『M-1グランプリ』準決勝の常連であり、漫才のうまさにも定評がある一卵性双生児の漫才コンビ・ダイタク。劇場の出番数も芸人屈指の3桁台、単独ライブは先行販売の時点で倍率が高く即完売と、舞台メインの漫才師として高い人気を誇るのは、「ライブではお客さんに絶対楽しんでもらう」という熱い気持ちがあるからです。一方で芸人人生について聞くと、「順風満帆だったことは一度もない」と返事が。全2回にわたるインタビューで、ふたりの人生を追います。
ライブに来たお客さんには絶対に楽しんでもらう! 舞台の動線までチェック
──ダイタクの活動の中心はお笑いライブ。おふたりの出るライブが毎回ハズレなく面白いのには、どのような理由があるのでしょうか?
吉本拓さん(以下、拓):例えば、初めてライブに来た人が、舞台にいる芸人たちは内輪ノリで面白くない、周りの客も笑っていない……って状況に遭遇したら、2度とお笑いを見に行かないじゃないですか。だから、ライブに来てくれたお客さんには絶対に満足して帰ってもらいたい。
吉本大さん(以下、大):これは俺と拓、共通する気持ちですね。
拓:すみっこの席のお客さんから舞台上の芸人が見えないのも嫌なんで、自分がMCをするときも見え方をチェックして、ほかの芸人に「(お客さんが見えなくなるから)そこの動線から出ないで」とか言ってますね。俺ら、たぶん視野は広いです。そのあたりのバランス感覚が、自分たちの売りなのかもしれないですね。
──お客さんファースト?
拓:いや、フィフティ・フィフティです。お客さんたちと俺たち、同じくらい楽しみたいんで。
大喜利が苦手と判明。賞レースですごくウケても決勝に進めず挫折感を味わう
──NSC(吉本芸能総合学院)東京校に通っていたおふたりの同期は、EXITのりんたろー。さんや相席スタートの山添寛さんがいます。その中でダイタクは首席で卒業したとか。
大:首席でしたけど、そのあと売れるかどうかは関係ないですよ。NSCに入学したころ思い描いていたのは、まずNSCで一番になるために頑張って、ふるいにかけられたあとデビュー、お笑い芸人として爆笑をとって売れていく、というストーリーでした。でも実際にナマの舞台に出ると、現実は違いました。
──どんなところが想像と違いましたか?
大:俺ら、当たり前のようにできると思っていたんですよ。大喜利やギャグがね。それが大喜利ライブに出て、苦手なんだとわかって衝撃を受けました。それと、劇場のライブに出てる先輩はテレビにはあまり出ず舞台で活躍する芸人さんたちで、自分たちの知らない方がほとんどだったのに、すごく面白かったんです。
──それは首席だったおふたりが感じた初めての挫折でしたか?
拓:自分たちができないことを知ったというのは、挫折とは違うかな。挫折って呼べるものは、デビューしてから何年かたって、賞レースですごくウケて絶対に決勝に進める、評価してもらえる、と思ったのに、そうならなかったときに初めて感じたかも。
『M-1グランプリ』(以下、M-1)も2015年に始めて準決勝に進んだときは、俺らがいちばん若手だったんです。それからほぼ毎年、準決勝までは進むんですけど、まだファイナリストになっていない。
大:何回か準決勝に行ったら決勝に進めるようなスタンプ制にしてほしいです(笑)。
目指せM-1決勝進出! 10年以上お笑い界にいると「もう先輩も後輩もない」
──この数年のM-1は出場者も激増して、準決勝は昔のM-1決勝と同じレベルなのではないかと感じますが、やはり目指すのは決勝に進むことですか?
大・拓:もちろん!
拓:決勝には行きたいです。決勝に行ったら認知度が上がって、単独ライブの全国ツアーもさせてもらえると思うので。でも優勝までは考えてないかな。
大:いや、でも実際にファイナリストになったら優勝したくなるんだろうな。決勝に進んだ芸人みんな、そう言いますもん。M-1は結成歴15年までしか出られないので、俺たちの場合は今年と来年、チャンスはあと2回ですね。いくら準決勝の常連でも決勝に行けなければ、何回戦で敗退しても同じですから。
──同期や後輩が決勝に進むと悔しさを感じますか?
大:悔しさとうれしさ半々くらいかな。今“若手”って呼ばれている芸人って、高校を卒業してすぐお笑いの世界に入っている人は少ないんです。みんな30代半ばとか後半だし。
拓:10年近く一緒にお笑いやってるんで、もう先輩も後輩もないっすよ。飲みに行くときも先輩におごりますよ。後輩にも金借りますよ。
──(笑)。芸人仲間と飲みに行くことは多いのですか?
拓:最近は少ないけど、俺らは1年目くらいのとき、先輩やライブの構成作家さんに体育会系のノリで可愛がってもらっていて。
大:もともと社交的な性格ではないんですけど、芸人仲間とかかわるときは先輩にしてもらったことを受け継いでいる感じがします。俺らの代で終わるかもしれないですけど。
──こうなりたいと思う芸人さんはいますか?
拓:昔から、特定の誰かが大好きっていうのはないんですよ。もちろんダウンタウンさんのコントは好きだし、ウッチャンナンチャンさんやとんねるずさんもよく見てましたけど、信者ってほどではなかった。笑いのジャンルもいろいろで、『志村けんのバカ殿様』(フジテレビ系)、吉本新喜劇、漫才、全部好きです。でも特定の芸人みたいになりたいとは思ったことがないです。
──逆に芸人になってから、有名人にダイタクのファンだと打ち明けられたことは?
大:「この間飲んだ(男性)ミュージシャンがダイタクのこと好きって言ってたよ」とかはたまに言われるんですけど、女性からはないですね。
拓:1回もない。駆け出しのアイドルのような子に「ダイタクさんが好き!」って言われたいんですけどね。
大:駆け出しだったらいいわ。売れてるアイドルに言われたい(笑)。
熊本から一家で上京。バイトしまくって貯めたNSC入学資金が、まさかの……
──おふたりは九州の熊本県出身。大阪にもNSCがありますが、どうして東京に?
拓:子どものときから、大阪のお笑いは関西弁でやっているものしか受け入れられないだろうって漠然と思っていて。とろサーモンさんや天竺鼠さんは九州から、からし蓮根は同じ熊本から大阪に出てお笑いを始めましたけど、そのほうが珍しいくらいだと思います。
──からし蓮根は関西弁じゃなくて熊本の方言で漫才をしていますしね。
大:俺らの周りの九州の人は就職や進学で、関西より東京に行く人のほうが多いんで、同じような感覚で東京を選びました。上京したら1年間バイトして学費や生活費を貯めて、次の年にNSC東京校に入るつもりでした。
──東京は家賃も生活費も高いので大変ですね……。
大:それがね、同じタイミングで親父の東京転勤が決まって、一家で上京したんですよ。実家なら家賃とかがかからないのでラッキーでしたね。ただ、学費は自分たちで出すため、週6でバイトを2つ掛け持ちして、1日10時間以上働いてました。たぶん月に20万近く稼いでいたんじゃないですかね。
だから200万円以上貯まっていてもいいはずなのに、いざNSCに入学するときは手元に20万円しかなかった。俺も拓もです。びっくりしました。
──計算が合わないどころの騒ぎじゃなくて私もびっくりしました。いったい何が……!?
拓:むしろ、その20万円は前の月のバイト代。
大:あとは酒飲んでパチンコをしてなくなりました。ちなみに俺はNSC入学のとき、当時の彼女に20万円借りてます。
──(笑)。今もギャンブルが大好きとのことですが、昔から変わらないのですね。そういえば相席スタートの山添さんが何かの番組で、「同期のダイタクがギャンブルの先生だった」というようなことを言っていました。
拓:身近でギャンブルをやってるのが俺らだけで、山添から「教えてくれないか」って言ってきたのに、あいつ、勝手に俺らがやらせたみたいに言ってる。
大:同期とは仲がよくて、山添とも絶対にここじゃ話せないことばかりしてきました。
拓:記事には載せられないですよ。余裕でね。
漫才でウケた多くの経験が支えに。今後については「人生設計がないんですよ」
──聞きたいですがNGのようですね……(笑)。NSC東京校14期を首席で卒業、昨年の劇場出番数も3桁台と多く、ダイタクを見るために通うファンもたくさんいますが、自身の芸人人生をどのように感じていますか?
拓:順風満帆だったことが一度もない。最初に所属した劇場でも、下から数えて3番目の位置からスタートしましたしね。’14年の漫才コンクール『THE MANZAI』でも、絶対に決勝に進めると思っていたのにいけなかったし、M-1もずっと準決勝まで。
──でも、おふたりには漫才の強さがある。
大:そうですね。舞台で漫才をしてウケたときのほうが多いという自負があるから、何かあってもダメージが少ないんだと思います。
拓:たくさん舞台に立ててるんで、今はお笑いだけで飯を食えてますけど、そうじゃない状況が10年以上続いていたら、芸人やめてるだろうなあ。
大:お笑いの世界で10年間、希望の光が見えていない状態だったら、俺はほかのことをやっていたと思います。
──以前、とある芸人さんが「兄弟コンビには解散がない」と言っていたのですが、おふたりはそうではない?
大:俺ら、人生設計がないんですよ。そのせいか、解散したらしたで面白い気がしてます。その後、拓と違う人生を歩むのか、同じ業界にいるのか、また漫才師として復活するのか……わからないですけど、解散した場合のことを悲観的に考えたことはないです。
拓:やめるときは「もういいや、やーめた!」って感じだと思います。「今年のこの賞レースの結果が……」って理由では絶対やめないです。
◇ ◇ ◇
ギャンブルやお酒が大好きな“昭和風の芸人”と呼ばれながらも、初めてお笑いライブに来た人を最大限に楽しませようとする配慮や、マイナスだと思われる出来事さえ「面白そう」と受け止めるポジティブさに個性が光るダイタク。
続くインタビュー第2回ではふたりの生い立ち、結婚観などを話してもらったあと、読者に対しての思いがけないアドバイスもしてくれました。
(取材・文/若林理央)
【INFORMATION】
ダイタクの60分漫才~2023 夏~
2023.7.22.Sat@ルミネtheよしもと 会場19:10/開演19:30
チケット料金:前売3000円/当日3500円/オンライン2000円
【PROFILE】
ダイタク ◎一卵性双生児の吉本大(兄)・吉本拓(弟)からなるお笑いコンビ。熊本県出身。ともに2008年NSC東京校14期生で、同年4月にコンビを結成。’19、’20年 『M-1グランプリ』準決勝進出、’19、’20年『キングオブコント』準々決勝進出。ヨシモト∞ホールでは看板芸人である「ムゲンダイレギュラー」として活動するほか、主催ライブや単独ライブも精力的に行い、全国に多くのファンを持つ。
◎ダイタク・拓さんTwitter→@daitakutaku
◎公式サイト『ダイタクの家』→https://mosh.jp/classes/page/32078
◎公式YouTubeチャンネル『ダイタクTV』→https://www.youtube.com/channel/UCVYgwpW8v3OM_bry9j838Xg