2022年、お笑い界の頂点を決める賞レース「M-1グランプリ」のファイナリストになったキュウ。観客にたっぷりと独特のやりとりを聴かせたあと、あるタイミングでそれを大きな笑いに変えるという独特な漫才をする、清水誠さん(39)とぴろさん(36)からなるコンビです。インタビュー第1弾では、おふたりの半生をお聞きしました。今回の第2弾では、M-1で初めて決勝に進出したときの気持ちや、仲のよいコンビ・ダイヤモンドとのエピソード、憧れている芸人さんなどについて聞きました。
「今年はM-1決勝に行ける!」思わず出た、結果発表前のガッツポーズ
──’20年、M-1グランプリで初めて準決勝に進出されるまで恥ずかしながらキュウさんを知らず、その漫才を見たとき「掛け合いの心地よさが最後にこんなに笑いになる漫才があるなんて」とファンになってしまいました。
清水:『ゴリラであいうえお作文』というネタをさせてもらったときですね。今まで長い道のりを経ての準決勝進出だったので、めちゃくちゃうれしかったですね。
ぴろ:その年、準決勝に進むだいぶ前かな。お笑いコンビはふたりだけで飲みに行くことはあまりないのが普通なんですが、清水さんを誘って、今後どうするかの話し合いも兼ねて決起集会をしたのを覚えています。お互い肩の力を抜いて酒を飲みながら、気分を変えてネタ合わせやネタ作りをしました。準決勝に進んだときは、ひとつ階段を上がった実感がありました。
──止まることなく階段を上がり続け、’21年も準決勝に進出、そして直近の’22年ではM-1ファイナリストに。準々決勝でネタを終えて舞台を去るとき、ぴろさんがガッツポーズをしているのをオンライン配信で見たのですが、次に進む確信があったのですか?
ぴろ:はい。漫才中にどっと沸いて「いけそうだな」と感じました。
清水:次の準決勝も大ウケして「今年はいけたー!」って力が湧いてきました。実はぴろ、準々決勝だけじゃなくて、準決勝のあともガッツポーズをしてたんですよ。周りにカメラがなかったから映像は残ってないんですけど。
──もったいない!
ぴろ:ですよね。周囲を見て密着中のカメラを探したんですけどね(笑)。
清水:たぶん袖に近い客席からちょっと見えたくらいかな。
ぴろ:あの準決勝ネタ終わりのガッツポーズ、自分でももう1回見たいわ。すごくウケたから準決勝が終わった瞬間、結果がわかったんです。今年はM-1でファイナリストになれると。だから決勝進出者の発表で名前を呼ばれたときよりも大きなガッツポーズをしてましたね。
──清水さんも同じ気持ちでしたか?
清水:準決勝はネタが終わったら舞台の後ろをぐるっと回って楽屋に戻るんですけど、その間、ふたりで「行ったなー」「よっしゃ!」って話してました。
ぴろ:楽屋に戻ったとき、ウルッとしました。
太田光からの励ましが力に。ウエストランドの井口浩之は舞台上の“救世主”!?
──M-1は準決勝に何回も進んでも、なかなかファイナリストにはなれない厳しい世界ですよね……。事務所の先輩である爆笑問題さんからは、どんなお言葉がありましたか?
ぴろ:太田さんが「よかったなー!」って言ってくださいました。
清水:太田さんもお笑い芸人ですし、決勝まで近くにいた、密着のカメラの前ではおふざけになられていたと思います。ただ、決勝のリハーサルで会ったとき、「思い切ってやってこいよ!」と励ましていただきました。
──決勝ファーストラウンドの最終2組が同じ事務所(タイタン)のキュウとウエストランドで、その後の最終決戦でM-1王者がウエストランドさんに決まったとき、ぴろさんが優勝を祝って井口さんの背中を叩いていたのが見えて、ドラマを感じました。
ぴろ:タイタン所属前から(河本)太さんがライブでキュウの名前を出してくれたりもしていて、ウエストランドさんとは付き合いが長いんです。
清水:ウエストランドは異なるタイプの芸風だし、数ある芸人仲間のうちの1組って感じです。ただ、同じ事務所なので一緒にライブに行くことが多くて楽しいですね。同じ舞台上で話しているときは、どんな雰囲気になっても井口さんがなんとかしてくれるし。
ダイヤモンド、カナメストーン、とろサーモン。事務所の垣根を超えた仲間たち
──芸人仲間で仲がいいのは?
清水:ふたりとも仲がいいのはダイヤモンド(吉本興業)とカナメストーン(マセキ芸能社)かな。
ぴろ:ダイヤモンドの野澤(輸出)とは、たまに飲みながら使えそうなネタの話とか、お互い「いいね」って感じたネタの大喜利を考えていますね。M-1ファイナリストやセミファイナリストが全国を回って舞台で漫才をする『M-1ツアースペシャル』というイベントがあるんですが、野澤と新幹線で隣になったときがあって。そのときも新しいメモを出して、話を広げていきました。そういうのを一緒にするのがすごく面白いです。
あと、おれはとろサーモン(吉本興業)の久保田さんに可愛がっていただいていて、よく飲みに連れて行ってもらいながらお笑いの先輩として刺激を受けています。
──キュウと同じくダイヤモンドも’22年がM-1決勝初出場でしたが、発表されたとき、どんなお気持ちでしたか?
ぴろ:おれは笑っちゃいました。
清水:こういうことあるんだと驚きました。M-1って“正統派枠”とか“シュール枠”があるって言われていたけど、枠なんてないじゃんって思ったよね。
ぴろ:枠なんてないとは思っていたけど、こんなにないんだって(笑)。
清水:特に、’22年のM-1は王道の漫才師がいなかった。
ぴろ:まあね。
清水:準優勝したさや香が王道だ、正統派だって話題になりましたけど、おれは「そうかな?」って思ってます。さや香も個性豊かなコンビですし。
オズワルドは「意識し合う存在」、カベポスターとは芸風が近い……?
──聴かせる漫才という意味で、そういう枠があるとしたらオズワルドやカベポスター(どちらも吉本興業)の芸風がキュウに近いのかなと、素人の私は思っていました。
ぴろ:オズワルドはテンポとか地味さ加減も近い気がして、M-1のライバルを聞かれたときに「オズワルドです」って言ったことがありますね。M-1が絡むと、お互いちょっと意識し合っています。
清水:そうね。ただ、カベポスターは全然違うなあ。
ぴろ:キュウはツッコミ不在ですけど、カベポスターの浜ちゃん(浜田順平)は、思い切りツッコんじゃってるからなあ。でも、空気感が近いからカベポスターとキュウは同じカテゴリーだと思う気持ちもわかるし、実際にそう言う人は多いです。
カベポスターの永見(大吾)がキュウをリスペクトしてくれていて、うれしいんですけど、キュウにはキュウの、カベポスターにはカベポスターのすごいところがあると思っています。
清水:前はダイヤモンドもライバルだと思ってたんですけど、だんだんと芸風が変わって、そうじゃなくなりましたね。
さらば青春の光のように、現場ごとにスイッチを変えて個性を出したい
──憧れの芸人さんは誰ですか?
ぴろ:さらば青春の光さんです。コント師のイメージが強いおふたりですけど、おれは漫才のネタがずっと好きですね。タレント力が高くてしゃべりも面白い方で、漫才のネタも個性的な芸人って少ないんですよ。森田(哲矢)さんの才能をフル活用して活躍して、しかも自分たちで事務所を作って、森田さんは社長にもなっている。
清水:何でもできるすごいコンビだよなあ。森田さん、「キュウは絶対にM-1決勝に行く」って言ってくれてたんです。
ぴろ:うれしかったですね。彼らは漫才は漫才、テレビはテレビとスイッチを変えて、自分の個性を発揮できる。「おれもそんな芸人になれたらな」と、さらば青春の光さんを見ていて思いますね。
──キュウの過去の単独公演を配信のサブスクで見ていると、長い時間の漫才もすごく面白くてハマりました。M-1用のネタ作りでは長い漫才を考えてから、4分間に縮めているのですか?
清水:ネタ作り担当はぴろで、ずっと前は長い漫才を4分に縮めてM-1に出てましたけど、今は違いますね。
ぴろ:長時間のネタを縮めるのはすごく難しいんです。今は勝負用のネタは最初から3、4分になるように作ってます。ただ、長い漫才も面白いって言ってもらえるのはありがたいですね。
清水:ファンの方には本当に感謝してます。まだキュウのことを知らない方も、配信サブスクで見られる単独公演にはM-1用じゃない漫才も収録されているので、楽しんでほしいです!
(取材・文/若林理央)
【PROFILE】
キュウ ◎清水誠とぴろからなる、2013年5月に結成したお笑いコンビ。ステージでは日常においてはありえない会話を繰り広げ、独創的な空間を作り出す。ゆったりとしたテンポで繰り出される不条理かつ不可解とも思われる漫才は、ボケやツッコミという概念を崩して新たな境地に達している。’15年より「めっちゃええやん!」というフレーズを推した漫才も行う。「M-1グランプリ2022」では決勝進出も果たし、着々と活躍の場を広げている。’21年6月より、キュウの実験的サロン「研Q室」もスタート。