グルメ・スイーツの専門家としてさまざまなメディアで情報を発信している、フードジャーナリストの里井真由美さん。1級フードアナリストのほか、食に関する資格を15種類以上保有している勉強家でもあり、ホテルやデパ地下グルメスイーツ、お取り寄せ品にも精通しています。そんな里井さんは、あらゆる食の中でも、「栗」が大好き! 知識・経験を生かし、モンブランの人気の変遷や、この時期だからこそ食べたい栗スイーツの魅力をたっぷり語っていただきました。
モンブランに驚嘆し“栗フェチ”に。食べることを仕事にすべく、次々と資格を取得
──フードジャーナリスト・フードアナリストの肩書きであらゆる食の情報を発信してきた里井さんですが、テレビ番組『マツコの知らない世界』(TBS系)出演後、“栗スイーツマニア”として世間に認知されるようになりましたね。その原点はどこにあるんですか?
「幼少期から、とにかく食べることが好きだったんです。京都出身の母が、京都の食材にこだわって作るお料理を食べて育ってきたこともあるかもしれません。“京都の栗は特別においしい”という印象が、幼少時からすでに焼きつけられてしまったんですね。素朴な蒸し栗、焼き栗の魅力はもちろん、小学生になると、栗きんとんやモンブランに衝撃を受けました。最初にケーキ屋さんでモンブランに出合ったとき、“栗がこんなに可愛くておしゃれになるんだ!”と驚きでいっぱいになり、栗を追求し始めたんです。
高校生のころから芸能活動をしていていたのですが、ちょうどグルメ番組の全盛期。おいしいものを伝える仕事をする機会が、頻繁にありました。そして、高校を卒業して関西から東京に出てきたのが、スイーツブームの兆しが見えてきたころだったんです。今ほどSNSが発達していない中で、ブログなどを通して発信をしていましたが、のちにFacebook 、Instagramが普及し、あっという間に栗スイーツを広める道が開けたという感じでした」
──筋金入りの栗フェチなんですね。フードアナリスト1級の資格を取ろうと思われたのも、栗がきっかけなのですか。
「子どものころから両親に、“好きなことを仕事にしなさい”と言われ続けていました。栗に限らず、食べることを仕事にするには何があるだろう、と考えたとき、とりあえず管理栄養士や調理師の免許を取ろうと思い、食を多方面から勉強し始めました。今は、食関係の資格を15種類ぐらい持っています。
フードアナリストは日本で唯一、食べることを仕事にできる資格だと思っていたので、“1級まで取っておけば、なにかと説得力があるのではないか”と思って目指しました。世の中で発酵が脚光を浴びてきたころには、発酵マイスターの資格も取りましたし、次々と新しい食の資格を取るため、勉強にのめり込んでいました。勉強というより、食に関する情報を得ることが楽しかったんです。
仕事としては、最初はセオリーどおりに調理師免許を取って、料理教室を開いたり、おもてなしレッスンをやってみたり、雑誌にレシピ連載をしたりして、食にまつわるあらゆる企画や開発にも携わっていたのですが、次第に食べ手として発信していくことが多くなりました。そのなかで、徐々にスイーツに、中でも栗に特化していきました。ちょうど食育や食を科学的に学ぼうという世の中の潮流もあり、業界全体が伸びていたころ。食べ手のプロとして情報を分析し発信する仕事が、時代に合っていたのだと思うんです。
今は、フードアナリストの資格を後世に継ぐために、講師として指導をしています。また、農林水産省の委員として国産の砂糖を応援していて、スイーツを贈りましょう、というプロモーションをしています。毎日フレンチは大変だけど、スイーツだったら買えるという人も多いんですよね。ちょっと頑張れば、自分のごほうび的に続けられますし」
モンブランの進化の過程は? 今ではできたて・絞りたての商品に注目集まる
──モンブランは昔から人気ですが、今の栗ブームに至るまで歴史がありますね。
「私が子どものころは、お菓子の栗といえば、黒い蒸し栗を見慣れていたので、モンブランを初めて見たときは衝撃だったんです。当時はまだ、ショートケーキみたいな長方形のケーキしかないころでしたから。
黄色いモンブランの“発祥の地”的な存在の老舗ケーキ屋さんが、1933年創業の『自由が丘モンブラン』です。今なお変わらない、誰もが知る“これぞモンブラン!”ですね。土台にカステラを置き、栗の甘露煮を使用。黄色いマロンペーストは和菓子を作る道具である『小田巻(おだまき)』を使ってふんわりと盛り上げ、大人気になりました。また、’50年ごろには、『東京會舘』の初代製菓長・勝目清鷹さんが、真っ白な生クリームの山の中に栗を潜ませた“マロンシャンテリー”を考案し、その美しさはスイーツ好きの憧れの的になりました」
──その後、モンブラン人気が加速、行列のできるモンブラン屋が次々と登場しますね。
「’84年、銀座にできた百貨店『プランタン』にパリ発のカフェ『サロン・ド・テ・アンジェリーナ』ができて、爆発的な人気となりました。カリカリに焼いたメレンゲの上にクリームを絞り、シロップに漬けたマロングラッセをペースト状にしたものをかけたため、素材のままの茶色っぽい栗色をしています。この“茶色のモンブラン”というのがまた、おしゃれに見えたんです。
『自由が丘モンブラン』に『東京會舘』の“マロンシャンテリー”、『サロン・ド・テ・アンジェリーナ』は、モンブランの歴史を語るうえでははずせません。“元祖御三家”とも呼ばれています。今も変わらず愛されていて、モンブラン人気を物語っています。
その後、スイーツバブルが来て、ホテルニューオータニの『パティスリーSATSUKI』の“スーパーモンブラン”の出現で、モンブランの新時代が到来。このモンブラン、驚愕のサイズ感と、何層にも重なる凝った中身が話題をさらいました。4000円近くする高額スイーツですが、それでも入手困難で人気が衰えません」
──最近は、注文を受けてから栗ペーストを絞るタイプのモンブランが大人気となっていますね。
「“絞りたて”がSNS映えすることもあってか、各店で始めると早朝から行列に。先駆けとなったのは、2011年のオープン時から、店内でしか食べることのできないモンブランを提供していた東京・谷中の『和栗や』。茨城・笠間に約5ヘクタールの自社農園を保有し、栗菓子やモンブランに適した栗のみを、オーナーが自ら栽培しているんです。『和栗や』の人気上昇とともに和栗の文化が浸透し始め、今では和栗が栗スイーツ界を席巻しています。
また、長野にある老舗『小布施堂』は’14年、『栗の点心 朱雀』を発表。採れたての新栗を蒸して裏ごししたものを、砂糖も何も加えずに、そのまま栗あんの上にふわりと盛ります。注文してから作るのですが、これがとても風味豊かで、さすが伝統を感じさせます。畑から新栗が届く1か月間、小布施堂本店・本宅のみで味わえる一品で、朝早くから行列ができ、整理券を出していたほど。コロナ禍ではネット予約になり、チケットを買って楽しむエンターテイメントとなっています。
さらには’16年、京都にある『マールブランシュ』で、自分のテーブルの真横でモンブランを作り上げてくれるサービス“モンブラン・オートクチュール”が爆発的な人気となりました。
そして、京都の『和栗専門 紗織』が考案した“錦糸モンブラン”が、栗スイーツ界に衝撃を与えました。看板メニューの『紗』は、国産栗のなかでも1%しか取れない、極上の京都産丹波くりを使用。そのマロンペーストが、特製の絞り機によって極細1ミリの錦糸状態で織り重ねられ、上からシャワーのように落ちてくる動画がSNSで拡散され、話題をさらいました。ビジュアル的に今ひとつ地味だったモンブランを華やかに見せ、シズル感を出してくれたんですね」
──絞るモンブラン、お味はいかがですか?
「やはり、“絞りたてがいちばんおいしい”ということを、消費者も作り手側も納得するようになったんだと思うんです。ケーキ屋さんで買う場合は、ある程度時間がたってもおいしいということが当たり前だったのに、“賞味期限30分以内”の商品を受け入れるようになったのがここ数年。今ではシュークリームも、注文が入ってから中にクリームを詰めたりとか、モンブランも注文を受けてすぐに栗ペーストを絞ったりするパティスリーが多くなりました。
ショーケースに並んだモンブランに、注文後に栗ペーストを絞る形態で有名になったのが、東京の洋菓子店『ラ・プレシューズ』です。材料は栗と無糖生クリーム、メレンゲのみ。余計なものは一切使っていません。毎年いちばんおいしい栗と、その時々に厳選した栗を使っていますので、栗の種類はさまざまです。このモンブランを食べられるのは9月~2月のみ。今、またブームになっているんですよね」
──味はどれも定評あるようですが、モンブランは、“映え化”も進んでいますね。
「“唯一無二”がキーワードですね。東京・谷中の『パティシエ ショコラティエ イナムラショウゾウ』の『羽衣モンブラン』も、“幻のモンブラン”と呼ばれていて、年に10日間ほどしか売り出されず、事前予約するか、早朝から並んで限定販売分を手に入れるしかないという希少価値。ガーゼの羽衣にふんわり包まれた美しいモンブランなのですが、甘さを抑えた和栗のペーストに、濃厚な甘めのクレームシャンティーとジューシーに煮た渋皮煮で、和栗の風味が100%生かされています。
『マツコの知らない世界』で反響が高かったのは、秋冬ではなく春夏のモンブランや、“変形モンブラン”。今は、四角のモンブランや、いちごや抹茶のモンブランなど、色も形も季節感も千差万別。モンブラン以外の栗スイーツもどんどん新作が登場しており、和も洋も長いあいだ、栗ブームが続いています」
年に約7000種類を食べ歩いて研究。現在は自身のブランド栗のプロデュースも
──これだけ新作ラッシュの今、どうやっておいしいモンブランを探すんですか。
「それはもう、長年の蓄積があって、横のつながりで情報交換しています。面白いことに、栗スイーツマニアは、究極の入手困難品のグループ、新商品のグループ、ホテルスイーツのグループなど、層が分かれているんです。お店やパティシエさんからもお知らせをいただきますが、なんといっても自らお店に足を運ぶことがいちばん大事。毎日探し歩いていて、地方を含め年間約7000種類は食べており、多くはInstagramを中心に公開しています。アフタヌーンティーに出てくる小さなアイテムもカウントしているので“種”と呼んでいるのですが、1日平均20種ぐらいは食べている勘定です」
──栗好きが高じて、ご自身のブランド『さとい栗』をプロデュースされるまでになったとのこと。いきさつについて教えてください。
「さとい栗は、日本一の生産量を誇る茨城県産の栗が中心で、“SDGsな栗”です。SDGsと謳(うた)っている理由は2つ。ひとつは、地方創成の仕事をしている茨城で、廃校になった中学校の校舎をリノベーションして栗の加工場も作ろうというプロジェクトのもと、さとい栗が誕生したからです。加工場が稼働したのは実質今年からで、収穫量はイガの状態で6トン。植樹した苗もあり、実ってくるのはまだまだ先です。品種そのものはいろいろなんですが、栗農園さんと契約し、育てています。
もうひとつは、“余すことなく使っているから”です。例えば、通常、栗の渋皮は廃棄しがちですが、煮立たせて出た濃い色を染物(ランチョンマットやエプロン、コースターなど)に使ったり、加工する際に出る渋皮のエキスを、フランスの紅茶ブランド『Janat.(ジャンナッツ)』で、『シマロンドールSATOIKURI』として紅茶に使っています。
また、さとい栗は、収穫した栗を有糖と無糖とペースト状に加工して商品化しています。パウチになっていて、自分で好きなように使えるんです。例えば、パティシエさんだったら無糖100%のペースト、おこわ屋さんやお惣菜屋さんは剥(む)き栗など、さまざまな方に使っていただいています」
*『和栗や』の栗のアフタヌーンティー『和栗づくし〜三段重〜』
プレミアムモンブラン『HITOMALU』、モンブランソフト、『厳選茎ほうじ茶』はおかわり自由という大盤振る舞い。この店大人気の栗スイーツすべてを少しずつ詰めて三段重にしています。この時期は特別に、希少価値の高い品種「人丸」の絞りたてを出しており、ひとつひとつ丁寧に手作りされている和洋折衷の栗スイーツが楽しめます。
*『トシ ヨロイヅカ』の『胡桃だれ笠間モンブラン』
桐箱風の正方形に入った和風のもので、土台はチョコがけされたメレンゲ、無糖の生クリームと栗クリーム、刻まれた“とある果実”が入り、松の実がトッピングされ、胡桃だれが別添されており、シェフのこだわりがぎっしり詰まったモンブランです。鎧塚俊彦シェフが「さとい栗」のプロジェクトに感銘して、それを使った栗スイーツを開発してくださいました。“とある果実”とは梅のこと。通常は廃棄されてしまう梅酒用の梅が細かく刻まれて入っていて、これが実においしく、アクセントになっているので、ぜひ召し上がってください。
*『やまり』の『六代目栗蒸しようかん』
6代目が厳選した茨城県産の栗を贅沢に使い、最高級吉野本葛、栗蜜、自家製餡で仕上げた逸品です。余計なものを一切加えず、栗を知り尽くしたプロが育て、手作業で皮をむいた栗本来の香りと甘みかある大粒の栗。生栗本来のおいしさを引き立たせるために、独自の製法でつくられた餡と吉野本葛をほどよく調節し、手で優しく混ぜ合わせて仕上げていきます。ひと口頬張ると、栗の香りと程よい甘み、なめらかに溶けてゆくような心地よい餡の食感が得られる、寒天と小豆と砂糖だけで作った素材が生きたようかんです。
*岐阜・中津川の『栗きんとん詰め合わせセット』
岐阜の中津川にある和菓子店たち自慢の栗きんとん14種とお茶がセットになった詰め合わせで、各店こだわりの味を食べ比べできます。実は、中津川市・恵那市を中心とした岐阜県東濃地方が、栗きんとん「発祥の地」なんです。栗きんとんの形状には2種類あります。おせち料理で見かける、栗に甘いあんを和えて栗の形を残している「栗金団」と栗をしっかり裏ごしして成形した「栗金飩」。「元祖」と呼ばれるのは、後者の「栗金飩」です。東濃地方の山間部では昔から恵那栗が収穫され、加工しても日持ちがするようにアレンジした和菓子が「栗きんとんの始まり」と考えられています。この商品は旅行の誘致に使うツールとして作られたのですが、期間限定でオンラインでも買えるようになっています。
*『Masahiko Ozumi Paris』の『ZABUTONモンブラン』
衝撃のビジュアルで、旋風を巻き起こしています。パリの本格的な味わいと独創的なデザインのケーキを展開する小住匡彦さんの大阪にあるパティスリー。栗と赤ワインという、今までありそうでなかった組み合わせで、ボルドーの赤ワインとラズベリーの酸味にチョコレートの甘さが効いています。アクセントを出すためにクランチも入って、食感も面白い。日本の栗の中で、どっしり大きく希少な「銀寄」を、丹波の銀寄農家さんと専属で契約して使われているそうです。
*『和栗白露』の『榛摺|はりずり』
金沢に誕生した 和栗専門店からのお取り寄せ。看板メニューの『榛摺|はりずり』がイチオシ! 「能登熟成焼栗」のモンブランで、ほかにはない香ばしさと栗本来の甘さが味わえます。モンブランには全国的に知られる「松尾栗園」の栗が使われており、自然に落ちた栗だけを熟成させ、しっかり糖度を上げてから圧力釜で焼き上げるこだわり。だから無糖で、栗だけの糖度30%の甘み! しかも中には「葛ねり」が敷かれていて なめらか〜まるで「飲めるようなとろみ」です。全国配送されているで、ぜひ♪
*『PATISSERIE JUNKO』の『カトルカール(マロン)』
まるで「生感覚」!? 抜群になめらか〜な栗のカトルカールです。いわゆるパウンドケーキですが、箱をあけた瞬間から「フレッシュさ」が五感に伝わってきます。ナイフを入れたときのなめらかさも指先に感じてきますし、断面の見た目色ツヤが黄金色でキラッ! として、風味のよさもございます。生地のフレッシュさにフランス栗の風味がよくなじみ、安定した味のバランス。シェフに素材のこだわりを伺うと、基本素材の中でいちばん鮮度が重要になる「卵」は「小松産」にこだわっているそう。だからこそのフレッシュさなのですね。 栗は洋栗です。箱も形もスタイリッシュでギフトにもおすすめです。
(取材・文/Miki D’Angelo Yamashita)
【PROFILE】
里井真由美(さとい・まゆみ) ◎食・食文化の専門家としてテレビ、雑誌、ラジオ、webなどメデ
公式Instagram→https://www.instagram.com/mayumi.satoi/?hl=ja