現在14万人を超えるTwitterのフォロワーを持つ、元エリート幹部自衛官の「わび」さん。上司のパワハラや早朝深夜の激務により、メンタルダウンを経験したものの、それを乗り越え、現在は外資系航空会社の危機管理スペシャリストとして活躍し、充実した生活を送っています。
(現在のわびさんの自然に囲まれた充足した生活や、メンタルダウン時の詳しいエピソードは前編で紹介しています。→記事:メンタルダウンした元エリート自衛官のわびさんに聞く──“本当の自分になるため”の人生戦略とは)
後編では、メンタルがダウンしそうなとき、次につながる“正しい逃げ”のタイミング、“空気を読みすぎる”“完璧主義”の人など、今すぐできる、タイプ別のメンタルケア方法について伺います。
「逃げる」判断をするための「検討期間」が大事
──前回の記事で、メンタル不調から身を守るためには「逃げるのも必要だ」というアドバイスをいただきました。“逃げる”うえで、大事にすべきことはありますか?
「そうですね。選んだ道を正解にするのは、すごく大切なことだし、そういう考えもあると思います。一方で、それが行きすぎてしまった場合、私みたいにメンタルダウンを起こしてしまうことを肝に銘じておく必要があります。
努力するのも大事ですが、もうダメだと思ったときは、やはり逃げることです。いわゆる“戦略的撤退”です。ただし、つらいからといって、逃げてばかりを繰り返していては、最後は逃げる道すらなくなってしまいます。そうならないために、大事なことがふたつあります」
【1】逃げる先は、自分が立てた戦略(大まかな方向)からずれないこと
「私の場合は、“人生を楽しみたい”という方向(目標)があるので、仕事も楽しめて、かつ家族や趣味の時間を持てるということが、最も重要になってきます。転職などで居場所を変える際も、このポイントは外さないようにしています」
【2】その仕事や環境が、本当に自分にとってつらいものなのかをジャッジする期間を設ける
「メンタルダウンして思ったのは、あのパワハラや超過勤務の非常に悲惨な状況で、正常な精神状態を保てるのは、半年ほどでした。ですから、もう少し短い期間で目安とするジャッジ期間を設けることが必要です。いちばんの基準になるのは、“消耗と回復のサイクル”だと思います。
例えば私の場合、仕事で受けるダメージが所定の休日だけで回復しないことが多くなったら、それが半年以上続く場合に、今後の身の振り方を考えます」
他人の評価はあてにならない。70〜80点を目指そう
──例えば、空気を読みすぎて、他の人を優先してしまうタイプは、どうしたら自分を守れるでしょうか?
「なぜ、周りに気を遣ってしまうのか。その根本を自分なりに振り返る必要はありますが……。例えば、そういうタイプの人は、もめごとが嫌だとか、自分のやりたい方向性が明確じゃないとか、理由はいろいろあると思います。
まず肝に銘じてほしいのは、“人生の主人公は自分だ”ということです。それが認識できれば、無理してほかを引き立てたり、必要以上に他人に気を遣ったりすることはなくなるように思います。もちろん組織の中で仕事をしている以上は、その組織の目標を達成しなければいけませんし、組織の中で達成すべき自分の目標もあるはずです。
組織の目標や自身の目標を達成するために、どんな行動をとるべきなのかを日々考えていれば、他人の手助けや助言が、自分自身や自分の仕事にとってプラスになるものなのか、マイナスになるのかが、はっきりと見えてくるはずです。プラスなことであれば取り組めばいいし、マイナスになるようなら、冷たい言い方になりますが、切り捨てるぐらいの気持ちで接したほうがいいと思います。
なぜ、そのように考えるのかというと、自分が倒れることが組織や家族にとって、一番の痛手になるからです。自衛隊では“我(われ)の健在”という考えがあります。これは“最後まで生き残ること”を意味します。
目の前の仕事は終わっても、次の仕事がどんどんやってきて、こなしていかなければなりませんので、自分が疲弊することは最小限に抑える必要があります。それを念頭に置くことができれば、自分に関係ないことは自然と切れるようになってくるはずです」
──周りを見ていると、頑張すぎてしまう真面目な人ほど、メンタルダウンを起こしてしまう傾向があるように思います。そんな人は、どのように考え方を変えればいいでしょうか?
「こういうタイプの人は“完璧主義”な傾向があるかもしれませんが……。ひとつ言えることは、何事も100点満点を求めすぎないことです。同じ仕事をしていても、100点をくれる人もいれば、40点しか評価してもらえない人もいます。適当にやったことを、ものすごく高い評価でつけてくれるときもあります。
どれだけ頑張っても、100点を維持し続けることは難しいということです。それなのに、歯を食いしばって満点を目指すのは、メンタルを壊すだけです。70〜80点を目指すぐらいが、息長く仕事を続けるためには、大事なことだと思います」
心を落ち着けるために、新たに始めた習慣とは?
──最後の質問です。メンタルダウンしてから、自分の気持ちを整えるために、新たに始めた習慣などはありますか?
「出社前と退社後に、必ず毎日やっていることに“お寺参り”があります。近くのお寺に出世地蔵と千手観音像があるので、出社前はその2体に“今日も頑張ります”、退社後は“今日も何事もなかったです。ありがとうございました”と手を合わせて、報告しています。
自宅に仕事を持ち帰りたくないので、仏さんに1日のことをお伝えして、気持ちを整理するようにしています。このおかげがどうかわからないですが、いまの仕事は人間関係に恵まれて、評価もされています。それに『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術 』も多くの人に読まれていて、ありがたい限りです。
ひとりになって、自分の気持ちを振り返る時間をつくることで、オンとオフを切り替えられるようになりました。リフレッシュできていないなと思う人は、ぜひ試しにやってみてください」
(取材・文/西谷忠和、編集/本間美帆)