長いキャリアの中で数々の賞を受賞し、多彩な演技力に定評のある俳優・松山ケンイチさん。インタビュー前編では、出演している映画『大名倒産』について語っていただきました。後編では、最近ハマっているアニメや農作物を育てる面白さと難しさ、日本の伝統技術の存続についてなど、いろいろなお話を伺いました!
今回は現場に遊びに行くような感覚
――今回の映画『大名倒産』で共演した神木(隆之介)さんとは、これまでも映画『ノイズ』での共演経験がありますが、当時の印象と何か変わったと感じるところはありましたか?
印象は昔とあまり変わらないですね。コミュニケーション能力が高いので、神木くんと話していると安心するんですよ。年齢が上とか下とか、女性や男性ということではなく、ちゃんと「人」を見てくれているような感じがします。
僕が今回の現場に入る前に、神木くんに「どんな感じで撮影しているの?」と聞いたら「時代劇っぽくやってないです」というようなことは話しました。今回、僕の出番はそんなに多くなかったので、遊びに来たような感じで楽しくやっていました。
――では、特にお二人で相談することもなく?
それもなかったです。神木くんは主演なので、緊張とか気負い、気遣いは絶対に感じていたと思うんですけど、そういうものも表に出さないですし、普段の神木くんのままでいるような雰囲気があったので、僕が心配することはまったくなかったです。
僕は神木くんとよくアニメの話をするんです。「なんか面白い作品あった?」って聞くと必ずおススメを教えてくれるんですよ。
松山さんのイチオシアニメとは?
――神木さんとアニメの話をされるんですね! 松山さんがアニメ好きだったとは存じ上げませんでした。
アニメ好きですよ。ゲームもアニメもすごく好きで、小さいころからずっと見てきているっていうのもありますが、子どもたちも好きなので、実写よりもアニメのほうが見ていることが多いです。
――特にお好きなアニメや、今イチオシの作品があれば教えてください。
『鬼滅の刃』ももちろん見ていますし、『ONE PIECE』の映画も早く見たいなと思っていますが、前にたまたま子どもたちと「何かないかな」って探して見始めたのが『うらみちお兄さん』という作品です。体操のお兄さんが主人公なんですけど、めちゃくちゃブラックジョークが盛り込まれていて、一見爽やかだけど人生に疲れて情緒不安定な「うらみちお兄さん」が、ふと垣間見せる大人の闇が描かれているので、ぜひ見ていただきたい。人生に疲れているお兄さんですが、子どもたちと一緒にいることで、なんとか精神状態を保っているような話で、面白いんです。
農作物も人も「生き物」として同じ
――今のお話を聞いただけで、めちゃくちゃ気になりました(笑)。ところで、今回演じられた新次郎は、天才的な庭造りの才能を持つという役どころでした。松山さんも農業をされていますが、作物を作ることや土と触れ合うことで、どんな気づきがありましたか。
森を見ても生存競争は行われているし、土と植物の関係でも、生き物として人と同じなんだなと思います。自分が悩んでいることや思っていることと、植物や農作物、土を照らし合わせてみると、だいたい答えが出てくるんですよ。
そこにもう何十年も携わって向き合ってきた人たちは、僕がいろいろな質問をしても全部答えてくれるので、なんだか人生相談みたいになっているんです。自然と向き合っている人たちは無理していない感じがして、心身ともに健康だなと一緒にいて感じます。そういう方々といるといろいろな気づきがあるし助けにもなっているので、自分にとっても必要なものになっていますね。
――「先人たちの教え」ですね。
みなさんの持っている知恵や経験はとても価値のあるものだし、普通じゃ聞けない話じゃないですか。それを楽しそうに教えてくれるので、こんなにありがたいことはないなと思うし、「自分はこの人たちに何を返せるんだろうな」ということはずっと考えています。返せるものがある人って、やっぱり強いですよね。自分はまだまだですが、人やいろいろな物事に対して、何かお返しできる人になりたいなと思います。
余ったものを無駄にせず、どう活用するかも学んでいきたい
――松山さんのInstagramをよく拝見しているのですが、先日はホーリーバジルやトマトの苗をひとつずつ丁寧に入れ替えていらっしゃいましたね。作物を育てるには、やらなければいけないことがたくさんあると思いますが、どの作業が特に楽しいですか。
どの作業も面白いですよ。ただ、収穫時期になると結構大変なこともあって、例えばイチゴは旬の時期になると実が一気にブワーっとなるんですよ。放っておくと虫に食われたりカラスが来たりするので、早く収穫したいんです。なので、楽しいというよりもう必死です(笑)。
それに、たくさん採れたイチゴを新鮮なうちに全部食べきるのは難しいじゃないですか。誰かにおすそ分けしたり、ジャムにしたりすることもありますが、僕が育てているのはブランドイチゴみたいに甘さを追求しているような品種じゃなく、ほったらかしにしていたら自然にできているようなものなので、余ったものをどうするのかっていうことも考えなきゃいけないんです。今、ちょうどそういう時期になってくるので、覚悟が必要なんですよ。
――確かに、鮮度のいいうちは生食するとして、余ったものをどう美味しくいただくかは、品物にもよりますね。
まだ去年の収穫分も残っているんですけど、残っているということは使いきれていないってことなんですよね。それで結局廃棄せざるをえなかったり、保存するにも電気代がかかるので、どうやったらこのイチゴを無駄にすることなく活かすことができるのか、その時期のものはその時期で使いきることも考えなければいけないなと思います。
――私の親も田舎で畑をやっているのですが、夏ごろになるとキュウリがどんどんできまして。漬物にもしますがそれも限界があって……。キュウリ、どうしたらいいでしょうか。
キュウリはめっちゃ難しいですね。生だとすぐに腐るじゃないですか。だから僕も加工ということをいつも念頭に置きながらやっています。作ったものは最後まで上手に活用するところまで考えないといけないですね。
伝統技術を持つ人たちの居場所がなくなることが一番怖い
――出演されている映画『大名倒産』の舞台である江戸時代は、衣食住あらゆる面でリサイクルやリユース、リペアが行われていたと聞きます。その「もったいない精神」は、今の世界が目指している「持続可能な社会」に近いなと感じました。
僕は製品の寿命って、ほとんどないと思うんです。例えば、洋服でも多くの人は破けたら買い替えたり、ニオイが取れないから捨てたりしていますが、生地としてはまだ使えるものや、織り直す伝統工芸もいまだにありますよね。きっと江戸時代の人たちは、ひとつのものを何十年も使い続けることが当たり前な感覚だったと思うんです。
今は、新しい価値観が出てきたことによって、当たり前のようにわかるものがわからなくなってしまったり、気づけなくなってしまったりすることもあるので、僕もそこは取り戻したいなと思うし、この作品を見て、忘れかけていたことをハッと気づかせてくれたところがありました。
――特に気になった節約術や考え方はありましたか。
作中で、丹生山(※映画の舞台である架空の藩)の名産である塩引鮭(※生鮭の腹を割き、内臓を取り出した後に丁寧に塩をすり込んで軒先に吊るして干したもの)を復活させるというのは、すごいことだと思います。伝統工芸や伝統美術で失われていくものは今でもたくさんあって、それにいろいろな付加価値をつけたり仕組みを作ったりして、みんながきちんと働ける場所も作りつつ、伝統技術を復活させていく。ある意味、ブランディングもできているわけですからね。
日本だと、だいたいそれに変わるものや技術は海外からの輸入で賄われていたりするので、そうやってどんどん失われていくものってあると思うんです。なので、長い間続けてこられた伝統技術の職人さんたちをどうやって復活させるのか、仕事として成立させていくのかということは考えていきたいですし、日本の課題のひとつですよね。そういう技術をもった人たちの居場所がなくなってしまうっていうのが、一番怖いことだと思っています。
――鮭といえば、映画で新次郎が「おかわり!」と言って、ご飯をたくさん食べるシーンが大好きでして。塩鮭もご飯に合いますが、松山さんの「ご飯のお供」は何でしょうか?
納豆とニンニク味噌と……いろいろありますけど、おにぎりにしたら塩だけでもいいですよね。究極、塩です。僕は小腹が空いたときにおにぎりを食べるんですけど、おにぎりは食いつないでいく感じが好きなんですよね。
僕は結構太りやすいので、あまり食べすぎないように気をつけているのですが、お米を抜くとセリフが憶えられなかったり、出てこなくなったりするんですよ。なので、お米は食べるようにしています。
(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/篠塚ようこ、ヘアメイク/勇見勝彦(THYMON Inc.)、スタイリスト/五十嵐堂寿)
●Profile
松山ケンイチ(まつやま・けんいち)
1985年3月5日生まれ、青森県出身。2002年に俳優デビュー。その後、NHK大河ドラマ『平清盛』で主人公・平清盛を演じるなど、多くの作品に出演。2023年はNHK大河ドラマ『どうする家康』、TBS系金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』に出演。3月には主演映画『ロストケア』が公開。
また、2022年3月に捨てられていく「資源」をアップサイクルするプロジェクト「momiji」が始動。2023年6月15日(木)~28日(水)まで銀座和光本店4階にて『モミジ アーティストコレクション』を開催。
●Information
映画『大名倒産』
監督:前田哲
脚本:丑尾健太郎、稲葉一広
出演:神木隆之介、杉咲花、松山ケンイチ、小日向文世、小手伸也、桜田通、宮崎あおい、浅野忠信、佐藤浩市ら。
公開日:2023年6月23日(金)
(C)2023映画「大名倒産」製作委員会