「無我の境地」という言葉があります。
これは、仏教において「“自我へのとらわれ”から解放され、悩みが消えて自由になった悟りの状態」のこと。
現在では、そこから転じて、ひとつのことに集中して「無心」になっている状態のことを言ったりします。
この状態になると、心がフリーになって、頭がクリアになり、自分でも驚くようなアイデアをひらめくことがあるといいます。
今回は、「無心」になるためのいちばん簡単な方法である、「止想(しそう)」について。
世界の一流企業も取り入れる「瞑想」
Google、アップル、マッキンゼー、メタ(旧フェイスブック)、ゴールドマンサックス、インテル……。いずれも世界に冠たる一流企業です。
これらの企業が共通して、社員研修に「瞑想(めいそう)」を取り入れていると言ったら、あなたは驚くでしょうか?
今回は詳しくは触れませんが、瞑想をすることで、脳からは、アルファ波と呼ばれる脳波が出ることがわかっていて、「リラックスして脳が疲れにくくなる」「集中力が高まる」「ポジティブ思考になる」「ストレスに強くなる」などの効果があることが、科学的にも証明されているのです。
これだけの効果があるのですから、世界の一流企業が取り入れるのも納得。
近年は、マインドフルネス(「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、 評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ見ること」日本マインドフルネス学会の定義より)のブームもあり、がぜん瞑想が注目されています。
「瞑想なんて、やったことがない」という方。試してみる価値はあると思いませんか?
「やってみたい気持ちはあるけど、なんか難しそう……」
そんな声が聞こえてきそうです。
この「瞑想は難しい」というイメージ。
たぶん、お寺で座禅を組んでいる人が、お坊さんに「喝!」なんて言われて、警策(「きょうさく」または「けいさく」と呼ばれる木製の棒)で肩などをたたかれている場面が浮かぶからではないでしょうか。
あれは修行だからです。自分でやる分には、雑念が入ったって、誰にもたたかれません。
これから、ものすごく簡単な「雑念の消し方」をお伝えします。
いちばん簡単な「雑念の消し方」
瞑想のやり方はいろいろですが、一般的には、おおよそ、次のような流れで行います。
◆目を閉じるなりしてリラックスする
◆雑念をはらって何も考えないようにする
大切なのは、最後の「雑念をはらって何も考えないようにする」ことです。
せっかく静かな場所で目を閉じて情報を遮断しても、明日の会議のことなんて考えていたら、瞑想になりません。
でも、いくら何も考えないようにしようと思っても、次から次へといろいろなことが頭に浮かんできてしまうのが人間というもの。
そこで、試してほしいのが、「止想」です。
これは、読んで字のごとく、「思いを止める」こと。どうすればよいのかというと、何か、意味のないことに集中すればよいのです。
例えば、ロウソクの炎を見て、それに集中する。
例えば、吸って、吐いてという自分の呼吸に集中する。あるいは呼吸の回数を数える。
例えば、同じ言葉を何度も口にして、それに集中する。
たったそれだけでオーケー!
なぜなら、人間の脳は、一度にひとつのことしか考えられないようにできていると言われているからです。
ひとつのことに集中すると、それしか考えることができず、雑念が入る余地がなくなってしまうというわけですね。
なので、3つ目の方法「同じ言葉を何度も口にして、それに集中する」で口にする言葉は、「リンゴ」でも「ゴリラ」でも、なんでも結構!
唱える言葉自体ではなく、「唱える言葉に集中して、頭を空っぽにすること」が大切なのです。
ちなみに、マインドフルネス瞑想では、「今、この瞬間の自分を観察することに集中して、雑念をなくす」というのが基本的な考え方になっています。
もし、何か「考え」が浮かんでしまったら、「今、自分は○○を考えたな……」と、再び「自分への観察」に意識を戻す。それを繰り返すのだそうです。
座禅を組むのは大変でも、「止想」だけなら、いつでもどこでも可能。通勤電車の中で、自分の呼吸に集中するだけでできます。
「止想」という「もっとも簡単に雑念を消す方法」。
イライラしたときや、心配ごとで集中できないときなどにも、心を平静に戻すうえで有効なので、ぜひ、活用してみてください。
(文/西沢泰生)