スマートフォンの登場により、2012年から勢いを増してきたソーシャルゲームやモバイルゲーム市場(以下、アプリゲーム市場)。日本では初期から『パズル&ドラゴンズ』(ガンホー)、『モンスターストライク』(mixi)など、多数の大ヒットコンテンツを生み出してきましたが、ここ数年はトップセールスランキング上位に『原神』(mihoyo)、『勝利の女神:NIKKE』(テンセント)、『アークナイツ』(Yostar)といった中国企業のビッグコンテンツが並ぶようになっています。
そんな現代において、日本のアプリゲーム市場はどうなっているのでしょうか。『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP研究所/2012)の著者であるエンタメ社会学者、中山淳雄さんにお話を伺いました。日本市場の頭打ちや中国市場の急成長を取り上げ、日本アプリゲームの「現状」について探っていきます。
中国が急成長するアプリゲーム市場、日本は頭打ちに
──まずアプリゲーム市場は現在、伸びているのでしょうか? それとも衰退しているのでしょうか?
「世界市場は毎年伸びて現在約9兆円ですが、日本市場は2018年から頭打ちになってきています。ここ数年で特に中国市場が一気に伸び、2015年の1兆円から4.5兆円規模に。米国も中国に追随する形で伸びています。
2016〜2018年は、小さい規模ながら韓国市場も伸びました。日本市場が頭打ちになって苦しい状況の中、さらに外資の圧力が強まって苦しさが加速している。けれども、日本市場もまだ1.5兆円はあるので、ほかの(ゲーム業界以外の)市場からしたら羨ましいと思われるみたいです」
──なぜ日本のアプリゲーム市場は頭打ちになってしまったのでしょう。
「スマートフォンコンテンツの中で“ゲームで遊ぶ”ことの優先順位が下がっているんです。スマホビジネスの市場が2011〜2012年くらいから伸びてきたものの、当時は動画や音楽関連のサービスが微妙だったので、モバイルコンテンツに投じるお金の8割はゲーム課金でした。
そんなゲーム最強の時代から、今は動画配信サービス、音楽ストリーミングサービス、SNSなどにユーザーがお金を投じるようになった。ゲームに投じる割合が今は6〜7割まで落ち、そこにテンセント、mihoyoといった外資の圧力が重なった結果、“冬の時代”とまでは言わないにしても、木枯らしが吹く“秋の時代”という印象がありますね」
──日本企業のアプリゲームのリリース本数も縮小傾向にあるんですか?
「この3年くらいはすごく減りましたが、2017年くらいまではかなりのタイトル数がリリースされていました。2週間に1本くらいはどこかの大手が大型タイトルをリリースしていたものの、今は数か月に1本くらいになりました。
10年前のゲームは開発費2億でしたが、5年前には5~10億、最近は10~20億円が当たり前の世界になっています。そうすると1000人規模の大きい会社でも年に1〜2本のリリースにとどまり、2〜3億円で勝負していた小さい会社はそもそも開発すらままならなくなった。開発費が重くなっている中、お金のある中国企業がどんどんリリースしていくから、より日本企業のアプリゲーム本数が絞られています」
5年以上かけて作ったゲームが、50人にしか遊ばれない現実
──リリースできたとしても、早々にサービス終了してしまうアプリゲームも多くありますよね。
「運営期間が5年以上のアプリゲームは約3.6%しかなく、ここ3年で平均運営期間が2.6年→2.4年→2.3年と徐々に短くなっています。開発費だけでなく、運営には人件費もかかります。1人当たりの人件費を月100万円と考えると、100人いれば1か月で1億円、1年稼働させると12億円かかり、さらにプロモーションコストもかかります。売上がほぼない場合もあるため、サ終(サービス終了)できたら逆にひと安心という状態になります」
──企業がサービス終了を決める際は、やはり課金額が基準になるんですか?
「いえ、ユーザーの継続率です。ユーザーが毎日続けていれば、何かのきっかけで課金してくれる可能性があるからです。課金額が高いに越したことはありませんが、継続してくれる人たちの課金率が何%なのかを調べ、課金するだけの価値をどう提供するかが重要になります。
そして売上の大半を支えるのは少額じゃなく、月1万円以上払うような課金者なんですよね。“上位2割の顧客が売上の8割を……”じゃないですが、彼らが継続するくらい満足するゲームでなければ赤字がどんどん膨らみ続けます。そういうゲームはユーザーも最初の時点で認識しているんですよね。”成立しているギルドがこれだけ少ないなら、MAU(※)は1万もいってない。だったら早めにサービス終了するだろう”と考え、課金をやめてしまうこともあります」
※MAU:Monthly Active Usersの略語。月あたりのアクティブユーザー数を意味する。
──最初は売上が振るわなくても、“続ける”という判断はされないんですか?
「ユーザーのことを考え、“黒字にも赤字にもならないけどいったん続ける”という判断はあります。ただ、最初に赤字だったゲームが黒字になったパターンは10本に1本もなく、ほとんどはリリース時点で見切りをつけられます。
映画でも、最初の興行収入が足りないからと言って、“これは館数が足りないからだ!”といって、上映数を50館から1000館に増やそうとは思わないですよね。それと似た構造がアプリゲームにもあります」
──なるほど……。アプリゲーム開発者の方からすると、家庭用ゲームと違い手元に作品が残らないということに思うところはありそうですね。
「そうですね。知り合いの開発者からも聞きますが、5年以上かけて結局リリースできなかったり、せっかく作ったゲームが50人にしか遊ばれていないというデータを目の当たりにしたとき“いったい何のために……”という虚しさはあるそうです。せっかく作って何も残らないとなると、クリエーターにとっても救いがありません。
ただその点、家庭用ゲーム(※)には救いがあります。売上本数10万本を狙って1万本しか売れなかったとしても赤字ですが、自身が作ったゲームは手元に残ります。完全に無駄ではないんですよね」
※家庭用ゲーム: Nintendo Switch(任天堂株式会社)、Play Station(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、Xbox(Microsoft)など、「専用のゲーム機」で遊べるゲーム全般。
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次の章では、“家庭用ゲーム”の復活劇と、日本アプリゲームの未来を読み解く
【後編:“冬の時代”を乗り越えた家庭用ゲーム。『ウマ娘』に続く、日本アプリゲームの生存戦略は】(4月3日18時公開)
(取材・文/阿部裕華、編集/FM中西)