今、若い世代からも、また海外からも熱い注目を浴びている昭和ポップス。昨今では、音楽を聴く手段としてサブスクリプションサービス(以下「サブスク」)がメインで使われているが、必ずしも当時ヒットした楽曲だけが大量に再生されているわけではなく、配信を通して新たなヒットが生まれていることも少なくない。
そこで、本企画では1970年、80年代をメインに活動した歌手の『Spotify』(2023年6月時点で5億1500万人超の月間アクティブユーザーを抱える、世界最大手の音楽ストリーミングサービス)における楽曲ごとの再生回数をランキング化。当時のCD売り上げランキングと比べながら過去・現在のヒット曲を見つめ、さらに、今後伸びそうな“未来のヒット曲”へとつながるような考察を、本人または昭和ポップス関係者への取材を交えながら進めていく。
今回も、シンガーソングライターの白井貴子に注目する。インタビュー第1弾では、自身初の著書となる『ありがとう Mama』(カラーフィールド出版刊)内でメインテーマとなっている在宅介護について語ってもらったが、今回は、彼女のライフワークでもある環境保全運動について、さらに第2弾の後半にして、ようやくSpotify人気曲に触れていこうと思う。
その前に、彼女の誕生日を見たところ、1月19日(1959年生まれ)ということは……。
「そう、ユーミン(松任谷由実、1954年生まれ)と同じなんです。以前ユーミンにお会いしたとき、“同じ誕生日よね!”と言ってくれました。そして、ふた言目に“(この誕生日ということは)あなた、二重人格でしょ?(笑)”って。ユーミンもそう感じているんでしょうか!? でも確かにそうかも! 二面性がある。ビートルズの影響だなと分析しているんですが、優しい曲からハードな曲、クラシカルな曲といろんなスタイルの曲を作っちゃうんですよね~」
チェルノブイリ原発事故や英国生活をきっかけに環境問題を自分ごとと捉え始めた
さて、ここからは白井が音楽活動と同じく力を注いでいる環境保全活動について語ってもらおう。近年、SDGsをスローガンに、自然との共生が声高に叫ばれているが、彼女はこんなブームになる30年以上も前からさまざまな活動に取り組んでいるのだ。まずは、そのきっかけを尋ねてみた。
「私はもともとビートルズが大好きで、例えば、ポール・マッカートニーが農場をやっていたり、彼の奥さんだったリンダ・マッカートニーがベジタリアンだったり、ジョン・レノンが家族を大切にしていてそのリアルな生活から歌が生まれたり、ジョージ・ハリスンがスピリチュアルな活動をしたり……。それを10代のころから見ていて自然と憧れを抱き、そんな彼らを尊敬していました。なのに、なぜ日本のアーティストの多くはやらないんだろう? って疑問だったんです。
また、1986年、チェルノブイリ原発事故があったのも大きな要因。発生から2年後に渡英した際、経由したモスクワの大きな空港が真っ暗だったんです。事故の影響かと思うとゾッとしました。そしてロンドンでは、当時出始めたオーガニックのブランドにハマって、自分の暮らしから健康にしていきたいと思いました。なにしろ私は22歳のデビュー以来、昼夜問わずの活動、睡眠を割いての7年間の過酷な毎日にすっかり疲れ果て、心も体もボロボロになっていました。20代ももうすぐ終わり、“もう自分は若くない”。鏡の前の自分を隠すように、楽屋でファンデーションを塗ってでも頑張る日々に限界を感じました。だからロンドンですべてを解放して、太陽の下で堂々とスッピンでも生きられる自分になりたかったんです! そんな経験を通して、オーガニックや環境保全への興味が強くなっていきました」
『ウルルン滞在記』『ひるどき日本列島』への出演を機に“ご縁”がつながった
白井は’90年に帰国後、日本での音楽活動を再開し、さらには’96年から、NHKで正午過ぎに放送されていた紀行番組『ひるどき日本列島』のレポーターにも抜てきされた。
「日本に帰ってきたとき、音楽番組が一気に少なくなり、大ヒット曲の歌い手しかテレビに出られないという状況に変わっていました。だから音楽に限らず、自分の生き方を伝えられるのであればどんな番組でもありがたいと思っていたので、番組出演のオファーをいただいたときはとてもうれしかったですね。
このころは、同じ事務所のシャ乱Qと、どちらが有線放送のリクエストで1位になるかって、机を並べて電話をかけまくっていました(笑)。でも、彼らは大ヒットして、私はというと、そこそこ止まりで。“また私は80年代と同じヒットシステムに乗ろうとしているのか!?”と疑問を持ち、長年お世話になった大手事務所から独立させてもらいました。
そのころ、『世界ウルルン滞在記』(TBS系)でアフリカのセネガルに滞在する機会があって、まさに「音楽の原点」に触れられたことも大きな出来事でした。それを『ひるどき日本列島』のプロデューサーの方が見てくれていたんだと思います。あれから20数年、海で山で歌っていた番組のテーマソング『元気にな〜れ!』は、今では全国高等学校女子硬式野球選手権の“夏の大会”のテーマソングとして女子球児を応援しています。素晴らしいご縁の賜物です」
さらに、その『ひるどき日本列島』のリポーター出演から『南アルプスの天然水』のCMにつながり、そのキャスティング担当の推薦により、今度は『花王「弱酸性ビオレ」』のCMに出演。あのアニメーションのキャラクターにしては、珍しいほど語り口が自然な“ビオレママ”は、白井貴子だったのだ!
「CMが始まった当初はたくさんのビオレママがいましたが、最近は“ゆるキャラ”ビオレママも登場! あけみママの声担当、20年です」
「自然の中で自分を見つめ心を解放してもらいたい」とビーチクリーン活動に励む
そして’99年からは由比ヶ浜でビーチのクリーン活動を開始、さらに2018年から、静岡県の南伊豆や長野県の小谷村(おたりむら)で自然に親しむイベント『PEACE MAN CAMP』を企画・開催している。
「『ひるどき日本列島』やその後の『遠くへ行きたい』などの旅番組に出演するたびに、素晴らしい経験をさせてもらっているなあと感じていたんです。そこで体験した感動は、自ずと自分の曲にも反映される。自然と向き合い共生し、頑張って生きている多くのみなさんにお会いできたことは、生きるうえでの宝物だと実感しました。だから、この感動を直にファンのみなさんや次世代の子供達にも伝えたい! と思って始めたイベントです」
イベントには、北海道から九州まで全国から幅広い世代が参加するという。
「南伊豆では、地元の漁師さんのレクチャーのもと、海の生き物に触れて、ときにはその場でトコブシやウニをまるで縄文時代のように食べさせてもらうのですが、ファンの方たちも歓喜の声をあげるほどに盛り上がります。子どもだけじゃなくて、私たち世代のいい大人が“ここまで喜ぶとは!”って、私も驚きました! こういう体験をするうちに、やっぱりみんな、原始の自分に戻る。自分の命の源はスーパーやコンビニじゃない! この海なんだと認識し、その体験によって“海をきれいにしたい”って自然に思えるんじゃないでしょうか。だから海のゴミも当たり前い拾って帰るんです。
『PEACE MAN CAMP』は、コロナ禍になってからは中断していましたが、昨年の4月はみんなストレスを抱えていると思ったので、“外なら大丈夫!”と思い、勇気を出して開催。20年前に出会ったわが森、南伊豆の『マーガレットグラウンド』で大空の下、みんな声出しOKで、大声で歌ってもらいました」
このように自然と共生し続ける白井だが、自身の活動を通して番組やCMへの出演が決まったり、渡辺裕之が主演した茨城県の町おこし映画『桜田門内の変!?』にて「人生オセロ」という楽曲を提供したら、渡辺の出身地である水戸がたまたまオセロの発祥地だったことで喜ばれたり……。とにかく“偶然”と呼ぶにはあまりにもタイミングよく星のめぐりが連なっている。この不思議については、インタビュー第1弾でも紹介した白井の初著書で前回『ありがとうMama』にも綴られている。
中でも、20年以上も前に鎌倉の自宅でアナログレコーディングをしたときのエンジニアが小谷村に住んでいた! というエピソードは、ミラクルな出来事と言えるだろう。
「そのエンジニアの彼が当時スイスから購入してくれたアナログレコード用の機材が全部、うちの倉庫に眠っていたんです。そろそろ処分しないと……なんて思いながら、ズルズルと20年間も放置していて。それで彼に会ったときに、“あの機材を処分したいから一度見に来てもらえる?”とお願いしたら、“まだまだ使えるから小谷村に持って帰る”って言うんですよ。“えっ、まさか(自分の活動拠点である)小谷村に住んでるの!?”って、ビックリしました。
それにしても、ここ数年はアナログレコードがどんどん売れているとのことで、その古い機材がまた使える時代になったんですよね。ちょうど私も今年、アナログ盤を出そうと話を進めていたところだったので、あまりのタイムリーさに拍手でした。もし、時代がズレていたら、機材もムダになっていたでしょうね」
そういった流れから、今秋に’85年のアルバム『Flower Power』がアナログレコードにて復刻される予定だ。“Love & Peace”をテーマにした作風は、むしろ今の世代に響くことだろう。
Spitify人気第2位「ピローケースにさようなら」は海外で大人気! 本人の感想は
さて、ここからはSpotifyの人気曲を分析していこう。とはいえスペースの都合もあるので、今回は、本人も思わず“こんなに上位なんて驚きなんだけど!!”と口にした1曲だけ、先行して取り上げてみたい。
白井貴子のSpotify人気曲第2位は、’81年のデビュー・アルバム収録で後にシングルとしてリカットされた「ピローケースにさようなら」。当時は、シングルもアルバムも週間TOP100に入っていなかった楽曲だが、白井貴子の初期代表曲「SOMEDAY」(事務所の先輩であり、ツアーのバックコーラスにも参加した佐野元春のカバー)の3倍近くも再生されているのだ。
実際、人気を調べてみたら、「Chance!」や「SOMEDAY」といったこれまでの代表曲の海外比率は約1割なのに対し、この「ピローケースにさようなら」は真逆で、約9割が海外のリスナー。国別のTOP5を見ると、アメリカ、インドネシア、フィリピン、日本、タイの順で、日本のリスナー数は第4位。また、この曲から波及したのか、白井貴子全体のリスナー(月間約1.5万~2万人)のうち約6割が海外勢となっているのだ。特に、シティポップ・ブームが訪れてからは、「ピローケースにさようなら」が常時1位に。確かにこの曲は、穏やかなポップス調でキラキラとした日差しを感じさせる陽気なアレンジ、そしてブームの中心にいる竹内まりやとも共通するクリーミーな歌声で、海外のリスナーが掘り当てても不思議ではない。
これまでのベスト盤にもあまり選ばれていない楽曲がこれほど人気であることを、本人はどう感じているのだろうか。
「この曲は近年、本格的に演奏したことがなくて、アコースティックで何度かやったことがある程度でした。でも改めて聴いてみると、この軽やかさが今の人々に支持されているのはわかる気がしますね。もしも海外で歌うチャンスがあれば、歌ってみたいです!」
◇ ◇ ◇
「私は天からもらうような感覚で曲を作ることが多いんですよ」と語る白井。こうしたスタンスもまた、自然と共生しているからこそ成し得る技なのだろう(そういえば、冒頭に登場する同日が誕生日のユーミンも、“宇宙からのメッセージ”といったことをよく語っている気がする)。最終回となる次回は、Spotifyでの人気曲全体、そして人生を楽しむコツなどを語ってもらおう。
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
【PROFILE】
白井貴子(しらい・たかこ) ◎1959年、神奈川県生まれ。シンガーソングライター。フェリス女学院短期大学音楽科卒。卒業時期よりアマチュアバンド活動を開始し、1980年、ソニーSDオーディションにて、初の女性アーティストとして合格し翌年デビュー。’84年、『Chance!』のヒットを機に“ロックの女王”と呼ばれ、日本の女性ポップロックの先駆者的存在となる。’88年、ロンドンに移住。帰国後、音楽活動を再開し、作詞・作曲活動やアルバム制作、ライブ活動などを行う。また、環境保全にまつわる活動にも積極的に取り組み、神奈川県環境大使も務めている。’23年5月には、母の介護生活についてつづった初の著書『ありがとう Mama』(カラーフィールド出版刊)を発売。同時に「Mama」の楽曲&MV配信。
『Flower Power Initiative』アナログ盤復刻、今秋に再発売予定!
→詳細は’23年7月20ごろから、公式HPにて
◎白井貴子 公式HP→
https://takako-shirai.jp/◎白井貴子 Facebook→https://www.facebook.com/rod.takako.shirai/?locale=ja_JP