企業の新年度がスタートして、はや1か月がたった。環境の変化になじめず「五月病」を感じる新入社員も出てくる、この時期。
40〜50代の管理職にとっては、世代間ギャップを感じる新入社員を、どうマネジメントしていくべきか迷うことも多いはずだ。
新入社員は、上司のどんな言葉に働くモチベーションを下げてしまうのだろうか。若手世代の価値観やキャリア観に詳しい、転職サービス『doda(デューダ)』副編集長の桜井貴史さんに伺った。
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若手社員は、人一倍、仕事での成長意識が高い
管理職の中には、新入社員など若手との接し方に悩んでいる人も少なくない。その理由のひとつに、世代間のギャップがある。
新入社員などの若手世代は、どんなキャリア観や職業観を持っているのだろうか。桜井さんに聞くと、“仕事で成長したいという意識がきわめて高い”ことだ、と言う。過去6年間、調査している20代の若手に関するデータにおいても、それが顕著に出ているようだ。
「このグラフは、20〜24歳における仕事選びの重視点を表しています。すべての項目において、直近の2022年の各スコアが上がっており、特に“入社後の研修や教育が充実していること”は、2年前と比べて1.5倍ぐらいになっています」
その理由については、おもに3つあるという。
「1つ目は、コロナ禍になり“今後何が起こるかわからない”という、時代の大きな変化。2つ目は、経済界のリーダーによって“終身雇用の崩壊”が叫ばれ、“自分自身の市場価値を高める必要が出てきた”こと。
3つ目は、リモートワークが普及し、通勤時間や懇親会などが減り、自分の時間ができたことで“自己研さんできる時間が増えたこと”などが挙げられます」
また、その他の若手のキャリア観の特徴としては、“1社にとらわれない意識が高いこと”“自由な働き方を志向している”という点も、傾向としてあるという。
配属ガチャや、理想と現実とのギャップなどが原因で五月病に
新入社員は、「今の職場でスキルを上げていきたい」というポジティブな意識があるにもかかわらず、五月病になってしまうのは、どういう理由からだろうか。
「『配属ガチャ』という言葉があるように、“自分の希望する事業、あるいは仕事に配属されないことや、就職活動のときに感じたイメージと実際の職場に生じるギャップによって、不満や不安が生まれ、心身に影響を与える”ということが、一定数あると思います。
そして、上司からかけられる言葉の違和感が、その不安に拍車をかけているのかもしれません」
つい言っていませんか? 働く意欲をなくすNGワード3選
桜井さんが挙げた、管理職がつい口にしてしまうNGワードは、次の3つ。
①「やる気が足りないのではないか」
「一昔前の世代からすると、精神的な部分は、仕事では非常に大事だとされてきました。いまもなお“やる気”は、重要な要素ではありますが、若手世代からすれば“やる気の出ない理由”がもちろんあるわけで、“やる気が出るように仕組みを整えるのも、会社や上司の役割なのでは”と考えています。
昔と違って、いろんな価値観や考え方があることを大事にしている若手世代にとっては、“やる気が足りない”という言葉だけでは、なかなか心に響きません」
②「いまと違って、オレたちの時代は……」
「昔の時代といまが違うことは、若手世代ほど感じています。だから、この言葉で考え方を改めさせることは難しい。むしろ部下は、この言葉で心理的距離を感じてしまうかもしれません。
上司として若手をマネジメントするのであれば、まずは若手のことを理解すべきだと思います。それをやらないのは、“上司として、やるべき仕事をやっていない”と、思われても仕方がない
③「まずは言われたことをやりなさい」
「“CAN(できること)”が増えてこないと、“WILL(やりたい)”が育たないので、まずはやるべきことをやって力をつけるというのは、正しい考えです。
一方、いまの若い世代は、意義・意味をすごく大事にしています。仕事の意味、やることの意義を知りたいことと、それが自分たちの価値観と合っているかどうかを、若者は察する力に非常に長けています。
20代は“人は自分らしく生きるべき”や“社会貢献することがとても大事”という志向性が強い世代でもあるので、仕事の背景を意識して説明するようにしましょう。納得できると、その後は細かく指示を出さなくても自律的に頑張るのも特徴のひとつです。
そこをすっ飛ばして、“まずは言われたことだから、文句を言わずにやれ”というのは、モチベーションを上げることにはつながりません」
若手のよさに目を向けて、コミュニケーションを図ろう
管理職と同世代である筆者としては、これらのNGワードが、つい口に出してしまいそうなのも、致し方ないと思ってしまう。なぜなら、われわれはこれまでそうやってマネジメントを受けてきた世代でもあるからだ。
「NGワードに注意するよりも、まずは若手社員を理解するところから始めてみては」と、桜井さんはアドバイスする。
「いまの若い世代は、われわれ管理職とは価値観がまったく違うので、“彼らを理解して、彼らのよさをどう生かすか”という、マネジメントの本質に立ち戻って接するのがいちばんだと思います。
それは、決してネガティブな話ばかりではなく、最初にお話ししたように、自分自身のキャリアを高めて成長したい気持ちは、われわれ40〜50代よりも、彼らのほうがはるかに強いので、“自分たちのキャリアにとっても、これはいい経験してるよ”と、彼らのよさを認めた、コミュニケーションをするだけで、全然違ってくると思います。
彼らは納得したら、“こういう機会があるなら、ぜひやってみたい”と意欲を見せるはずなので。そうすれば、先輩たちの刺激にもなり、組織の活性化にもつながるはずです」
(取材・文/西谷忠和、編集/本間美帆)
【PROFILE】
桜井貴史(さくらい・たかふみ) 総合人材サービスを提供する、パーソルキャリア株式会社の転職サービス『doda(デューダ)』副編集長。2016年11月、パーソルキャリア株式会社に中途入社し、数々の部署の責任者を歴任した後、2023年4月、doda副編集長兼クライアントP&M本部プロダクト統括部エグゼクティブマネジャーに就任。年間約60万人以上の若者のキャリア支援に携わっており、Z世代の就職・転職動向やキャリア形成、企業の採用・育成手法に精通している。