さて、ここで突然ですがクイズです。“砂漠の天使”と呼ばれる動物といえば、どんな動物でしょうか? このクイズに答えられた方はなかなかの動物好きさんとお見受けします、ぜひ私と語らいましょう! ……そんなことはさておき、このクイズの答えは野生ネコの一種・「スナネコ」です。スナネコは砂漠などの荒れた土地に生息する砂色の毛皮をまとったネコで、その愛らしい見た目から“砂漠の天使”という別名で呼ばれています。
今回の記事では、国内の動物園における飼育数が少しずつ増えていて、認知度も上がっている砂漠の天使・スナネコの“フムフム”に迫っていきましょう!
分類:食肉目ネコ科
生息地:アフリカ北部、西アジア、中央アジアなどの砂漠地帯
大きさ:体長・45~57cm、体重・1.5~3.4kg
スナネコはなぜ砂漠で生きていけるの?
スナネコはネコ科動物の中でも珍しく、 “砂漠での暮らし”に適応した動物です。砂漠は昼が暑くて夜は寒いこと、水や獲物が少ないことなどさまざまな理由から、動物が生きていくためには過酷な環境だと言われています。スナネコが生息するサハラ砂漠の気温は日中の日陰で25℃、日なたでは40℃以上になり、夜は氷点下になることもあるそう。それではスナネコはなぜ、このような過酷な環境でも生きていけるのでしょうか?
実はスナネコの小さな体には、砂漠で生き抜くための工夫や秘密がたくさん隠されているのです。まず彼らは毛が柔らかくて密度が高く、砂漠の風景に溶け込む砂色の毛皮で、夜の凍てつくような寒さや天敵の目から身を守っています。また足の裏にも柔らかく長い毛が生えていて、この毛が砂にめりこんでしまうことを防ぎつつ、砂の熱や夜の寒さから足を守るかんじきや靴のような役割を果たしているのです。
耳の中にも毛が密集して生えていて、砂が入りにくい作りになっています。余談ではありますが、砂漠の生き物として有名なラクダの耳にも、同じような仕組みが備わっています。
さらにスナネコは水を飲まなくても、獲物の血液などに含まれる水分だけで生きていくことができます。とはいえ、まったく水を飲まないというわけではなく、身近に水がある環境であれば、普通に水を飲むそうです。彼らは穴掘りが上手という特技も持っていて、気温が高いときは掘った巣穴の中でじっと休み、涼しくなってから食べ物を探すために動き出します。
スナネコはどのくらいの大きさなの?
スナネコはインドやスリランカに生息する「サビイロネコ」や南アフリカに生息する「クロアシネコ」と並んで、野生ネコの中でも特に体が小さい種類として知られています。ちなみにサビイロネコとクロアシネコは日本の動物園では飼育されていないため、実際に見てみたい方は海外の動物園まで行かなければなりません……!
さて、本題に戻りましょう。スナネコの大きさは体長が45~57cm程度、体重が1.5~3.4kg程度といわれています。とはいえ数字で書かれても、正直どのくらいの大きさなのかよくわからないですよね。
私たちにとって身近な存在である「イエネコ」(ペットとして飼われている猫)の大きさが体長70cm程度、体重はオスで3~6kg、メスで2.5~4.5kg程度とされているので、比べてみるとスナネコがとても小さいネコであることがわかりますね。
スナネコは毒ヘビを食べるって本当?
本当です。スナネコは砂漠という、寒暖差が激しく、水も獲物も十分に手に入らない、とても過酷な環境で暮らしています。そのためスナネコには生きていくために、食べられるものは何でも食べる! という性質があるようです。
野生のスナネコの主食は小型のほ乳類(ネズミやノウサギ)ですが、鳥類や昆虫はもちろん、ときには毒ヘビを含むヘビ類を捕まえて食べることもあるのだとか。ヘビを捕まえるときはまず頭を勢いよく前脚で叩き、反撃されない状態にしてから首にかみついて捕まえるそうです。
スナネコはペットとして飼えるの?
スナネコは現在、兵庫県の「神戸どうぶつ王国」、栃木県の「那須どうぶつ王国」、沖縄県の「ネオパークオキナワ」、埼玉県の「埼玉県こども動物自然公園」の4園のみで飼育されています(2022年12月21日現在)。ところで“砂漠の天使”と呼ばれるほどかわいいスナネコは、自宅でペットとして飼うことはできるのでしょうか?
実はスナネコはとってもかわいい見た目をしているものの、その性質は荒く、臆病で警戒心が強いため人に懐くことはありません。スナネコが人に慣れないことはよく知られていて、動物園生まれの個体でも人間に懐かないのだそうです。
現在の日本の法律において、スナネコは正式な手続きを踏めば輸入し、ペットとして飼育すること自体は可能な動物種となっています。しかし野生動物であるスナネコは“飼おうと思えば飼えるけれど、ペットに向いていない”動物でもあります。それはなぜなのか? 実際にスナネコを飼育している、神戸どうぶつ王国のスナネコの飼育員さんにお話を伺ってみました。
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──神戸どうぶつ王国さんでは「スナネコはペットに向かない」というメッセージを発信していますが、その理由を教えてください
飼育担当者:まずスナネコが食べるものについてお話しします。イエネコはキャットフードを食べますが、スナネコは野生では主にネズミを捕食しているため、当園では鶏肉や馬肉、鹿肉、ヒヨコ、ネズミを与えています。腎不全を防ぐために必要な成分が入っているキャットフードも与えていますが、キャットフードだけではスナネコの体に合ったエサにはならないのです。
施設面のお話をすると、スナネコを健康的に飼育するためには「砂を掘る」行動ができるスペースを確保し、彼らがもともと暮らしている砂漠に近い環境(温度・湿度など)を維持する必要があります。
さらに気性が荒い点もペットに向きません。過去1頭のスナネコを人工哺育で飼育したことがありますが、ある程度大きくなり性成熟が近づくと、人も威嚇するようになりました。もともと飼育動物との適切な距離感を保つことを意識しており、さらに慣らすことを目的として飼育していたわけではありませんが、その様子は本当に人工哺育で育った個体なのかと思うほどのものでした。
また「プライベートでスナネコを飼いたいか?」と聞かれたら、動物園のスナネコの飼育担当者という立場を除外しても「NO」と答えます。とても手に負える種ではありません。
──ありがとうございます。もし読者の方に伝えたいメッセージがありましたら、教えてください。
飼育担当者:動物園は単に動物を飼育し、展示している施設ではありません。動物園には「種の保存」や「環境教育」「調査・研究」「レクリエーション」などの役割があり、「種の保存」という面では他の園館と協力して繁殖を目指し、次世代へつなげていくという重要な役割を担っています。
スナネコのような野生動物については、単に「気性が荒いから飼えない」ということではなく、飼うことによって需要が増え、密輸や密猟が増えるかもしれない。その先には絶滅の危機につながる可能性があるかもしれない……ということも知っていただければうれしいです。
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今回、誰よりも近くでスナネコと接している飼育員さんにお話を伺い、スナネコがペットに向かない理由についての理解が深まったように思います。実際の経験をもとにしたお話はどれも「そうなんだ……!」と思うものばかりでしたが、何より飼育員さんが「プライベートでは飼わない」と断言していることが非常に印象的でした。
また同園では、“ペット需要の増加によって野生個体の乱獲・密猟・密輸が進み、絶滅危惧種になり、野生個体が絶滅してしまうこと”はもちろん、“飼いきれなくなった人がスナネコを捨て、その個体がいわゆる外来種となって日本の生態系に影響を及ぼすこと”も危惧しているとのことでした。
肉食動物であるスナネコは、人を簡単に傷つけられる鋭い犬歯と爪を持っています。さらに砂漠に溶け込むように暮らしているスナネコは野生における目撃例が少なく、詳しい生態がわかっていません。加えて国内の動物園における飼育実績も多くはないため、スナネコに適切な診察・治療ができる獣医師もほぼ存在しないものと考えたほうがいいでしょう。
スナネコのようなかわいらしい動物を見ていると、「一緒に暮らしたい、ペットにしたい!」と思うこともあるかもしれません。しかし野生動物の多くはその生態や特性から、ペットには向かないことが多いのが現状です。スナネコが好きな方は、まず動物園に行って“推しスナネコ”を探し、SNSなどを使ってスナネコへの愛を投稿・発信してみてはいかがでしょうか。
(取材・文/三日月影狼)
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