴラウサギ。実はフムフムニュースのサイト上には、彼女のバーへとつながる秘密の扉があるとかないとか……。気になる方やなかなか人に言えないお悩みがある方は、サイトを隅々までチェックしてみると、いいことがあるかもしれません。
そんなフムッフィーとクロッフィーの共通点、それは全身がもふもふの“アンゴラウサギ”であること。アンゴラウサギは全身がもふもふの毛に覆われているとお話しましたが、実際にどれだけもふもふしているか気になりませんか? この記事ではアンゴラウサギの生態や歴史などのお話を交えつつ、魅力いっぱいなアンゴラウサギの“フム”を紹介していきます。
実は野生のアンゴラウサギは存在しない!?
アンゴラウサギは目を覆い隠すほど顔の毛が長かったり、お腹までもふもふだったり……どうにも野生では生き残れなさそうな見た目をしています。そう、実はアンゴラウサギは人間が作り出した品種であり、地球上に“野生のアンゴラウサギ”は存在しないのです。
数多くいるウサギの中でも、アンゴラウサギは「毛を採る」という目的のために家畜種の「カイウサギ」を改良して作り出された珍しいウサギの一種であり、長い毛が特徴です。
ペットとしてよく飼育されているネザーランドドワーフやホーランドロップなどのウサギもカイウサギの仲間で、そんなカイウサギたちの祖先は野生の「アナウサギ」だと考えられています。
ちなみにアルパカ(原種はラクダ科動物のグアナコもしくはビクーニャ、諸説あり)やヒツジ(原種はヤギ科動物のムフロン)なども、毛を採るために改良された動物です。毛を採る目的で改良された動物たちを見てみると、みんな野生種よりも“もふもふ”になっていることがわかりますね。
アンゴラウサギの出身地(原産国)はアンゴラ共和国ではない!?
アンゴラウサギはその名前から、アフリカの「アンゴラ共和国」出身だと思われることが多いようです。しかし彼らの出身地はアンゴラ共和国ではなく、実は現在のトルコ共和国だといわれています。
アンゴラウサギの名前の由来にはさまざまな説がありますが、そのうちの1つにトルコの首都「アンカラ」が由来という説があります。実は現在のアンカラはその昔、「アンゴラ」と呼ばれていたそう。そのためこの説では“アンゴラ原産のウサギ”ということで、アンゴラウサギと名付けられたと考えられています。
ちなみにアンゴラウサギの存在が世界に知れ渡るきっかけを作ったのは、原産国であるトルコではなくフランスだったそう。なんでも18世紀の初頭に、トルコに寄ったフランスの船員が、現地の女性が身に着けていた美しいストールに目を奪われたんだとか。そのストールにはアンゴラウサギの毛が使われていて、それを知った船員がアンゴラウサギを母国に持ち帰り、その毛に商業的な価値を見出すきっかけを作ったとされています。その後フランスでアンゴラウサギの改良が行われ、後述する「フレンチアンゴラ」が誕生したのです。
しかしトルコの女性が身に着けていたのはどんなストールだったのでしょうか、気になって仕方がありません……!
日本独自のアンゴラウサギがいる!?
アンゴラウサギにはいくつかの種類があり、アメリカのウサギの血統管理や開発、ショーの開催などを行う団体・ARBA(アメリカン・ラビット・ブリーダーズ・アソシエーション)では「イングリッシュアンゴラ」「フレンチアンゴラ」「サテンアンゴラ」「ジャイアントアンゴラ」の4つの品種が認められています。
正式に認められているのは4種のみですが、アンゴラウサギには他にもカナダ系、ドイツ系などの品種があります。さらに実は、日本の名前を冠する「日本アンゴラ」という品種もいるのです。
日本アンゴラは大正から昭和時代に日本国内で改良されたアンゴラウサギで、イギリス系、フランス系、カナダ系のアンゴラウサギを元に作り出されました。軽くて暖かい毛は軍服の裏地に適していたため、戦時中は全国各地で盛んに飼育されていたそうです。昭和15~16年頃にはなんと、全国で60万~120万羽もの日本アンゴラを含むアンゴラウサギが飼育されていたんだとか……!
一時期は非常に勢いがあったアンゴラウサギ産業でしたが、戦後は兎毛(うのけ)の需要低下に加えて中国やフランスなどの兎毛産業が盛んな国に押され、徐々に衰退していきました。そして現在では日本アンゴラを採毛目的で産業的に飼育している牧場や施設はなくなり、いつの間にか日本アンゴラは絶滅寸前の「幻のウサギ」になってしまったのです。
現在は日本アンゴラを絶滅の危機から救うべく、兵庫県にある「六甲山牧場」が主体となって、「淡路ファームパーク イングランドの丘」と「兵庫県立但馬牧場公園」と協力しながら飼育と繁殖を行っているそう。もし機会や興味があれば、幻のウサギに会いに行ってみてくださいね。
(文/三日月影狼)
【参考資料】
『うさぎの品種大図鑑』町田修(2010年)
『農林水産省ジーンバンク事業 動物遺伝資源の特性調査成績 第2巻』平成10年2月
『日本農業化学会誌』1978年第10号
毎日新聞「「日本アンゴラ」神戸で復活 繁殖続け30羽」(2017年5月10日)
《PROFILE》
三日月影狼(みかづき かげろう) フリーライター/動物イラストレーター。東京農業大学の畜産学科を卒業後、牧場(養豚)・商社・動物園を渡り歩いてきたヘンテコ物書き。好きな動物はトラとブタとウサギで、47都道府県の動物園水族館制覇を夢見ている。