竹内知咲さん、ますみさんからなる女性お笑いコンビ・天才ピアニストの短期的な夢は「賞レース制覇」、そして長期的な夢は「劇場の看板として、“生で見たい”と思ってもらえる芸人になること」。新ネタを年に72本も披露するというふたりの姿は非常にストイックで、口をそろえて「今は仕事に夢中」と話します。天才ピアニストの今までと現在、そしてこれからの展望に迫りました。
目指すは関西賞レース制覇からの、女性芸人初となる『M-1グランプリ』優勝!
──芸人の賞レースは芸歴制限があることが多いですが、天才ピアニストがチャレンジできる大会はまだたくさんありますね。
竹内知咲さん(以下、竹内):まずは、関西の賞レースを制覇します! 全国区の賞レースでは、芸歴1年目で『M-1グランプリ』3回戦に進めたことが今も大きいですね。
──1年目で!? 芸歴10年以上でも3回戦で敗退する方、たくさんいらっしゃいますよね。
竹内:それ以来M-1は、毎年強い気持ちで前年を超えたいと思ってます。最終的には……。
ますみ:決勝?
竹内:いや、優勝!
ますみ:敗者復活戦もあるで。
竹内:1回寒いところで漫才して(※M-1グランプリの敗者復活戦は屋外で開催)身体を冷やしてから決勝に行く、というね。
『THE W』で決勝に行けなかった悔しさから毎月新ネタ6本を披露するように
──(笑)。おふたりは毎月新ネタライブをしているとか。
ますみ:きっかけは’20年の冬です。『女芸人No.1決定戦 THE W』に出場して、決勝12組には入れませんでしたが、誰かが体調不良になれば繰り上がれるというリザーブ枠になりました。
当日はテレビ局にいてリハーサルも決勝メンバーと同じようにおこなって、待機していたんです。でも体調不良の方はいなかったので「はい、帰っていいよ」って言われ、「準決勝めっちゃウケたのに、今年はいけないんや、決勝……」と悔しくなって。
竹内:マネージャーに「ネタを強くしたい!」と相談して、それまで半年に1回だった単独ライブを’21年1月から毎月に増やしてもらい、毎回新ネタ6本を披露することにしました。ただ、最初は集客がきつかったですね……。
ますみ:今でこそ、だんだんお客さんに来てもらえるようになりましたけど、以前は客席が全体の3分の1以下しか埋まらないときもあったんです。ちょうどその前年にコンビでYouTubeを始めたから、それを知ってくださった方がオンライン配信でライブを見てくださるようになり、配信がそこそこ売れて、なんとか続けることができました。
──それにしても、毎月新ネタ6本って、すごすぎませんか……。そういえば、テレビ番組でビスケットブラザーズの原田泰雅さんが、「天才ピアニストはストイックで楽屋でもずっと仕事をしている」と話しているのを耳にしたことがあります。
ますみ:楽屋では打ち合わせをしてたり、自分たちのコンテンツを撮ったり……。
竹内:全部の時間を仕事に使ってますね。ただ劇場のライブで他の芸人の話をするコーナーになったとき、相方のエピソードしか知らないから何も出てこなくて「’23年は仕事だけじゃなく、交友関係も広げていこう」って、ますみと話し合いました。
ますみ:そうそう。このままじゃヤバいよな、ほんまに(笑)。
ふたりとも積極性のある子どもだった。ますみさんの近所にはテルマ&加護ちゃん
──おふたりが努力家なのは昔からですか?
竹内:子どものころは、例えば靴下を自分で履きたいのに履かせられたら靴下ごと投げ飛ばすような、頑固で運動好きな子どもでした。お笑いは見るのが好きで、自分でしようとは思ったことがなかったですね。
ますみ:私は食べることと、近所のおばちゃんたちとしゃべるのが好きでしたね。親から「これをやりなさい」って言われて何かを始めたことは一度もなくて、習い事などは全部、自分から「やりたい」と言ったものをさせてもらってました。
──おふたりとも自立心が強かったのですね。ますみさんは近所に青山テルマさんと、モーニング娘。元メンバーの加護亜依さんがいたとか。
ますみ:習字教室の先生がテルマちゃんのおばあさんだったんですけど、
理科教師と看護師、安定した職業を経て芸人の道へ。両親の反応は?
──芸人になるまでは、ふたりとも他の仕事を?
竹内:はい。私は理科の教師をしていて、授業を盛り上げるためにしゃべるのがうまくなりたくて、NSC(吉本総合芸能学院。タレント養成所)に入ったんです。卒業したら教師に戻ろうと考えていたんですけど、そんなに本腰入れて「教師で一生食べていこう」って気持ちはなかったし、NSCの授業が楽しかったので、在学中に芸人になろうと決めました。
ますみ:私は子どものときからお笑いが好きすぎて、中高生のときは「自分もなれるんちゃうか」と変な自信があったんですけど、なかなか親に言い出せなくて。もうひとつの夢だった看護師になりました。小さいころ身体が弱くて、看護師さんに優しくしてもらったのがうれしかったんです。
資格を取って看護師として6年働いていて、それなりに仕事もできたので「主任になりませんか」と言われていたころ、ふと「もうすぐ28歳になるな。30歳になったら、芸人とかもう挑戦せえへんやろな」と思ったんです。すぐにNSCのことを調べて願書を取り寄せて……って感じでした。
──NSCに入ると言ったときの、ご両親の反応は?
ますみ:父親は「さすがやな! 応援するわ!」って。
竹内:珍しいっすよね……娘が芸人になるなんて、先も見えへんし親からしたら地獄ですよ。
ますみ:でもお母さんは看護師の娘が誇りで、このまま出世して結婚して……って思ってたみたいで落ち込んでました。でも、「すぐまた看護師になるやろ、頑張っといで」って。
竹内:うちは「嘘やろ!?」って感じでしたけど、教員免許があるから戻ってこられるというのもあって、「まだNSCは仕事じゃなくて学校だしね」という感じでしたね。
──どちらも資格を持っていたことも大きかったんですね。ますみさんは看護師をしながら芸人活動をしていた時期もあったとか。
ますみ:週2、3回、グループホームや健康診断で看護師をしていました。ただ、代わりのきかない仕事だったので芸人としての活動が増えてくると週1回に変えて、最終的には直前にシフトが決まるファストフード店でアルバイトをしました。
「最初は遊び感覚でコンビを組んだ」ふたりが今や、全国にファンを持つ存在に
──おふたりがコンビを結成したきっかけは?
竹内:NSCの在学中です。最初は他の人とコンビを組んで解散して……を繰り返していて、同期のますみとはしゃべったり飲んだりするけど、コンビを組む話はしたことがなかったですね。ますみが前のコンビを解散後、一度ピンネタをやってたときに「この人、ボケもできるんや」と思ったのが始まりです。
ますみ:最初は遊び感覚でしたね。また解散するなら、それもそれで仕方ないと思っていたけど、このふたりでここまで来ました。
──今や人気お笑いコンビとして活躍するようになり、ご両親の反応は変わりましたか?
竹内:実家のある京都から配信でネタなどを見て、応援してくれてるみたいです。
ますみ:うちのお母さんはスーパー銭湯に行っても服を買いに行っても「うちの娘、芸人で」「それはそうと娘が芸人やっててね」と、知らない人にしゃべるくらい喜んでくれてますね。私たちのライブに来るときも、天才ピアニストのバッジを鞄につけたり、キーホルダーを携帯に3つくらいつけたりしてます。
──それはもうファンですね! 単独ライブのお客さんにはどのような方がいますか?
竹内:30代以上の方が多いです。多忙なはずなのに「単独ライブのために仕事を頑張ってきました」と毎月、東京から関西に来てくださる方もいて、すごくありがたいです。
ますみ:10代・20代のお客さんが中心のよしもと漫才劇場のファンとは違う方が、単独ライブに来てくださっている印象です。20歳前後ならまだ学生さんもいらっしゃるし、自由に動ける方が多いだろうけど、それより上の世代の方まで来てくださるのは本当にすごいことです……私たちのお客さんは、年齢にかかわらずアクティブな方が多い気がします。
お客さんを笑わせ続ける“劇場の看板”になりたい。年に1度の全国ツアーも
──東京進出は考えていますか?
竹内:関西で出られる賞レースがあるので、まずはそれに全力投球したいです。
ますみ:今は大阪にいてこそチャレンジできる仕事を頑張ります。
──長期的な目標は?
竹内:短期的な目標は賞レース優勝で、長期的な目標は、やっぱり舞台で自分たちが作ったものを見てもらうのが好きなので、それを続けることです。「生で見たい」と思ってお客さんが劇場に来てくれるような芸人でいたい。劇場の看板を目指したいですね。
ますみ:ただ知名度はね、やっぱりテレビとかに出ないと。
竹内:それもあるし、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)を見て育ったので、映像でしかできない笑いにも憧れていますね。賞レースをやり切ったあとは、そういうネタも作ってみたいです。
ますみ:目標はほとんど竹内さんと一緒です。あと今は、よしもと漫才劇場で単独ライブをするのがメインなんですけど、年に1回は全国ツアーをして、泊まりでおいしいものを食べたいです。
竹内:漫才やコントをしながらその土地を楽しむって、めっちゃいい生活! それも目指したいです。
(取材・文/若林理央)
【INFORMATION】
天才ピアニストなんばグランド花月初単独ライブ「華やぎ御前」
2023.5.28.Sun@なんばグランド花月
開演19:30 配信2000円
※販売は5/30 12:00まで、見逃し視聴は5/30 19:30まで
【PROFILE】
天才ピアニスト ◎竹内知咲とますみによる女性お笑いコンビ。2016年にコンビを結成し、漫才のほかコントやモノマネも得意とする。2022年、『NHK上方漫才コンテスト』で優勝、デビュー6年にして賞レースで初タイトルを獲得した。同年、『女芸人No.1決定戦 THE W』でも優勝を果たし、その名を全国にとどろかせた。2023年には第8回『上方漫才協会大賞』を受賞し、今なお快進撃を続けている。
◎ますみさんTwitter→@smzmsm
◎公式YouTubeチャンネル『メゾン・ド・ラブ』→https://www.youtube.com/channel/UCS9TpP7vSsk3ka0muNgl05w