みなさん、ウォンバットという生き物をご存知ですか? オーストラリアに生息している、短い足とずんぐりむっくりのまん丸ボディがキュートな四足歩行の動物です。ネズミ? ウサギ? モルモット? カピバラ? どれも違います。なんとコアラと親戚なんだとか!?
オーストラリア在住の高野光太郎さんが『ウォンバットのうんちはなぜ、四角いのか?』(晶文社)という著書で、ウォンバットの謎の生態や今さらされている危険や問題について語りに語りまくっていて話題に。
高野さんは2012年、地元の愛知県の高校を卒業後、タスマニア大学理学部動物学科 大学院生物化学修士課程を修了し、現在、サンシャインコースト大学 健康・行動科学部でウォンバットの研究に携わっている研究者なんです!!
研究者といったらお堅いイメージがありますが、著書は親しみのあるポップな文章で、わかりやすく楽しくウォンバットについて解説してくれています。
気になるウォンバットのことをもっと知りたくて、オーストラリアの高野さんにリモート取材を敢行しました!
【前編】は、高野さんがウォンバットの生態や魅力について、あますところなく語り倒してくれました。知れば知るほど謎が深まるウォンバットの秘密に迫ります。
運命に導かれた!? オーストラリアの大学でウォンバット研究に携わる
──『ウォンバットのうんちはなぜ、四角いのか?』というタイトルに惹かれて手に取ったのですが、いきいきとした文章に引っ張られて、あっという間に読み終えてしまいました。
ありがとうございます! 読んでくださった方たちからも、「ウォンバットのことを知れてうれしい」という声をたくさんいただきました。
──何と言っても表紙がかわいいですね。
いや本当にかわいくて、僕もめちゃくちゃ気に入ってます(笑)。
──高野さんはオーストラリアで生活を始めて10年がたつとのことですが、ウォンバットの研究に携わるようになった経緯を教えてください。
日本の高校を卒業後、オーストラリアのタスマニア大学理学部動物学科に進学したのですが、3年生(最終学年)になったとき研究プロジェクトに参加すれば試験を受けずに単位が取れることを知って、スコット・カーバー先生の研究室のドアを叩いたんです。
いちばん怖くなさそうな先生というのが決め手だったんですが、その先生がウォンバットについて研究していて、そこでウォンバットの巣穴の研究プロジェクトに参加したことが僕の運命を大きく変えました(笑)。
卒業後は紆余曲折ありIT企業に就職するのですが、ウォンバットのことが忘れられず、今はサンシャインコースト大学の健康・行動学部に在籍して、ウォンバットの研究に従事しています。
かわいい顔に似合わない「鋼鉄のおしり」の役割
──ウォンバットの生息地はオーストラリアなので、日本人の中にはウォンバットを知らない人もいると思います。どんな動物なのでしょうか?
ウォンバットと聞いてイメージしてくれる人が10人いたとしたら、6人くらいがカピバラを思い浮かべると思うんですよ(笑)。
──たしかに体形が似ている気がします。
でも、カピバラはげっ歯類で、ウォンバットはカンガルーやコアラと同じ有袋類なので、まったく別の動物なんです。あと大きめのモルモットを想像した人もいるかもしれませんが、大きいものは体長が1メートルくらいあるし、体重も30キロを超えるものもいて、近くで見るとちょっと怖いくらいです。
──それはかなり迫力がありますね。
さらに穴掘りをする地球最大の動物で、長さ20〜30メートルくらいの巣穴を作るんですけど、人間の家のように台所、寝室、トイレというふうに用途に合わせて部屋が分かれているんです。外が氷点下になろうが、40℃になろうが、巣穴の中はだいたい10℃から20℃の間に保たれています。彼らは体温調節が苦手で、特に暑いところでは体力を消耗しがちです。そのため夏の暑い日は1日20時間くらいずっと巣穴の中で寝ていて、夜、涼しくなってから外へ出て草を食べるという生活をしています。
そして、いちばん面白いのがおしりが硬いこと。これが「鋼鉄のおしり」で、机をグーで叩くとコンコンコンって音がするじゃないですか。それと同じくらいの硬さです。
──鉄兜(てつかぶと)がおしりにハマっているような?
動物の体を触って硬いなというレベルじゃなくて、生き物じゃなく“物体”だなと思ってしまうくらいの硬さです(笑)。厚さ6センチもある硬い組織に覆われていて、噛まれても叩かれてもまったく痛みを感じません。
──硬いおしりには、どんな役割があるんですか?
天敵はほとんどいないんですけど、ディンゴやタスマニアデビルといった肉食動物に襲われることが稀にあるんですね。天敵に出会ったときにダッシュで最寄りの巣穴に逃げ込んで、おしりで入り口を塞(ふさ)ぐんです(笑)。
そうすると、肉食獣のほうはチャンスだと思って、おしりに噛みつくわけですが、「鋼鉄のおしり」なので文字どおり歯が立たない。だいたいそこで諦めるんですけど、往生際の悪いやつがどうにかして噛みつこうと巣穴の奥に頭を突っ込むらしく、そこで巣穴の天井とウォンバットのおしりの間に挟まれて、頭を強く打ちつけられて気絶するか、最悪は頭蓋骨が砕かれて死んでしまうという……。ウォンバットは見た目によらず、けっこう荒々しい一面のある動物なんです。
うんちが四角いのはなぜ?
──ちょっとびっくりですね。お顔がかわいいだけに。
そうですよね(笑)。昔、オーストラリアでは子どもが巣穴に手を突っ込んで腕を折られたことがあって、ウォンバットの巣穴を見つけても絶対に腕を突っ込むなと言われています。
それから本のタイトルにもなっていますが、ウォンバットのうんちは四角いんです。肛門が四角いわけじゃないですよ(笑)。これはウォンバットの腸の一部が、硬い壁と柔らかい壁が交互に存在する特殊な構造をしており、そこをうんちが通過することにより徐々に角が形成されていくという仕組みのせいなんです。あと、野生のウォンバットはあまり水を飲まないので、だいたいの水分を食べ物の草から取っているんです。水分を草から絞り出して体内に吸収するので、うんちが乾燥して硬くて四角い形状を保ちやすくなるというわけです。
──なるほど。
あと、四角いうんちが表札代わりにもなるんですよ。基本的にウォンバットは単独行動で、ほかのウォンバットと絡むのが好きじゃないので、自分が巣穴の所有者だと縄張りを主張するために巣穴の入り口にうんちをするんですが、例え風が吹いたとしても四角いから転がらないので好都合なんですよね。
──あと、カンガルーみたいにポケットがあるけど、おしりに向かって後ろ向きについているそうですね。
ウォンバットの袋が後ろ向きについている理由は、前向きについていると穴を掘ったとき、かき出した土が袋に入ってしまうから。それで後ろ向きについたと言われています。
なので、たまにウォンバットの子どもが袋から顔を出していると、上から母親のうんちが降ってくることも(笑)。ちなみにコアラとウォンバットは近縁なんですけど、コアラも袋が後ろ向きについてるんですよ。
──そういえば、なんとなく顔も似ていますね。
似てますよね。共通の先祖を持っているようです。
日本の動物園でウォンバットを見るときのポイントは?
──ところで、ウォンバットの毛は硬いんですか? カピバラと似ているような気がするんですけど。
似てるけど、ウォンバットのほうが毛深いんですよ(笑)。カピバラはアマゾンの川に住んでいるので、逆に毛深いと水はけが悪くなってしまう。でもウォンバットは穴を掘るので、汚れないように体をコーティングするため、毛の密度が高いんです。
──ウォンバットはつぶらな瞳が印象的ですが、喜怒哀楽はあるんですか?
寝ているときは巣の中にいるので観察できないんですけど、怒ってるなとか、甘えてるなという声はわかります。
──感情はあるんですね。
人間が持つ感情とはおそらく違いますが、敵が向かってきたときに威嚇したり、メスのウォンバットに近づいたり、親に甘えたりというコミュニケーションの方法としての声は持っていると思います。
──実際にウォンバットをこの目で見たくなりました! 日本でもウォンバットが見られる場所が茶臼山動物園(長野県)と、五月山動物園(大阪府)の2か所にあるそうですが、実際に動物園に行ったらどこを見たらいいでしょうか?
うーん、そうだなあ……。動物園だと水を与えられるし、水分の多いフルーツなども食べていると思うので四角いうんちを見つけるのは難しいかもしれません。やっぱりかわいい顔して意外とデカい体とか、顔に似合わず鋭い爪などを見てほしいですね。野生動物特有の力強く生きる姿を見ていただけたらいいのかなと思います。
◇ ◇ ◇
【後編】(2月12日11:00公開)では、ウォンバットをはじめ野生動物たちがさらされている危険について高野さんがとことん話してくれました。
(取材・文/花村扶美)
〈PROFILE〉
高野光太郎(たかの・こうたろう)
ウォンバットを愛し、またウォンバットに愛されたウォンバット研究者。 愛知県出身。2012年に日本の高校を卒業後、タスマニア大学理学部動物学 科・同大学院生物化学修士課程修了。 メルボルンでの就労経験を経て、現在はサンシャインコースト大学健康• 行動科学部でさらなるウォンバットの研究に携わる。